レンの日常 1
新章始めます。
更新が滞りまして、申し訳ございません。
ただ、しばらくは不定期の更新となります。
よろしくお願いします。
「あーっ、わらった! にいたま、こっちみてわらったよ。かあいいねー」
ぼくはベビーベッドに寝ている小さなお姫様に人差し指をにぎにぎされて、ご機嫌ですっ。
生まれたばかりの妹と離れて王都へ行き、第三王子のウィルフレッド様と闇の上級精霊ダイアナたちと公爵家乗っ取り事件とそれにまつわる瘴気の魔道具の企みに巻き込まれたけど、無事に解決して戻ってきたぼくたち。
戻ってきたら、すぐに家族みんなで、辺境伯のハーバード様たち一家も一緒に教会を訪れ、赤ちゃんたちの名付けの儀式に参加してきました。
兄様の説明によると、この世界では生まれて半年経ったら教会で子供の名前を創造神様に告げる、名付けの儀式があるんだって。
んゆ? 名前って生まれてすぐに決めるんじゃないの?
こちらの世界では、怪我を治すポーションや病気も治す【治癒魔法】もあるのに、出産する際の危険は高く、生まれたばかりの赤子が儚くなることも珍しいことではないとか。
だから、生まれて半年経ってから名前を付けて正式に国民として認められるんだって。
ブリリアント王国は生後半年だけど、別の国では七歳まで国民登録できない国もあるとか。
ちょっと話がずれちゃったけど、可愛い妹の名付けの儀式に参加できてよかった!
ジャジャーン! ぼくの妹の名前は「フレデリカ」ちゃんです!
かわいい!
愛称は、フリッカなんだけどぼくが上手に言えないから「リカ」ちゃんになりました。
ハーバード様の次男、ユージーン様の弟君も同じ日に同じ教会で名付けの儀式を受けました。
お名前は「バーナード」様です。
リカは、母様に似たふわふわの茶色の髪にキラキラの金瞳だけど、今はベビーベッドでじたばた足を活発に動かしているから、もしかしたらお転婆さんかもね。
バーナード様は、どちらに似ているのかな?
「もう少ししたら、寝返りができるようになるかもしれないね」
兄様が優しくリカの頭を撫でる。
「そうしたら、すぐにハイハイを覚えてあちこち動き回りますね。つかまり立ちをして歩くようになって、本当に子供の成長は早いですから」
ベビーベッドを覗き込むぼくたちの隙間からひょいとリカを抱き上げて、ソファーに座る母様までリカを運ぶ女性はリカの乳母だ。
「でも、夫婦そろってブルーベル辺境伯家にお仕えできて嬉しいですわ」
そう、この女性の旦那さんは、あのアースホープ領で行われた春花祭で出会った『天色の剣』のお花を作ったシードさんなんだ!
彼は春花祭でぼく好みの兄様の色合いそっくりのお花を作っていたけど、ちょっと春のお花にしては人気がなくて賞は取れなかったんだよね。
でも、ぼくがすっごく気に入ったから父様がハーバード様にお話しして『天色の剣』はブルーベル辺境伯家の象徴の花として栽培されることになった。
シードさんは、もともとあちこちフラフラと住まいを変えていたんだけど、ここブルーベル辺境伯領地に移住して花の研究に専念することに。
あのブルーフレイムの街にも行って色々と土壌を調べたり火山に登って植物を採取してきたりしたそう。
すっかりブルーベル辺境伯領地を気に入ったシードさんは、ここで腰を据えて花を育てていくことにしたので、ハーバード様が研究室として騎士団の一室と辺境伯家の温室と畑の一部を貸与してあげたんだ。
通うのに楽だからってシードさんは騎士団の家族寮に住んでいるんだよ。
父様と母様は、辺境伯家の筆頭執事セバスティアゴの奥さんに乳母を頼むつもりだったんだ。
でもねぇ、レイラ様も同じ時期に出産になってしまったから、急遽乳母探しを始めることになってしまって……、シードさんの奥さんが赤子を抱いているのを見て神様のお導きと母様は感動したらしい。
シードさんの奥さん、リカの乳母はバドさんという小柄で深い緑色の瞳が優しい人で、ぼくも大好きです!
ちなみにティアゴの奥さんも辺境伯家で働いているよ。
料理人なんだって、じゅるり……辺境伯家のおやつも美味しいんだ!
「……うー!」
「あいたたた!」
ぼくが他のことに気を取られていたのがわかったのか、リカが小さな手でぼくの髪を掴んで引っ張った。
「あらあら。だめよ、お兄ちゃんが痛がるでしょ。放しましょうね」
母様がリカの指を一本一本解いてくれる。
「レン、大丈夫?」
「あい!へいき」
リカの悪戯ぐらい、なんでもないよ!
ぼくたちは、しばらくかわいいリカの顔を見たら部屋から出されてしまう。
今はまだ、短い時間しかリカと一緒にいられないんだ。
くすん。
「もう少ししたら、一緒にご飯を食べて遊べるようになるよ。……母上とも一緒にね」
兄様がぼくの頭を何度も撫でてくれる。
「あい」
そうなんだ……リカともちょっぴりとしか一緒にいられないけど、母様とも短い時間しか会えないんだ。
ちょっと……寂しいな。
ぼくがしょんぼりしてしまったのを気に病んだ兄様は、お昼ご飯まで時間があるからと騎士団の訓練場へ連れてきてくれた。
兄様が今日も朝早く起きて剣のお稽古をアリスターとしていた場所。
ぼくは、今日もお稽古に置いて行かれた。
赤ちゃんは苦手だとぼくの部屋で寝ていた白銀と紫紺と真紅も一緒。
チロは兄様の肩に乗ってべったりとくっついているけど、ぼくの友達のチルは、ビューンと飛んで遊びに行ったまま帰らない。
ま、のんびりしていたらチロに浄化の訓練に連れ出されて四苦八苦する羽目になるからね。
お昼ご飯の前の騎士たちは武器の手入れや料理当番で大量の野菜の皮剥きをしていたりするから、訓練場はガランとしている。
「だれもいないねー」
「そうだね。アリスターたちは馬の世話かな? 泉に行ってみよう」
「あい」
兄様とお手々を繋いで、てちてちと歩いて移動します。
白銀がチラチラとこちらを見るけど、背には乗らないよ?
兄様とまったりゆっくりとした時間を過ごすのが目的なんだから!