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事件発生 3

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辺境伯領の騎士団は、王都の騎士団より強い。

アストラ大陸一の強さを誇ると言っても過言ではない。

けっして大国ではないが豊富な穀倉地帯と潤沢な資源を持つブリリアント王国が、他国に侵略されずに友好関係を保てているのは、ブルーベル辺境伯騎士団の存在が大きい。


その騎士たちの憧れ、ブルーベル辺境伯騎士団の団長自らが選抜した精鋭の騎士たちが、怯えて顔を青くしていた。


「だ・か・ら!どうしてレンが拐れるのよっ!」


「そうだ!だいたい出かけるなら俺たちは仕事なんて行かなかったのに!」


神獣フェンリルと聖獣レオノワールが人化したまま、大激怒しているからだ。

フェンリルの白銀は、怒りで魔力が暴走しかけて体の周りにパチパチと放電しているし、レオノワールの紫紺も魔力の暴走で、足元に小さな竜巻を幾つもビュルルと生じさせている。


その人外ふたりの前に、毅然と立つ団長ギルバート。

ビビッている騎士たちは、そんな団長にますます心酔していくが、ギルバートも怒りで少々感覚が可笑しくなっているだけだった。


「レンと繋がっているふたりは、レンの危機は感じなかったのか?」


額にいくつもビキビキ青筋を立ててにじり寄るギルバートに、紫紺があっ!という顔をした。


「そういえば、ゾクッときたときがあったような…」


「な!なんでそのときに気が付かないんだよっ」


「あ・の・ね!そのとき、アンタが止めればいいのに、マッドベアの持っている蜂の巣を叩き落とすからでしょ?おかげで怒り狂ったマッドベアとクイーンアスプの蜂軍団とやり合うことになったのよ!」


「あ……。いや、だって、蜂蜜持って帰ったらレンが喜ぶと…思って」


白銀は、誰よりも大きな体を小さく縮こめるようにしゃがみ、両手で頭を庇うように覆う。


「とにかく、レンがどこに連れて行かれたか、わからないか?ここで、車椅子や防御の魔道具が捨てられていて……」


クンクンと鼻で何かを嗅ぎ取ろうとするふたり。


「わかる。でも真っ直ぐ向かうのはダメなんでしょ?レンが通ったままに追いかけた方がいいのよね?」


「ああ。誰が二人を拐ったか…。おおよそ見当は付いてるが、証拠も必要なので」


「じゃ、ついてきな」


ふたりは、ボワンと獣体に戻る。大きさは最初に出会ったときの大型の姿で。

ギルバートは騎士たちに合図を送り、自分も愛馬に跨った。




ぼくの右手には、濃い青色の短髪の男の子の妖精さんがふわふわ。水色のワンピースみたいなお洋服を着ている。

もうひとりも同じ格好しているけど、薄い水色の長い髪をツインテールに結んだ女の子が、左手にふわふわと浮かんでいる。


「にいたま、みえない?」


「うーん。キラキラしているのはわかるけど」


兄様は床に寝っ転がったまま、キレイな碧眼を細めて妖精さんを見ようとしている。


『まあ、おれたちが、いるのがわかるってことは、まりょくはおおいやつだな』


「にいたま、こえは?」


「全然、聞こえないよ。残念だな」


ふよふよと女の子の妖精さんが、兄様の頬にべったりとくっつく。スリスリしている。

めちゃくちゃ、気に入られてますよ?


『おまえ、おもしろそうな、ちからだな!おれ、きにいった』


おうふっ。ぼくも気に入られました。

面白い力ってなに?シエル様が何か能力を付けてくれたのかな?

ぼく、知らないけど。


『ところで、こんなところで、なにしてるの?あのおやじだれ?』


ぼくが説明するのは噛み噛みのお口では無理なので、兄様に話してもらった。

キラキラしている光の玉に向かってお話しするのに、困った顔してたけど。


『そのフェンリルとレオノワールを、おれたちが、よんできてやろうか?そうしたら、レンたちはにげられる?』


「できる?」


『ああ。しんじゅうなんて、まりょくが、けたちがいなやつ、すぐわかる』


男の子の妖精、チルが小さな胸を張る。

女の子の妖精、チロが兄様の頭の上から頷ていてる。


チルとチロの言葉を兄様に伝えると、


「……。頼む。レンだけでも助けたい。白銀と紫紺なら、レンの名前を出せばすぐに助けに来てくれるから」


『じゃあ、レンの、かみのけ、もらうぜ』


プチンと髪を一本抜かれた。

ぼくの髪の毛を持ってふよふよ扉の方へ飛んでいくチルの後を追いかけて、チロがバッビュンと飛んでいく。

あれ?早くも飛べるんだ、妖精って。ふよふよするのが精一杯だと思ってたよ。


『よこしなさい、それ。ワタシがいく!』


チルの背中をゲシッと蹴って、ぼくの髪の毛を奪ってチロはそのまま扉をすり抜けて行ってしまった。


「だいじょぶ?チル」


とてて、とチルに駆け寄ると、背中にチロの足跡をつけて情けない顔をした妖精がしょんぼりしてた。


『おれが、いこうと、おもったのに~』


両手で掬うようにチルを抱き上げて、兄様のところへ戻る。

兄様はなにがなんだか分からないって顔をしていた。




(まずいな……)


白銀と紫紺は、俺の願いを聞いてレンたちが連れ去られた道を辿って走っている。

そのスピードも、俺たちの乗る馬の速度を考慮して、かなり緩めてくれているんだろう。

ふたりが頻繁に森に向けて、視線を送るのに気が付いた。


(二人は森にいるのか…)


貴族が森に入ることはほとんどないだろうから、二人を連れ去ったのは、貴族に雇われた()()()()()()らだろう。

荒事も平気な奴らだとしたら、二人が無事でいられるのか…。

俺も焦る気持ちが抑えられない。


白銀と紫紺は街を守る防御壁沿いに出たあと、ひとつの通用門で足を止める。


「ここから、森に出たみたいよ」


「ここは…たしか、子爵用の通用門か……」


壁には通常の門が幾つかと騎士団用の門がある。

そして、辺境伯分家用の門も幾つかある。そのひとつからレンたちは連れ去られ、森へと進んでいる。


「団長、この子爵は()()一派のひとつです。やはり、あちらの件と繋がっているのでは?」


「ああ…、そうだな」


これで、今回の二人の誘拐が、辺境伯の分家どもが起こした相続問題だと確信が持てた。

辺境伯が代替わりをしたときから行われた、数々の辺境伯嫡男の暗殺未遂。

そのため辺境伯嫡男は辺境伯夫人と共に、前辺境伯の所へ避難させることになったのだ。


そしてヒューバートとレンの誘拐。

これは、分家の誰かを次期辺境伯とするための奸計だ。

そして、ヒューバートの馬車の事故もおそらく無関係ではない。


「おい、ギル。行くぞ」


「ああ。ヨハンはこのことを辺境伯に報告し、子爵捕縛へ加わってくれ」


ヨハンと呼ばれた騎士は、ハッと敬礼したあと馬首を返し去っていく。


「森に入るぞ」


他の騎士に声を掛け鐙に力を入れたところで、白銀から変な声が漏れた。


「ぶっ!」


べちゃ、と何かが顔面にへばり付いたが、誰も見ることはできなかった。


「アンタ、何してんの?」


「なんだ!これは!くっそう、離れろっ、はーなーれーろー!」


ぺいっと白銀の顔から剥がされた何か…妖精のチロは、白銀の髭を掴んでぶらーんとぶら下がる。


「イテテテテ」


「ほんと、何やってんのよ。それどころじゃ…。あら、この子が持っているのレンの髪の毛じゃないの?」


ふんふんと、チロが持っているものの匂いを嗅ぐ。


『レンがよんでるわー。ワタシと、いっしょにくるのよー』


ぶらーんと揺れながら、その小さな妖精は勇ましく叫んだ。



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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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