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ただいま 2

ガタンゴトンと馬車に揺られて王都を出て、一番近い村の外れにある教会っぽい建物に着きました。

乗ってきた馬車はここでぼくたちを降ろして、王都へと帰ります。

騎士さんとリリとメグは、馬車に積んでいた荷物をせっせっと建物の中へと運び入れて行きました。


「はーっ。白銀たちが転移魔法を使えるようになったら便利なんだけどなぁ」


父様のキラキラ金髪には、まださっきの石の欠片が付いてますよ。

ちょいちょい。

ぼくが背伸びをして払ってあげます。


「ありがと、レン。これから転移しても、待っているのがホワイトバート公爵家のあの嫌味家宰かと思うとうんざりするぜ」


父様の言葉にアルバート様たちがうんうんと同意します。

そうだった! ぼくたちが王都に向かうときに転移門を借りたホワイトバート公爵家のおじさんは意地悪だったんだ!

充分な魔力が充填されていない魔石を使って転移しようとしたぼくたちは、転移魔法の途中で魔力不足で放り出されるところだったんだよ!

神獣聖獣の白銀と紫紺がいてくれたから、必要な魔力は補充されて、無事に王都まで行けたけど。

ぼくは、自分のほっぺがぶーっとなるのを止められません。

兄様がチョンチョンと指で膨れた頬を突いてくるけど、許さないんだからっ!


「今度はこちら側からあちら側に移るから、大丈夫だろう。……嫌味は言われるかもしれんが」


渋い顔になる父様たちと、なぜか臨戦態勢の白銀と紫紺と……微笑むナディアお祖母様。

あれ? なんかナディアお祖母様の背中からひんやりとした冷気が漂ってくるような?


「ほら、中に入りなさい」


父様に促されるままに建物の中に入ると、王都屋敷から随従してきた使用人の一人が外から扉に鍵をかけました。

ぼくも気合を入れて、よしっ! 大丈夫。

父様が台の窪みに王家から渡された魔石をセットする。








揺れもなくあっという間に転移したみたい。

転移門に描かれた魔法陣も一瞬で光ったし。


「レン、大丈夫?」


「あい。にいたまも?」


僕も大丈夫だよと兄様が優しく微笑んで、ぼくの頭をナデナデしてくれました。

扉の鍵が外から外されてガチャッンと音とともにギギィと扉が開いていきます。

ぼくはあの意地悪な人が来ると思って、ギュッと両手を握りました。


「大丈夫でしたか? ブルーベル辺境伯騎士団長様たち」


穏やかな低音でそう告げたのは、だあれ?


「あら、貴方はホワイトバート公爵家の王都屋敷にいたはずではなくって?」


ナディアお祖母様が不思議そうにその男の人を眺めます。


「ええ。主人から先日こちらの屋敷の者に不手際があったので、再教育を申し付けられました」


深々と頭を下げた後、恭しい手つきで父様に一通の封書を渡す。


「これは?」


「……主人からの詫び状かと。本当に申し訳ございませんでした」


その後は、建物内のぼくたちの荷物を、ホワイトバート公爵家の使用人が次々と運んで、ブルーベル辺境伯の紋章が付いた馬車に積めてくれました。

そして、馬車の乗り込んだぼくたちを、使用人さんが一列に並んでお辞儀をして見送ってくれたよ。


「往きとは随分違う待遇ね」


ナディアお祖母様も苦笑せざるを得ません。


「詫び状には、今回のことだけでなくヒューのことも書いてあった。これは母上からハーバードに渡しておいてくれ。対処はあいつに一任するよ」


ポイッと興味無さげに封書を放って、父様は頭の後ろで腕を組んで一休みの体勢です。


「そうね。ブルーベル辺境伯として対処させましょう」


……家族の中で一番好戦的なのはナディアお祖母様かもしれない。

今も、目の奥に炎が爛々と燃えているようです。


そして、ホワイトバート公爵領地からブループールの街までの馬車の旅で、とっても暇になった父様たちは、体が鈍ったと言い必要のない森の中へ入って魔獣狩りをしてました。

そのせいで、お家に帰ったときは夜の時間で、ぼくは母様たちに「ただいま」が言えなかったの。

もう! でも馬車から眠ったぼくを抱っこしてぼくの部屋まで運んでくれたのは……たぶんセバスだよ。


「せばしゅ……。……いま」


「はい。おかえりなさいませ、レン様」









夜ご飯も食べずにぐっすりと眠ったぼくは、翌日、自分のベッドで朝早く起きちゃいました。


「ふわわわ」


大きな欠伸をして、体をよいしょと起き上がらせると……兄様はもういない。


「むうっ」


朝のお稽古に置いて行かれました。


「しろがね。しこん」


「はいはい。騎士団の訓練場に行くんでしょう?」


「ほら、着替えて行くぞ」


白銀と紫紺にお世話されていると、リリとメグが来て身支度を整えてくれました。


「では、いってきましゅ!」


伏せた白銀の背中に跨ってしっかりと首の辺りの毛を掴んで、紫紺の尻尾にぐるりと体を支えてもらいます。

白銀はのしっのしっと歩いて屋敷を出て、騎士団が訓練している広場へと向かってくれるのです。


「んゆ?」


白銀の頭に熟睡中の真紅が乗っているけど……いいのかな?

いつもなら「やーっ」とか「おりゃーっ」とか雄叫びが聞こえるのに、今日は静かですね?

どうしたんだろう?


「あら、騎士たちが一ヵ所に集まっているわね」


「ヒューとアリスターもいるぞ」


本当だ。

みんな、剣を手に持ったまま、一ヵ所に集まって何かを見ているみたい。

白銀にお願いして、その場所まで連れて行ってもらう。


「にいたま? アリスター?」


よく見たら、アドルフたちと副団長のマイじいまでいますよ?


「おお、レン。お帰り」

「マイじい。ただいま」


ところで、なんで集まっているの?

人の壁をすり抜けて一番前に出てみると、そこにあったのは大きな大きな……池? でした。


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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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