後始末 4
ウィルフレッド殿下とブルーベル辺境伯の王都屋敷で過ごす毎日はとっても楽しいの!
王子宮に閉じこもっていたウィルフレッド殿下と一緒に、いろんなことに挑戦! しました。
お庭でのお茶会も、騎士たちとの朝訓練も、厨房に入ってお菓子作りを手伝ったり、ナディアお祖母様とメイドさんたちの着せ替え人形になったり……。
王都に遊びに行きたかったけど、さすがにウィルフレッド殿下を連れて行くのは警護の面から難しく今回は断念。
その代わり、白銀と紫紺と籠に入った真紅も連れてお城の敷地内の森にピクニックに行きました!
お弁当……美味しかった。
お城には騎士団の訓練に強制参加している父様のかっこいい姿を見に行ったよ。
ウィルフレッド殿下と目をキラキラさせて、剣の打ち合いを夢中で見てました。
父様が後でこっそりと「陛下も見学していた」と教えてくれた。
本当は王様も剣のお稽古に混じりたかったけど、ウィルフレッド殿下がいるから遠慮したんだって。
子供の前で我儘を言っている情けない姿を見せるつもりか? と父様が脅かしたからだよと兄様が言ってました。
ウィルフレッド殿下大好きなエルドレッド殿下は、何度かぼくたちがお城を訪れているのに姿を見せることがなくって、不思議に思っていたら……。
「血の涙を流す勢いで仕事に邁進していた」
アルバート様がエルドレッド殿下の近況を教えてくれました。
どうも、一日でも早く大好きな弟王子のウィルフレッド殿下とお城で暮らしたいエルドレッド殿下は、寝食を投げうって仕事に没頭しているとか……。
「エル兄様。お体は大丈夫なのでしょうか?」
眉をしょんもりと下げて心配しているウィルフレッド殿下が不憫なので、一緒に作るのを手伝ったお菓子をお城に差し入れしました。
ウィルフレッド殿下のお手紙付きです。
そして、約束の十日間よりも早くウィルフレッド殿下のお迎えがお城から来ました。
ウィルフレッド殿下の身の周りの品は全て新調されてお城の王子部屋に用意されているので、ウィルフレッド殿下の荷物はとっても少ないです。
「いやいや。僕は体ひとつでこちらに来たのに……なんで馬車一台分の荷物があるのかな?」
それは、ナディアお祖母様の着せ替え人形になったからです!
ぼくたちも一緒にお城まで行きます。
ウィルフレッド殿下とせっかく仲良くなったのに、お別れは淋しいです。
「レン。ブループールに戻ったらお手紙を書く練習をしようね」
「あい!」
お手紙! それはいいことだと思います!
「にいたま。なんでディディ……ごきげん?」
そうなんです。
アリスターの契約精霊のディディが今日はとってもご機嫌の様子で、尻尾をフリフリとしてますよ?
「ああ……。たぶんダイアナの修行が終わるからだね」
火の中級精霊となってまだ日の浅いディディは「浄化」の能力を上手に使えません。
そのせいで、闇の上級精霊のダイアナさんからかなり厳しい修行を押し付けられていました。
そういえば、何度か泣きながら逃げてきましたね。
でも、ぼくたちと契約している水の妖精のチルとチロは、反対に「浄化」を教えろーっとダイアナさんに突撃していき、ぺしっと叩かれていました。
「ばかなの? 妖精が浄化なんてできるわけないでしょ。地道に下級精霊になることを目指しなさい」
何度ダイアナさんに諭されても、兄様のために「浄化」の力を手に入れたいチロは諦めません。
『チロー。おれ、もうやだー。あそびたーい』
チルの泣き言が毎日聞こえてきました。
「ディディ……。きれいにできるの?」
果たして逃げ回っていたディディは「浄化」が上手にできるようになったのでしょうか?
確か、前のディディは「浄化」を使おうとすると炎で物理的に燃やしてしまう失敗が多いと言ってましたけど?
「ああ。なんとか、失敗する確率が低くなったみたいだな。後は練習、練習、練習を重ねろって命令されている」
「ギャオウ」
アリスターの苦笑に、ディディの不服そうな声が重なった。
「無理はしなくていいよ」
兄様が優しくディディのスベスベな鱗を撫でました。
「おーい、そろそろ出発するぞー!」
最初の日に着ていた騎士の正装をした父様が大きく手を振ってぼくたちを呼びます。
「行こうか、レン」
「あい」
ぼくたちの後ろに白銀と紫紺も付いてきます。
真紅? 真紅は朝ご飯を食べて籠の中で惰眠を貪っているそうです。
お城の長い廊下をグネグネと曲がったり階段を昇ったりして、辿り着きました応接室です。
中に入ると、王様と王妃様とエルドレッド殿下……知らない人が二人います。
あれ? あれれ? あの人はもしかして?
「アルヴィン様。もうよろしいのですか?」
父様の驚きの声にアルヴィン様らしき人がソファーから立ち上がって父様へと手を差し伸べた。
「ええ。ギルバートには随分迷惑をかけてしまったね」
やっぱり! 王弟様のアルヴィン様だっ!
ベッドに横たわっていた姿しか見てなかったから、すぐにはわからなかったけど。
アルヴィン様の隣に座っていたのは、この国の宰相様であるダウエル侯爵様。
うん、お城でも何度か会った気はするけど……覚えてませんでした。
「助けてもらったから、一言お礼でもと思って。今日は兄上に無理を言ったんだ」
はにかむように笑ったアルヴィン様の頬はこけていて、まだ顔色もよくない気がする。
「ウィルにも迷惑をかけたね。すまない」
「い、いいえ! 僕のことは叔父様には関係ないです」
ブルブルと大きく頭を左右に振ったウィルフレッド殿下に、エルドレッド殿下が慌てて肩を支えてあげる。
「いや。私がジョスリンなどに惑わされたからだ。エリカから話は聞いていたので簡単に信用して……自分の目で奴の本性を確かめるべきだった。……ただ、当時はエリカに繋がるモノ全てが愛おしくてね」
目を辛そうに伏せるアルヴィン様にそっと寄り添うように背中を摩る宰相様。
「あの子が不憫で、つい評判の悪いジョスリンとの付き合いを許してしまいました。あの子には他に友達がいなかったのでね。だが……こんなことになるとわかっていたら、付き合いを止めていたのに……」
ギュッと眉根を寄せて苦しそうな宰相様。
なんで、そんな顔をするの? なんで、そんな悲しいことを言うの? どうして、自分を責めてしまうの?
あの日の彼女はそんな二人の姿を望んでいなかったのに?
「……かなちいの」
「レン?」
「わらってほちいの」
彼女が守っていたのは、後悔ばかりするアルヴィン様ではなく、愛した人の笑顔だったのに。