後始末 1
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ウィルフレッド殿下は、自分が住んでいた王子宮に悪い人が「穢れ」を増やす魔道具を置いていったことや、使用人たちが自分を虐めていたのは「穢れ」のせいだったこと。
叔父さんでもある王弟のグランジュ公爵様の病が悪い人の仕業で、ウィルフレッド殿下をその公爵家の養子にして、自分たちが贅沢三昧して暮らそうと企んでいたことを、今、知りました。
「そんなことが起きていたなんて」
「……エルドレッド殿下からお話を聞いたのでは?」
お庭にあるガゼボに座って話し合っています。
ダイアナさんは人化したまま、足を組んでガセボの屋根に座っているよ。
ウィルフレッド殿下は少し頬をピンク色に染めて、首を振りました。
「いいや。……エル兄様は、今までのことを謝ってくれて……。僕を王宮から出して別の宮に移動させたのも、僕のことを想ってのことだったと……そういう話で」
うん、まずは家族仲、兄弟仲を回復しようと考えたんですね!
「では、使用人たちの所業の理由とかも?」
「それは……聞いたよ」
ちょっと皮肉気に笑ったウィルフレッド殿下の話では、王様たちはなるべくウィルフレッド殿下に悪感情を持っていない使用人を選別して王子宮に配したらしい。
でも、王宮勤めで王族の近くでお世話ができるほどの立場に居たのに、王宮から出されて別の宮に追いやられる末の王子付きになることは降格されたと勘違いした。
そのほんの僅かな疑問や不満がグランジュ公爵夫人が持ち込んだ瘴気とその瘴気の「穢れ」を増幅させる魔道具のせいで、どんどん膨らんでいった。
自分たちを輝かしい場所から引きずり下ろした王子を貶めて、王族からの面会希望は全て王子の名前で断り、孤立させた。
王族として必要な教育も阻み、悪い噂をそれとなく使用人仲間に吹き込んで評判を落としていく。
末の王子は「いらない王子」と揶揄されるほどに。
「それは……辛かったですね」
兄様の言葉に、ウィルフレッド殿下はやや顔を俯けて一度だけ首を振った。
「いいや。全部、僕が悪いと思っていたよ。こんな姿で生まれてきた僕が悪いと。父様も母様もエル兄様、ジャレ兄様にも申し訳なかった。こんな出来損ないの僕にあんなに優しくしてくれたのに……僕は使用人にも忌み嫌われていて……情けないって」
「しょんなことないっ! ウィルさま、わるくないっ!」
ぼくは思わずそう叫んだ後、自分の大声にびっくりして両手で口を塞いだ。
それは……昔、ママと住んでいた頃、ぼくがおネエさんに言われた言葉だった。
ママに嫌われているのも、叩かれるのも、ママの友達に嫌ことを言われるのも、学校に行けないのも、全部全部自分が悪いと思っていた頃。
そんなときに「蓮は悪くないわよ! とってもいい子じゃないの!」と怒ってくれた同じアパートに住んでいたおネエさん。
「レン……」
兄様がぼくの顔を心配そうに覗きこんで、涙をいっぱいに溜めた目元をすうっと指で拭ってくれた。
「……ありがとう、レン。うん、今は僕もそうだと思う……思うようにしているよ」
あんなにエル兄様に泣かれてぎゅうぎゅう抱きしめられたら、嫌われているなんて思えないよって、はにかんだ笑いを向けてくれた。
「ウィル殿下は、王宮に住まいを移されるそうですから、これからはご家族とも、もっと会えると思いますよ」
「どうだろう? 忙しい方たちだからね。でも、やっぱり嬉しいよ」
なんでも隣国に留学中のジャレッド殿下も留学を切り上げて帰国されるらしい。
どうやら留学理由が、ウィルフレッド殿下のことで人族から別種族の子供が生まれることや類似的現象について調べていたらしい。
……うん、ブリリアント王家の皆さんも、ブラコン強めですね!
「あとは……僕のことを気に入ったという……闇の上級精霊のことか……」
はあーっと深くため息を吐くと、屋根の上からヒラリとダイアナさんが降りてきた。
「あら、迷惑そうね? ウィルったら」
笑顔のダイアナさんの目が笑っていません。
「迷惑ではないけど……なんで僕なのかな?」
「失礼ですが、ウィル殿下は闇属性魔法をお持ちとか?」
「いいや。あんな育ちかたをしたからね。真面な魔力検査は受けてないんだ。王宮に戻ったら魔力検査をして王子教育も見直しするつもりらしいんだけど」
そういえば、兄様は水の妖精のチロと契約したら水属性が生えたよね?
「私とは契約していないから闇属性は生えないわよ? でも、ウィルは先祖返りだからエルフ族並みに魔力は多いし、複数属性を持っているわよ」
クイッと、ダイアナさんがその細く長い指でウィルフレッド殿下の顎を持ち上げる。
「じゃあ、なんでダイアナはウィル殿下を選んだの?」
「あら、ヒューったらヤキモチかしら?」
クスクスと笑うダイアナさんの周りを、チロが高速で飛び回る。
『ちょっとー! ヒューのことヒューってよぶの、きんしー!』
ベシッと簡単に叩かれたチロに、ぼくの肩に乗っていたチルが『チローっ』と叫びながら救助に向かった。
「ウィルには協力してほしいことがあるの。だからその対価として守ってあげるのよ」
パチンとウィンクして黒いチョウチョに姿を変えると、ピタッとウィルフレッド殿下の頭に止まる。
「協力?」
「なんでしょうね?」
ウィルフレッド殿下と兄様が顔合わせて首を捻っていたけど、ダイアナさんは羽をパタパタするだけで、何も教えてくれなかった。
白銀と紫紺はダイアナさんのことなんてどうでもいいのか、二人して大きな口を開けて欠伸をしている。
籠の中の真紅は<腹減ったー>と文句ばかり。
いつのまにか屋敷に戻ってきたフィルに呼ばれるまで、ぼくたちはガセボでお喋りをしていました。
ウィルフレッド殿下と少しでも仲良くなれたかな?