闇の精霊 5
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いつも、ありがとうございます。
んと、んと……兄様の背中にすっぽり隠れて、ぼくは頭の中を一生懸命に整理します。
白銀と紫紺たちがお互いに戦っていたとき、確かシエル様はこれ以上世界が荒れないように神獣と聖獣を眠りにつかせたはず。
瑠璃と神獣エンシェントドラゴンはその限りではなかったけど。
んで、白銀と紫紺たちが黒いモヤモヤに神様の力を混ぜちゃったから、シエル様は精霊の王様を新しく創って、浄化の力を与えて黒いモヤモヤを消していくことにしたんだよね?
んでもって、白銀と紫紺たちは長い眠りから覚めて、ちょっとシエル様とは気持ちの距離が開いてしまったけど、ぼくの友達になってくれた。
うん、ここまではいいよね。
あの女の人がすっごく怒っているのは、肝心の精霊王の中でも、光の精霊王様と闇の精霊王様は、その黒いモヤモヤを消したときの力が完全に戻らず、まだ眠っているってことなのかな?
……でも、それは白銀と紫紺たちの責任じゃないと思う。
黒いモヤモヤに神様の力を混ぜたのは悪いことだったかもしれないけど、白銀と紫紺はそんなことになるなんて知らなかったかもしれないし。
精霊王様たちが目覚めないのは……正直、シエル様の責任だと思う。
チラッと兄様の背中から女の人を覗くと……わあああっ、背中から黒い触手がうねうねと生えて……いそぎんちゃくみたいになっている。
ぼくは、ひゅっと出していた首を引っ込めた。
なにあれ? ぼく……怖いよぅ。
「大丈夫か、レン?」
「怖くないわよ?」
ペロペロとぼくの頬を両側から白銀と紫紺が舐めてくれるけど……あの女の人、怖いことをしようとしているみたい。
ぼくは、無意識にギュッと瑠璃の鱗のペンダントトップを握った。
「呼んだか? レン」
ペンダントから光が溢れて、キラキラ、ピカピカ、眩しくで目を瞑ったら、ふわんと海の香りが鼻に届いた。
どうしたらいいんだ。
いきなり、闇の上級精霊と白銀たち神獣聖獣が剣呑な雰囲気になり、一触即発のピンチなんだが……。
ここには、ブリリアント王国の国王陛下と、その王弟グランジュ公爵もいる。
俺の母上もいるし、不肖の弟とその友、そしてかわいい息子たちがいる。
ヤバい……この戦いに巻き込まれずに、穏便に済ます方法はないのか?
闇の上級精霊の怒りもわからない訳ではないが、少々八つ当たりのような気もする。
「穢れ」が瘴気だったと聞いても、俺たちはピンとこないが、どうやら大昔にあった争いが苛烈になっていった原因であることは察せられた。
その責任の一端が神獣聖獣にあることも。
精霊王たちがその尻ぬぐいで、外れクジを引いたのも理解した。
つまるところ、この闇の上級精霊は、自分の主たる闇の精霊王が先の大戦の傷が癒せないままなのに、混沌を招いた神獣聖獣がのほほんとしているのが気に食わないのだろう。
その気持ちに同情もするが……、喧嘩するならどこか別の所でやって欲しいのが本音だ。
できれば、隔離された精霊界か、創造神の神界とか。
俺がアルバートに目配せをして、母上と陛下の二人を部屋の外に出そうと思った、そのとき。
レンから眩しい光が溢れ出した。
「レン!」
なんだ、なんだ?
これ以上、問題を起こさないでくれー!
「呼んだか? レン」
レンから切ないような悲しいような感情が流れ込んできて心配していたので、どさくさに紛れて転移してみた。
「るり」
儂の顔を見たレンの大きな瞳からは、涙がポロリと零れた。
誰じゃ! 儂らのレンを泣かしたのは!
儂の鬼の形相に、白銀が慌ててクイクイと顎でレンを虐めた奴を示した。
「お前かっ! おや、珍しい。闇の……名はダイアナだったか?」
振り向いたら、久しぶりに会う知己がいた。
闇の上級精霊の一人で、闇の精霊王近くに侍るダイアナという精霊だ。
儂の顔を見て、暫し呆然とした後、丁寧に頭を下げてきた。
「よいよい。久しいな。王は息災か? あちらともしばらく会ってはおらんが」
「はい。我が君は変わりなく」
そうかそうかと頷けば、白銀と紫紺が後ろで「はあああっ?」と叫んでいる。
うるさいぞ、人の世界では夜は眠る時間だろうに。
「いやいや、爺さん! そいつは俺らに精霊王は俺たちのせいで眠っているって」
「そうよ。やる気満々で煽ってきたのよ!」
白銀と紫紺が儂の両隣に立ち、グルルルとダイアナを威嚇し出したので、それぞれの頭をベチンと叩いておいた。
「ばかもの。それは半分当たりじゃ。光の精霊王は先の戦いの際、浄化の力を使い過ぎて眠っている。闇の精霊王はその光の精霊王に付き添っているのだ」
「「へ?」」
「お主ら……まさかと思うが。眠りから覚めた後、あの方の話をちゃんと聞かずに神界を飛び出したな?」
儂が目を眇めて睨むと、白銀と紫紺は揃って明後日の方向に顔を向け、真紅はなぜかヒューの手にしっかりと握られてジタバタと暴れていた。
「ふうーっ。愚か者め。だから、ダイアナと揉めていたんじゃな。いい機会だ、謝っておけ」
儂は白銀と紫紺の頭をそれぞれ片手で掴んで、グイッと床に額づかせた。
「おいっ! ジジイ!」
「痛いっ。痛いわー!」
ふん、同じ神獣聖獣としてこれ以上、恥ずかしい真似はしてくれるなよ。
「もし、レンが精霊のために力を使って眠りにつき……いつまでも目覚めなければどうする? その原因だった精霊をお前たちはどうするつもりだ?」
ふっと抵抗を止める白銀と紫紺。
「それは……」
「……そうね。許せないわよね」
やっと理解したか。
「すまんなダイアナ。幾たびも我らのことで不愉快な思いをさせる」
「「すみませんでしたー!」」
「ピイピーピー」
「しゅみませんでちたー」
……うん、レンまで膝を付いて土下座して謝らなくてもいいんだぞ?





