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ウィルフレッド殿下 5

ヒックヒックと、ウィルフレッド殿下が、肩を揺すり上げて必死に泣きやもうとしている。

ぼくは、そんなウィルフレッド殿下の姿にちょっとオロオロしてしまうのに、兄様はじっと殿下を見つめて動かない。


「あー、もう!」


突然、アリスターが叫んでウィルフレッド殿下の側に駆け寄った。

優しい手つきでウィルフレッド殿下の背中を摩り、ミルクティーが入ったカップを両手に持たせて、ゆっくりと飲ませている。


「大丈夫か? ゆっくりでいいぞ」


ウィルフレッド殿下の涙で汚れた頬を清潔な白いハンカチで優しく拭ってやり、頭をいい子いい子と撫でた。


「はあーっ。アリスター、殿下に対して気安いぞ」


「ヒュー。お前の態度が厳しすぎるんだよ。もう少し、にこやかに話せ」


アリスターの指摘に、思わずぼくもコックリと深く頷いてしまった。


「ぐっ」


ぼくがアリスターの意見に同意したので、兄様がすごく気まずそうな顔をして口をへの字に曲げてしまった。


「コホン。とにかく、今、王家とブルーベル家でウィルフレッド殿下のために動いております。殿下は、しばらくここで心を落ち着けてお過ごしください」


「くだちゃい」


ぼくも、ペコリと頭を下げておく。


「……わかった。よろしく頼む」


スンッと鼻を鳴らして、ウィルフレッド殿下が応えてくれた。


「ほら、殿下はちゃんと菓子を食べろ。ちょっと痩せすぎだぞ?」


「……うん」


ウィルフレッド殿下は、ぼくがお勧めした焼き菓子を遠慮がちに手に取ると、小さな口でカプッと齧った。


「おいしい……」


仄かに口元が上がったウィルフレッド殿下に、隣に座る兄様が「ほーっ」と息を漏らした。

ぼくもニコニコです。

アリスターもウィルフレッド殿下が落ち着いたので、トコトコと兄様の後ろの定位置に戻った。

これで、ようやく最初の目的でもある親睦を深めるお茶会ができるね。

そう思ったぼくを裏切るような金切り声が、右肩から上がる。


『あーっ! あいつは!』


チ……チロ……耳、ぼくの右耳!

うにゃと顔を顰めたら兄様が心配して顔を覗きこんできた。

ぼくの右肩にチロと一緒にいたチルは、ブーンと飛び上がって退避している。

両耳を手で押さえているから、ぼくと同じくチロの大声爆弾にやられた同士だ。


「どうしたの?」


「うー、おみみ、いたーい」


『あいつよ、あいつ! ここで、けっちゃくつけてやるぅー!』


チロが弾丸のようにビューンと飛んで行った先には、いつぞやの大きなアゲハ蝶もどきがフヨフヨ飛んでいた。


「ちょーちょ」


ぼくが指差す先を、兄様とウィルフレッド殿下が視線で追った。









フヨフヨ。

ビューン、ビビューン。


チョウチョがおかしい。

チョウチョはヒラヒラと飛んでいるのに、高速で突っ込んで行くチロの攻撃を余裕で躱している。

それどころか、兄様の近くにまで飛んできて、なにやら様子を窺っているみたい?


「……蝶々と友達?」


「いえ、まさか」


ウィルフレッド殿下の不思議そうな顔に、兄様も戸惑いがちだ。

兄様もなんでチョウチョが自分に興味を持っているのか、わからないみたい。


「なんか、甘い匂いでもしてんのか?」


アリスターがスンスンと兄様の匂いを嗅ぐ。

兄様はいい匂いだけど、本物のお花もいっぱい咲いているのに、わざわざ兄様の所に飛んでくるかな?

みんなが目で追っていたチョウチョは、大きくて綺麗な羽をブワッと動かした後、兄様の頭にピトッと止まった。


『ああーっ! また、ヒューにくっついたー! ゆーるーさーなーいー!』


チロが頭からバビューンと突っ込んでくるけど、チョウチョはヒラッと兄様の頭から離れて高く飛んで、チロの攻撃を華麗に避ける。

避けられたチロは空中で方向転換もできずに…………ズザザザザーッ!


『おわっ! チロー!』


頭から地面にスライディングを決めていた。

チルが同朋の惨状にブーンと慌てて飛んでいく。


「にいたま……」


「ああー……大丈夫かな? 僕は近寄れないんだよな……。アリスター、頼む」


「あ……ああ」


フヨフヨ。

そして、チョウチョはドヤ顔で兄様の頭に再び止まる。

パチパチ。

ウィルフレッド殿下は目の前で起きたことがよくわからないのか、高速で瞬きを繰り返していた。

たぶん、ウィルフレッド殿下は妖精の姿が見える人なんだろう。


「んゆ?」


「どうしたの?」


兄様の頭の上に止まったチョウチョがパタパタと羽ばたきをしています。

そして、その度に羽からキラキラとお粉が舞っているんだけど、これってなあに?

鱗粉なのかな? なんかキラキラしているのが兄様の頭に降り積もって……ない?

もしかして、兄様の体の中に吸収されてるの? え? 大丈夫なのかな?


「にいたまのあたま? おこながいっぱい」


「え?」


ぼくの言葉に咄嗟に両手を頭の上に持っていくけどチョウチョは兄様の手を器用に避けながらパタパタ。


『ん? んん?』


チロが自滅したのに、チルはぼくの右肩に戻ってきて、ちゃっかり片手にクッキーを持っている。


「どうちたの?」


『ヒューの()()()が……きえていくぞ?』


え?

ええーっ?

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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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