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ウィルフレッド殿下 4

アルバートたちと別れて騎士団の使う厩へ、自分が乗ってきた白馬を馬番に預ける。

大股で歩き進め城の中へと入りこむ。

今頃、陛下は執務室だろうか? 陛下だけに話すよりも誰か他にも自分の考えを聞いてもらったほうがいいのか。

考えながら歩き進めていると、いつのまにか城の奥にまで進んでおり、目の前にガシャンと扉前を守る衛兵が持つ槍を交差され制止される。


「おっと」


「失礼ですが、これより奥には……そのう……」


チラチラッ。


「ん? ちょっと陛下に用があるんだが、通してくれないか、俺はブルーベル辺境伯騎士団の」


「存じております。ですが……、ここを通すにはそのう……腰のモノが、少々……」


扉の左右に陣取る衛兵たちの視線が戸惑いがちに自分の腰に注がれる。


「ん?……あっ!」


しまった!

つい、癖で剣を腰に佩いてきてしまった!

前回は、騎士の正装で飾り剣だったので問題はなかったが、今は愛用の剣をしっかりと帯剣している。


「あははは。すまん、つい癖で」


失態に照れ笑いを漏らして、腰の剣を鞘ごと抜き、衛兵に差し出す。


「すまん。戻ってくるまで預かっていてくれ」


まだ若い衛兵二人は、揃って両手を前に出し左右に振りながら、器用に首も振る。


「いやいやいや。ブルーベル辺境伯騎士団、それも団長様の剣を預かるなんて……。そんなそんな」


「いやいやいや。変な遠慮なんかするなよ。俺は陛下のところまで行きたいんだから。剣なんか持って城の中をこれ以上歩けないだろう?」


融通の利かない奴に見つかったら、すぐに拘束されてしまう。

しばらく衛兵と俺とで剣の押し付け合いをしていたら、後ろから冷たい風がひゅるるる、と。


「何をしているんです? ギルバート殿」


振り向くと苦虫を千匹ほど噛み潰したような苦い顔をした宰相殿が、苛立たし気に立っていた。


「ああー、丁度いいところに。ダウエル侯爵、陛下に会いに行きたいんだが、これがちょっとな」


手に持った剣を高く掲げて主張させ、にっかりと笑ってみせた。


「はーっ。相変わらず粗忽ですね。ああ、いいです。私が責任を持ちますので、彼はそのまま通してください」


「「はっ!」」


扉の両脇に立っていた衛兵は重ねた槍先を元に戻し扉を開けてくれたので、城の奥へと通じる廊下へと宰相殿と一緒に歩き進む。


「ところで、陛下に何の用で?」


「わかっていると思うが緊急だから先触れなしで来た。ああ……ダウエル侯爵にも聞いてほしい話だな。……アルウィン様のことだ」


王弟、ダウエル侯爵にとっては今は亡き愛娘の婿殿、義理の息子のことだ。

冷静沈着な親父だが、片方の眉がピクリと反応をしたのを見逃さない。


「……急ぎましょう。たいへん興味がある話みたいですので」


「ああ、そうしよう」


あまり気分の良い話ではないが……放置もできない話なんだよな。











重厚ではあるが華美ではない扉を無造作に開くと宰相はズカズカと中に入り、書類仕事をややサボっていた陛下に冷たい一瞥を送る。


「な、なんだ、急に入ってきて? 宰相はさっき出ていったのにもう戻ってきたのか?」


羽ペンを手に持ちながら、ギャーギャーとうるさいアルフレッドの視界に入るように、俺もグイッと身を乗り出した。


「へ? どうしたギルバート。今日は呼んでいないぞ?」


「呼ばれてはいない。用があるから来た。アルヴィン様のことで気になったことがある」


陛下が病に倒れている弟の名前に、ガラッと顔付きを変えた。


「……わかった。人払いを頼む」


ベンと呼ばれていた従者に命じると、執務室の中にいた人が彼の誘導で外に出される。


「それで……アルヴィンの話とは?」


俺は、昨日母上とアルバートと話していたときに感じた疑問を陛下にぶつけてみた。


「そもそもジョスリンとの再婚からして疑わしいが、アルヴィン様の病とはなんだ? 王家なら大神官の治癒魔法を優先して受けることもできるだろう?」


ましてや、アルヴィン様はポーション調合の第一人者だ。

治癒魔法の前に自分で調合した高品質のポーションを接種すれば、先天性の病でない限り好転すると思うのだが?


「それが……。治癒魔法では病状が改善しなかったのだ」


陛下は、視線を下に落として気落ちした声で告げた。


「治癒魔法が? では病以外の可能性は?」


「呪術の類も調べさせたが反応はなかった。もちろん、あの女、ジョスリンの周りも徹底的に調べたが……やっぱりわからなかった」


宰相も渋い顔で小さく頭を振ってみせた。


「治癒魔法の効果がなく……呪いとも違う。いや、呪いなのか?」


「ギルバート?」


「似ているなと思ったんだ。病と怪我という違いはあるが、ヒューの状況と似ているな……て」


ヒューの足の怪我も治癒魔法が効かなかったし、神官が診たにも関わらず呪術の痕跡も見出すことができなかった。

ヒューの怪我は、もともと足に生まれつき障害があったせいで怪我が悪化したものと判断された。

しかし、ヒューの足の怪我は、水の精霊王の治癒魔法で完治し、そのときにヒューにかけられた呪いの解呪もされたと聞いていた。

だが……ヒューは本当に呪われていたのか? 


「ヒューバートの怪我は治癒魔法で治ったのだろう? 神獣様か聖獣様の治癒魔法なのか? アルヴィンにその治癒魔法をかけてもらえるのか?」


いや、違う……俺の予測ではアルヴィン様の病は「穢れ」が関係しているはず。

神獣と聖獣である白銀と紫紺が治癒魔法をかければ「穢れ」での症状が治るのか?

白銀と紫紺は言っていた、自分たちには「浄化」の能力がないと。


「穢れを祓うのは浄化の力。浄化の力は精霊の能力。……ヒューを治したのが精霊王の浄化の力なら、ヒューの怪我は穢れの影響だった?」


そもそも……「穢れ」ってなんなんだ?


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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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