穢れ 3
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まずは落ち着いて話を整理していこうと父様が提案したので、ぼくと兄様はソファーにキチンと座り直して、ぼくの足元で伏せていた白銀と紫紺も前足を揃えてお座りしています。
アリスターは特別にディディを膝に抱いてソファーに座るよう命じられて、カチンコチンで座っています。
アルバート様は変わらずお茶を飲んで焼き菓子食べての永遠ループを楽しんでいるよ。
父様もソファーに座って眉間にググっとシワを寄せて難しい顔をします。
でも、ぼくはその後ろで正座させられてフィルからお小言を貰っているリンがすごく気になる。
「まず、第三王子のウィルフレッド殿下のことだ。黒い髪に赤い瞳でエルフ族の耳の特徴が見受けられた。間違いないな?」
父様が騎士団団長らしい鋭利な眼差しをぼくに向けるので、ぼくはスチャッと敬礼して「はいっ!」と元気よく返事をしました。
ああー、父様が、にへらとふやけたお顔になってしまった。
騎士団長バージョンの父様が、とってもかっこよかったのにぃ。
「コホン。次に王子宮でディディが穢れを感じて、レンがそれを黒い靄として見えていた。間違いないな?」
ディディはコクンコクンと激しく頭を上下に振るけど、ぼくはちょっと考える。
「レン、どうしたの? 何か気になることがあるの?」
兄様が心配そうな顔を向けてぼくの様子を窺う。
「んー? おうじきゅうじゃないよ。いじわるそーなひととメイドさん。おばさんとそのこども? くろいのはそのひとたちからでてたよ」
王子宮全体が黒い靄に包まれてしまったけど、そもそもその黒い靄は使用人やメイドさん、公爵夫人とその子供からモクモクと湧いて出てきたんだもん。
「人から出てたのか? 建物が黒かったのではなく?」
「うん」
「ギャ?」
ディディは首を傾げてしまったけど、ぼくにはそう見えたんだ。
「団長。ディディは穢れがあるから嫌がって王子宮には入ってません。その……レンが言った意地悪な人というのは案内に出てきた男の使用人で、その者は穢れに侵されていたと」
「ふむ」
父様も兄様も、アリスターも、チロやディディが嫌がる「穢れ」が何なのかわからない。
妖精や精霊だけが嫌がるものなのかな?
「白銀と紫紺は、感じなかったのか?」
白銀と紫紺はお互いの顔を見たあと、頭を左右に振る。
「何も感じなかったし、見えなかったわ。嫌な感じもしなかったし危険もなかった。正直、穢れとかは感知したことないし。ただ、浄化については知っているわ」
「浄化は精霊王と上位精霊が持っている能力の一つだ。俺たちの後に創られたのが精霊王だからな……、俺たち神獣聖獣には浄化の能力はない」
うーむ、と唸って腕を組んで考え込んでしまった父様。
ぼくは、兄様の顔や肩や腕……とにかく体のあちこちを触ってみる。
「どうしたの?」
「にいたま、いたくない? きもちわるくない?」
水妖精であるチロが兄様が穢れを受けたと言っていた。
そんな正体不明なモノが兄様に取り込まれたなんて、健康状態が心配になる。
「大丈夫だよ。特に異常はないから。チロが近寄ってこないぐらいだよ」
兄様はニコニコと微笑んでいるが、ぼくの肩に乗っているチロは、兄様のご尊顔を近くで見れないせいかシクシク泣いている。
「アリスター、ディディは浄化はできないのか?」
「それが……。俺に付いていた穢れはディディの存在で消されたらしいんですが、契約者以外の浄化は、自信がないそうです」
「ギャウ」
アリスターにも穢れはあったんだけど、火の中級精霊のディディと契約しているから、くっ付いてたら自然と浄化できたんだって。
でも、契約者以外に浄化しようと思うと、火の精霊だから力加減を間違えて燃やしちゃうから、危険だそう。
ディディ自体が精霊としてはまだまだ修行中で、浄化の能力もあまり使ったことがないそうだし。
「にいたま、もえちゃ、やだ」
ぼくは、プルプルと頭を振る。
「……。しかし、今は問題がなくても後で弊害がでるかもしれないしな。明日は大聖堂に行くから、神官に頼んでみるか」
「父様。王子宮に入った僕とアリスターに穢れがあったらなら、レンは大丈夫なのですか?」
「んゆ?」
ぼくも、穢れているの?
『レンはへいきー。レンは、けがれてないぞー』
ぼくの肩の上で、兄様の浄化ができないディディに攻撃を加えようとするチロを抑えながら、チルが教えてくれる。
今、ぼくの右肩はとっても賑やかなことになっています。
「レンは平気なんだ。よかったね」
兄様はぼくの頭を撫でてくれるけど、ちっともよくないよ?
明日、大聖堂に行ったら兄様の浄化をシエル様に頼まなきゃ!
「とりあえず、ウィルフレッド殿下については母上が戻ってきてから確認だな。ヒューのことは明日大聖堂で神官に相談だ」
「はい」
父様は頭が痛そうにグリグリと眉間の間を揉んで、ぼくたちに部屋に戻っていいぞと言うけど、まだ戻らないよ?
「どうした? 疲れているだろう? 早く休みなさい」
「父様……一人占めするつもりですか?」
兄様がジト目で父様を睨む。
ぼくも、お口がへの字になってしまうよ。
「かあたまのてがみー」
だって、ブループールの街からのお手紙は騎士団副団長のマイじいからだけじゃなくて、母様からのお手紙もあるでしょ?
そして、そこには兄様とぼくのかわいい妹の育児日記だって書いてあるはずなんだ!