お城へ 4
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いつも、ありがとうございます。
王様は白銀たちと、ちょっと難しい話を始めてしまったので、ぼくは瑠璃の膝抱っこのまま兄様とお菓子の品評会をしてます。
ちなみに、王様の両手から恐る恐る渡された真紅は、ナディアお祖母様が受け取って籠の中へ戻されてシクシク泣いている。
ぼくは、兄様と選んだとっても美味しいお菓子を真紅の籠の中に入れてあげた。
<くっそう、俺様、神獣様なのにぃ。火を自由自在に扱える、すごい神獣様なのにぃ。ひっく。……これ、うまいな>
王様の話は、とりあえずブリリアント王家として神獣聖獣に無理難題を頼んだり、ぼくを利用して神獣聖獣をどうこうしようとは思っていません、という誓いだった。
ちゃんと書状も用意して、王様のハンコも押してあるんだって。
「これは、儂が持っていよう」
瑠璃が白銀の手から書状を奪い取って、懐にしまう。
同じような内容の書状は、ブルーベル辺境伯家にも送られていて、ハーバード様が保管しているらしい。
「ただ、他の貴族が何かとちょっかいをかけてきたり、外国からの干渉はあるかもしれん」
王家は正式にぼくや白銀たちには不干渉でいるようにお達しを出したが、そこを無視する困った貴族はいるから気をつけるようにと。
あとは、外国から正式に「神獣聖獣に頼みたい」と依頼が来たときに、ブリリアント王国として返事はできないから、ハーバード様に手紙を出す。
その手紙を白銀たちが読んで、返事を書いてもらって、正式にお断りするのが一番問題がないとのこと。
「私が勝手に断ったら、神獣様や聖獣様は我が国に帰属していると誤解されるからな。そんな誤解で戦が起きたらシャレにならん」
「その手紙はアタシが確認してハーバードに返事を書かせるわ。アタシの意志がその手紙に宿っているように細工もするから、疑われることはないわよ」
紫紺が長い足を優雅に組み替えて、ニィと口角をあげる。
「あー、俺にはよくわからんから、紫紺に任せるわ」
白銀いわく、自分に任せたら面倒だから直接行って断ってくるそうだ、物理的に。
物理的になぁに? それって暴れてくるってこと?
「ハハハ。紫紺殿、頼みました」
王様はちょっと引き攣った顔でわざとらしく笑うと、必死な眼差しで紫紺を見つめた。
白銀たちが「様」付けは、ぼくが萎縮するので「白銀」「紫紺」でいいと許したら、王家の皆さんは「殿」を付けて呼ぶようになった。
父様たちも呼び捨てなのにね。
難しい話が一段落した後は、久しぶりに会った父様と王様の雑談が繰り広げられる。
その中で、母様が産んだ赤ちゃんのことや、ブルーフレイムの街に作られた温泉施設のことが話題に上った。
王妃様は、特に美容に効果が高い温泉に前のめりになって質問をしていた。
「そう。そんなに素晴らしいのねぇ。いつかアンジェと一緒に訪れてみたいわ」
母様も温泉には心惹かれているが、まだ赤ちゃんを産んだばっかりだもんね。
でも、王家の皆さんが訪れたら、エドガー様は接待で大変だろうなぁ……。
ナディアお祖母様は、ブルーベル辺境伯領地が潤うからホクホク顔だけど。
「さて、儂はそろそろ帰るか」
瑠璃がよっこいしょと腰を上げる。
「レン。また会おうな。それまで白銀と紫紺をよろしく頼むぞ」
「あい!」
「なんで俺たちが面倒をかける側なんだよ?」
白銀と紫紺は、瑠璃の言い方に不満そうだけど、二人もなかなかのトラブルメーカーだと思います!
瑠璃がボワンと姿を消して、シュルルルと煙がペンダントの中へと吸い込まれていった。
それじゃ、俺たちもそろそろと父様が退出の雰囲気を醸し出した、そのとき。
「あ、あの。ヒューバートにお願いがあるんだが……」
それまで、ニコニコと会話を楽しんでいたエルドレッド殿下が、思いつめた顔をして兄様を真っ直ぐに見ていた。
「つまり、僕に第三王子のウィルフレッド様と面会してほしいと?」
コテンと首を傾げて兄様はちょっと困り顔。
「ああ。弟のウィルは極度の人見知りで、王宮ではなくちょっと離れた宮殿で生活している。限られた使用人以外は入れないし、俺たちもなかなか会えなくて」
エルドレッド様の言葉に、王様と王妃様も眉を下げて悲しそうな顔をされる。
宰相様は気難し気に顔を顰められているけど。
「俺とジャレッドは子供の頃に年の近い子息たちとお茶会とかして、いわゆる学友とか側近候補を揃えていったが、ウィルはそのお茶会すらも開けなかった」
王太子のエルドレッド様は十五歳でご学友も側近も問題なく作られて、あとは婚約者探しだけ。
第二王子のジャレッド様は十三歳で国内のお友達関係は問題ないけど、エルドレッド様が王位に就いたときに外交の助けになればと隣国に留学し交友関係を広げ中。
でも十歳の第三王子ウィルフレッド様はご幼少の頃から人見知りが激しくて、お側に仕える使用人すらも厳選して厳選して、王族としてはかなり少ない人数でお世話しているそうだ。
しかも、王宮にいると満足に睡眠、食事も取れないとかで、一人で別の宮殿でお過ごし。
「……あらかたの貴族の子息ではダメだった。ヒドイときは体調まで崩してしまう。だが、俺は諦めたくない!ウィルにも友達を作って楽しく日々を過ごしてもらいたい」
チラッとエルドレッド様は、ぼくを見た。
「んゆ?」
「いや、羨ましくてな。俺もウィルのことが可愛いのだが……ウィルは俺を怖がって近寄ってこないのだ」
しゅんと肩を落とすエルドレッド様が痛々しい。
結局、兄様は日を改めて第三王子が住む宮殿を訪れることを了承した。
王族からの頼みだから「NO」とは言えないけど……、ちょっと不安です。
「ぼくもいく」
「そうだな。レンと一緒に行ってくれ。悪いがこちらからの護衛はあまり出せない」
護衛騎士を付けようとなったときに、第三王子は酷い拒否反応を起こしてぶっ倒れて一週間ほど寝込んだそうだ。
「……本当に、僕が訪ねて大丈夫なのですか?」
「何が有っても不問とする」
王様の重々しい言葉がさらにぼくを不安にさせるんですけど?
そうして、ぼくたちは複雑な気持ちでお城をあとにしたのでした。
「んゆ?」
馬車の窓からお城を見ると、なんだか後ろの空に黒い煙が立ち昇っている。
「かじ?」
「えっ!!」
父様が慌てて馬車の窓を開けてお城の方向を見るが、そこには何もなかった。
「レン?」
「ありゃ? くろいの、きえちゃった」
「どこかで、焚火でもしていたのではなくて?」
ガタンガタンと馬車に揺られて、王都屋敷に帰るぼくはその黒い煙のことをすぐに忘れて、スヤーッと兄様のお膝枕で寝てしまいました。





