ブループールの街 5
ぼくの一日。
朝、兄様と一緒に起きます。
メイドさんたちに朝の支度をしてもらいます。
ぼくのお洋服とかは、兄様の部屋に入らないからお屋敷の二階のぼくが使う予定だった客間に置いてあるんだけど、毎日メイドさんが4~5着持ってきて、ぼくを着せ替えるんだ。
ちょっと、疲れちゃう。
そして、温かく濡らしたタオルで白銀と紫紺を拭いてもらったら、ぼくがふたりを軽くブラッシングする!
夜、お風呂に入った後に丁寧にブラッシングしてるから、朝は梳かすだけ。
準備が整ったら、セバスさんが迎えにきて、食堂に移動。
ぼくは安定の兄様の膝抱っこ。
いいけどね、楽チンだから。
みんなで朝ご飯。
ぼくは体が小さいからちょっとだけでお腹がいっぱい。父様はびっくりするぐらい食べるよ!
あ、白銀も朝からお肉食べてた…。
食後のお茶が済んだら、みんなで父様が仕事に行くのを見送って、兄様は家庭教師が来てお勉強。
ぼくは母様と一緒にサロンで過ごす。
母様は刺繍をしたり、読書をしたり、セバスさんやマーサさんとお屋敷の仕事をしたりしてます。
ぼくは、絵本で文字のお勉強。お絵かき。白銀と紫紺と遊ぶ……かな?
お昼ご飯は、時たま兄様は不在。
マナーのお勉強を兼ねて食べるんだって。
わー、たいへん。
ぼくは食べたあと、白銀と紫紺とお昼寝。
このときは二階の客間で寝るんだよ。
起きたら、午後のお茶。スイーツです!
場所は、お屋敷のサロンだったり、お庭のガゼボとか、温室だったりするんだ。
白銀と紫紺はお外に出たら、楽しそうに思いっきり走り回ってる。
その後は夕ご飯まで兄様と一緒。
絵本を読んでもらったり、文字を教えてもらったり、いろいろ。
父様が帰ってくるのを出迎えて、みんなでご飯を食べたら、もう、お風呂に入っておやすみなさーい。
え?普通だって?そうかな…。
ぼくはすごく宝物みたいな時間に感じてる。
欲しくて欲しくて諦めてしまった、家族の時間。
白銀と紫紺も一緒で、すごく大切な時間。
シエル様……ありがとうって毎日眠る前にお祈りしてるの。
ぼくに白銀と紫紺。それと家族を与えてくれて、ありがとうって。
…………。
…贅沢になってたのかな?ぼく…嫌な子になったのかな?
幸せな家族の日々は10日を数えた頃、ぼくの一日は少し変わってきた。
父様が仕事に行くのを、みんなで見送るのは同じ。
兄様はお勉強も同じ。
いつも、ぼくと一緒にいてくれた母様とは、別々。
「きょうも、ダメ?」
白銀を抱っこして、セバスさんに尋ねると、やや眉間に皺を寄せたお顔で首を振ります。
「今日も、です。奥様には辺境伯分家の子爵夫人が、連絡もなくご訪問されましたので…」
わかってる。
セバスさんが怒っているのはぼくにじゃなくて、その子爵夫人にだよね。
連絡もなく訪ねてくるのは貴族社会ではあり得ない。父様は騎士爵だけど前辺境伯子息だから、分家の子爵夫人が連絡もなく訪問するのは、やっぱりとっても失礼。
「ぶー」
ぼくは頬を少し膨らませて、トボトボお部屋に戻ります。
ぼくはひとりで階段の昇り降りができないから、慌ててメイドさんが追っかけてきた。
メイドさんに抱っこされながら移動中。
父様は現辺境伯の兄で、前辺境伯の長男だったらしい。
家督は弟に譲って、辺境伯騎士団の団長を担っている。
貴族相手にするより、剣を鍛えているほうが性分に合うとのこと。
もうひとり下の弟がいるらしいけど、この人も貴族社会から逃げて冒険者になりあちこちフラフラしているらしい。
「ふぅ」
メイドさんがジュースとお菓子を置いて部屋を出て行ったので、ぼくは白銀と紫紺と向き合って座り、ため息ひとつ零します。
「…レン、あんまり気にするな」
白銀と紫紺が心配そうに、てしっと前足を片方ずつぼくの太ももに置きます。
ふわああ!肉球!
あ、それどころじゃない。
「でも、ぼくのせい」
そう、母様がここ最近、連絡なしの訪問者に煩わされているのは、ぼくの存在のせい。
どうやら、辺境伯分家の皆様は、ぼくが正式に養子になって、ゆくゆくは父様の後を継ぐのでは?と勘ぐっているらしい。
いや、ヒューバート兄様がいるじゃん、と思ったが、兄様が車椅子生活で騎士になるのは無理だろうと考えてるんだろうな。
分家の皆様は自分の子供を養子に!といろいろアピールしてきたが、当然父様と母様は無視してた。
それなのに、出自の知れない子供を引き取ったと知った分家たちは、ぼくを養子にすることを撤回させ、今こそ自分の子供を!と母様の所に押し寄せて来ているらしい。
父様に訴えたら、剣で脅されるから、母様のところに来るんだって。
つまり、ぼくが父様の誘いに乗らずに白銀と紫紺と三人で暮らしていれば、母様たちに迷惑をかけなかったのに…て話。
…贅沢になってたのかな?ぼく……嫌な子になったのかな?
白銀と紫紺は一緒にいてくれるのに、父様も母様も兄様も、セバスさんもマーサさんも、みんなと一緒にいたい。
でも、迷惑だったら出て行かなくちゃ…ダメだよねぇ。
ぼくは、今日もひとり。
母様は話したくない人とにこやかに話さなきゃいけなくて、セバスさんたちは急なお客様で忙しそう。兄様は分家の人たちに会って嫌な思いをしないよう、午前も午後もお勉強になって、父様の帰りもこの頃遅いの。
ぼくは、段々思いに耽るようになって口数が減っていった。
笑うことも少なくなって、食べる量も減っていたらしい。
父様たちは、そんなぼくの様子に気づいていて、すごくすごく心配してたんだけど…。
白銀と紫紺が一緒だけど………ひとり。