お城へ 2
お城の騎士さんたちが開けてくれた扉を、フィルに抱っこされたままで通ります。
そこは、キラキラとした金色の家具がいっぱいあって、フカフカの絨緞には複雑な模様が施されていて、大きなシャンデリアが下がっている、ものすごく豪華なお部屋でした。
あんぐり、お口を開けて天井に刻まれた彫刻と古い天井画を眺めていたら、フィルの手で口を優しく閉じられました。
いつのまにか、父様とナディアお祖母様が王様たちに挨拶をしていたよ。
「久しぶりだな、ギルバート! 元気そうでよかった。この後、暇か? どうだ手合わせでも……」
「陛下。それは後で正式に招待して申し込んでください!」
王様らしい金糸銀糸をふんだんに使った刺繍の衣装に、縁に真っ白い毛皮が付いた赤いマントをしていた男の人は、ぼくが想像する王様のイメージより若い男の人だった。
父様と同じくらいかな? 透き通るような銀色の長い髪を後ろで括っていて、宝石みたいな紫色の瞳で、人気俳優さんばりのイケメンさんです。
そんなイケメン陛下をビシッと窘めたのは、こげ茶色の髪を後ろに流した水色の瞳がちょっと冷たいイメージの壮年の男性。
誰だろう?
たぶん、王様の隣にいてニコニコしている美人な女性は王妃様だよね?
その反対の隣にいるアリスターより少し年上の男の人は、王子様かな?
「ちょっとぐらいギルバートと遊んでもいいではないか……。ああ、そちらがヒューバートか? 怪我は治ったようだな、よかった、よかった」
陛下に声をかけられて、兄様がお礼を言って右手を胸に当てて深く一礼する。
「ギルバートの子供にしては出来がよろしいようで」
こげ茶色のおじさんが、毒を吐いたよ? 父様と仲が悪いのかな? 怖いよう。
「コホン。あまり、うちの息子で遊ばないでくださいまし、宰相様。孫が怖がりますので」
ナディアお祖母様が、ぼくの頭をよしよしと撫でてくれる。
「ふむ。その子が養子に迎えた子供か。……かわいいな」
父様たちが陛下の言葉に「でしょう?」と言わんばかりに頷くのは、恥ずかしいので止めてください! フィルも深く頷かなくてもいいよっ。
ぼくは顔を真っ赤にしてフィルの胸に顔を埋めたんだけど、思い切って自己紹介しました。
「レン・ブルーベルでしゅ! よろちくおねがいします」
あわわ、噛んじゃったよー。
みんなで、ハハハと軽く笑い合ったところで、改めてソファーに座りました。
王様は父様よりちょっと年上でアルフレッド様。
昔、じいじ、ロバートお祖父様が剣術を教えていたのと、父様が一時期王都の騎士団に所属していたことで、王様とは剣術仲間なんだって。
父様は、王様はいつも顔を合わせると剣を持って追いかけてくるから苦手だそう。
王妃様は、淡い緑色の艶やかな髪を結い上げて、優しい琥珀色の瞳を細めて微笑んでいる素敵な人だよ。
お名前はクラリス様で、実は母様とはお友達なんだって!
王子様は、第一王子様で王太子様! 陛下に似たキリリとした顔立ちなのに、お話ししていると気さくで陽気なお兄さんだった。
髪や瞳も王様に似ているけど、今は隣国に留学中の第二王子様は王妃様に似ているんだって。
そして、ちょっと怜悧な壮年の男性は、宰相様だった。
王様の臣下の中で、とっても偉い人です。
どうも、ブルーベル辺境伯だったときのロバートお祖父様に散々手を焼いていたみたいで、辺境伯家には厳しい人らしい。
ロバートお祖父様ったら……。
今はハーバード様が辺境伯でとっても嬉しいって言ってたけど、次はロバートお祖父様によく似たユージーン様が辺境伯なんだよね?
ご愁傷様です……て思っちゃった。
しばらくは、大人たちが懐かしい話に花を咲かせていたから、ぼくはせっせと兄様から差し出されるお菓子を食べていました。
もぐもぐ。
「ところで、レンが契約した神獣様と聖獣様のことだが……」
んん? やっと本題かな?
ぼくの足元で、フィルから貰ったお菓子をはぐはぐと食べていた白銀と紫紺が、頭を上げてぼくを見る。
「けいやく、ちがう。おともだち!」
ここは、とっても大事なことだから、間違えないでほしいんだ!
王様は、ぼくのお友達宣言に目を丸くしていたけど、宰相様がため息を吐いて「ブルーベル家はみんなこうだ」と呟いたら、ワハハハと笑ってくれた。
「そうか、そうか。お友達か。それは悪かった。許せ。レン、私たちにもお友達を紹介してくれるか? 後ろの騎士も、精霊を紹介してくれ」
「はっ!」
アリスターは、ぼくたちと一緒にソファーには座らず、後ろで立っていたんだけど、緊張でガチガチだね? 直立不動ってかんじ。
ディディの丸い胴体を両手でわし掴み、グッと自分の頭の高さまで持ち上げて、大声を放つ。
「わ、私が契約しました、火の中級精霊のディディです!」
……ディディが掴まれたところが苦しいのか、ものすごくジタバタしているけど、大丈夫?
「アリスター。ディディをこちらへ」
見かねた兄様がアリスターからディディを取り上げて、ぼくの膝の上へ。
なんとなく、そのスベスベな背中を撫でてあげる。
「ギャウ」
ディディが気持ち良さそうに目を閉じた。
「ほう。こうしてみるとかわいいな」
王様はトカゲは大丈夫なのかな? 王妃様も珍しそうに凝視しているから大丈夫みたい。
「それで、レンの足元におわすのが……神獣様と聖獣様ですか」
宰相様の緊張した声色に、ぼくはきょとんとした顔でコクリと頷いた。
でも、白銀と紫紺だけじゃないんだよ?
ぼくは首から下げていたペンダントを握る。
「るーりー」
ちゃんと、王様たちにみんなを紹介しないとね!