お城へ 1
リリとメグに朝から身支度であちこち磨かれているぼく、まだ朝ご飯食べてない。
ぐうーぐうー、ぼくのお腹が鳴り始めました。
「ああ、すみませんレン様。こちらのお靴を履いてくだされば終わりです」
「ええ。御髪もツヤツヤのサラサラです」
リリとメグがぼくのお腹の音でわたわたと焦りながら、仕上げをしてくれた。
今日は朝ご飯を食べたらお城に行って、王様にお会いするんだよ。
白銀と紫紺も朝からブラッシングされて、白銀は首に青の、紫紺は赤のリボンを結んでいる。
真紅もタオルで拭かれて櫛で羽を整えて、長い尾羽に黄色のリボンを結ばれていた。
ずーっと文句を言ってたけど、白銀と紫紺、ぼく以外にはわからないもんね。
兄様は、洋服に見劣りするぼくとは違って、ビシッと決まっていた!
光沢のある布で作られたジャケットは短めな丈で、白いズボンを穿いた足の長さがよくわかるし、白い首元から胸までヒラヒラがあるブラウスを着ているのにお顔がキリッとしているからかっこいい。
「にいたま、かっこいい」
ぼくが見惚れてボーっとしていると、兄様は照れ笑いをしてぼくを抱っこした。
「レンもかわいいよ。白銀と紫紺も素敵だね」
「ありがと」
かわいいよりは、そろそろかっこいいと言われたいお年頃のぼくだけど、やっぱり褒められると嬉しいよ!
そして、朝ご飯を食べに食堂に行ったら、騎士の正装をしためちゃくちゃかっこいい父様と、クラシカルなデザインに繊細なレースがふんだんに使われた上品なドレスを纏ったナディアお祖母様の姿に大興奮してしまった。
お城に行くメンバーは、父様と同じく騎士の正装に身を包んだアドルフとレイフ。
今回、初めて騎士の正装を着た緊張しているアリスターとディディ。
護衛として冒険者の恰好のアルバート様とミックとザカリーも付いてきてくれる。
リンは今回お留守番で、その代わりフィルが同行してくれる。
お城に行くから一番上等な馬車に乗って、アドルフとレイフも黒い軍馬に乗って、他にも王都屋敷に勤めているブルーベル辺境伯の騎士たちをぞろぞろと連れて出発です。
「大袈裟じゃないか? もう少し人数を絞れただろう?」
「王家に対するパフォーマンスです。今回はブルーベル辺境伯騎士団の団長であるギルバート様と、神獣様と聖獣様をお連れするのですから、当然それなりの体裁を繕いますよ」
どうして、白銀と紫紺が一緒だと騎士さんの人数が増えるの?
ぼくがきょとんとしているのに気が付いたフィルが教えてくれる。
「まず騎士団の団長であるギルバート様の久しぶりの登城ですからね。部下をいっぱい連れて偉いんですよーってアピールするんです」
ふんふん、なるほど。
「あとは白銀様と紫紺様をお連れしていますので、何かあったら我が騎士団の騎士が体……いや命をかけて防ぎますって意思表示です」
うん? ぼくは大きな欠伸をしている白銀と、後ろ足で耳を掻きかきしている紫紺を見る。
「しろがね。しこん。あぶなくないよ?」
急に暴れたりしないのに。
でも、王都の人たちやお城に勤めている人は白銀と紫紺のことを知らないから、怖いんだって。
「しろがね。しこん。いいこ、いいこ」
二人ともこんなに大人しいのにね?
<いや、そいつらが本気で暴れたら、こんな街一瞬で更地になるけどな?>
坂の上にあるお城に着いて、大きくて立派な門を潜って、パッカラパッカラと馬車を進ませても、まだ着きません!
「にいたま、とおいの」
「そうだね、もうすぐだよ。お城は奥にあるからね」
窓の外からお城を見ているけど、全然辿り着かないのってすごいよね!
なんとか辿り着いたお城の前で馬車を降りて、ここでもお仕着せを着た人と騎士さんが案内をしてくれるけど、グルグルとあちこち曲がって……歩くの疲れたよー。
「レン様。抱っこしましょう」
騎士の正装に胸に勲章を幾つか付けている父様に抱っこは無理だし、ナディアお祖母様はドレスだから絶対にダメだし、兄様のブラウスのヒラヒラが気になるし、頑張って歩いていたらフィルにひょいと抱っこしてもらえました。
「ありがと。ふうっ」
「あー、レンにはここはちょっと遠かったか。ヒューは大丈夫か?」
「はい父様。大丈夫ですけど……。このまま行くと、その……」
兄様が言い淀んだけど、ナディアお祖母様はスパッと言い切った。
「王族のプライベートスペースね」
そうか、やけに歩かされるなぁって思ってたけど、お城の公的な場所じゃなくて、王様が普段過ごしている場所でお会いするからなんだ。
「はい。陛下から奥の応接室にお通しするように命じられています」
「……謁見には、貴族やそれなりの役職の者も同席すると思ってましたが?」
「いいえ。今回は王族の皆様と宰相閣下だけとお伺いしております」
んゆ? 王様の家族と偉い人に会うだけなのかな?
「おい、ヒュー。そんなすごい所に俺たちが行ってもいいのか?」
アドルフとレイフ、アルバート様は馬車を降りて別れてしまったけど、アリスターは一緒にお城の中に通されていた。
アリスターが抱っこしていて、あちこちをキョロキョロと興味深く見ている火の中級精霊のディディがいるからだ。
「いいだろう。アリスターはおまけだ。陛下たちはディディに会いたいんだ。堂々としていればいい」
兄様に素っ気なく言われて、アリスターの口が不満そうに尖る。
ようやく案内してくれた騎士さんたちの足が止まったのは、テカテカと光るこげ茶色の扉の前だった。
「失礼します。ブルーベル辺境伯騎士団団長ギルバート様とご子息ヒューバート様、レン様。前辺境伯夫人ナディア様。命令によりお連れしました」
扉の前で告げると中から応えがあったらしく、騎士二人が扉を恭しく開けていく。
「さあ、行くぞ」
父様が颯爽と部屋の中に入って行く。
ぼくは、王様にお会いする緊張で胸がドキドキです!