王都屋敷 1
朝早くお宿を出て、立派な馬車に乗ってパッカラパッカラと比較的整備された道を進むと、次第にその道は石畳の道へと変わっていく。
「そろそろだな」
馬車の窓から外を覗き込んだ父様が、チョイチョイと指でアドルフさんを呼ぶ。
馬で並走していたアドルフさんが顔を出すと、父様は王都に着いたらどこどこの門でこれを出してと、細かく指示を出していた。
ぼくはちょっとおねむです。
この四頭立ての馬車はあんまり揺れなくて、クッションと同じくらいに椅子がフカフカなの。
だから、こっくりこっくりしちゃう。
「ほら、レン。頑張って起きていて。もうすぐ王都に着くよ」
兄様がクスクスと笑うけど、瞼がくっつきそう。
「ふわああっ」
「あらあら。大きな欠伸だこと」
ナディアお祖母様がお上品に扇を広げてオホホホと笑っている。
そのまま順調に進んだ馬車は、人がいっぱい並んでいる行列を避けて、大きな門を横目にやや奥側にある門へと移動する。
うん、もうぼくはその門が何か知っているよ?あれでしょ?
「きしさんのもん!」
「違うぞ、レン。あの門は王族専用の門だぞ。今回は王家からの招待だからな、特別に専用の門から入れるんだ」
父様が続けて、本来なら身分証明や荷物検査が必要だけど、王家からの招待状を提示すれば通れるんだって教えてくれた。
「むー」
間違えちゃった。
兄様にもっと詳しく教えてもらったんだけど、ぼくたちがいつも優先的に通っているのは「騎士専用の門」で他にも「貴族専用の門」とか「教会専用の門」とかがあって、普通の人が出入りする門とは分けてあるんだ。
小さな町はもっと大雑把だけど、ここ王都では、商人たちの門も別に設けてあって、商人は必ず荷改めが必須で、衛兵さんがいっぱいいるのと、商人ギルドの人も派遣されている。
ぼくたちが今から通る王族専用の門には、王国騎士団の騎士さんが詰めているんだって。
「鎧が白銀で剣の柄が金ぴかだから目立つ奴らだ。貴族の次男、三男とかが多いから、愛想はよくない」
父様がものすごく悪意ある情報を流すけど、嫌いなの?王国騎士団の騎士さんが。
もしかしてブルーベル辺境伯騎士団の団長としてライバル心が刺激されるのかな?
正直、正門よりも小さくても立派に装飾された門を通るときは緊張したけど、騎士さんたちは淡々とぼくたちを見送った。
なんだ……父様と騎士さんたちで何かが起きるとワクワクしていたのに……ちぇっ。
「ほら、レン。王都だよ。これから市民街を通って貴族街へ行くからね。落ち着いたら王都の街を歩こう」
「あい!」
今日は、まずブルーベル辺境伯の王都屋敷に行くのが目的なので寄り道せずに真っ直ぐ向かいますが、落ち着いたら兄様と一緒に王都の賑やかな大通りを歩いて、お買い物や食べ歩きをしてみたい!
ゴトゴトと石畳みの上を馬車は進み、市民街への橋を渡り、高台にある貴族街へと坂を登り、ゆっくりと進む。
進むにつれて生活感溢れる下町の雰囲気から、高級住宅街のような静かで緑豊かな街並みに変わり、なによりも目の前にバアーンと見えるのは白亜のお城。
「おしろ……おおきい」
どこかのテーマパークにあったような尖塔がいくつもあるお城が見えて、ぼくのテンションは上がりっ放し。
王都は初めての兄様もぼくと一緒に窓から顔出して、お城を見ている。
ただ、父様だけが憂鬱そうな顔をしている。
なんでだろう?ハーバード様に頼まれたお仕事が嫌なのかな?
ぼくが手伝えればいいんだけど、じっと自分の手を見てみるが、子供の手はちっちゃい。
複雑なお仕事のお手伝いは無理そうだな、がっくり。
貴族街をしばらく進むと、アドルフさんとレイフさんのお馬さんがタタタと馬車を追い越し前に走って行ってしまった。
「んゆ?」
「もうすぐ、王都屋敷ですよ。アドルフたちは先触れに行ったのでしょう」
ナディアお祖母様がぼくたちを優しく見守りながら、白銀と紫紺を両手でモフモフしていた。
「やっと到着か……」
父様が既にげっそりと疲れているんだけど、大丈夫かな?
馬車が角を曲がると、道の広さと同じ横幅の大きな門が見えてきました。
門は木造でも石造でもなく、黒鉄の門で、縦横の鉄柵みたいな門ではなく、蔦をデザインしたお洒落な造りだった。
しかも、突きあたりの一角すべてがブルーベル辺境伯の王都屋敷の敷地らしく、その広さにビックリ。
ブループールの街のお屋敷は騎士団の敷地も併せているから広いのは当たり前だけど、王都のお屋敷はそれよりも広いのでは?
ぼくはぽっかりと口を開けてその荘厳な両開きの門が開いていくのを眺めていた。
お城は白亜のお城でキラキラしていたけど、ブルーベル辺境伯の王都屋敷は黒い壁のドドーンとした重厚な建物でした。
地下室もあるらしいけど、三階建てで、横に広い造りです。
「右翼は客間とか応接室とかあって、真ん中は舞踏会とかの社交用で、俺たちは左翼のプライベートスペースで寝泊まりするからな!」
「右翼は屋根と室内の装飾が緑色が主色で、真ん中は金銀をふんだんに使った派手な色で、左翼は青を基調とした部屋になっているわよ」
ナディアお祖母様が迷わないように、それぞれの特徴を教えてくれた。
うん、色が違うなら迷っても大丈夫!ちゃんと青色の部屋に戻れると思う!
馬車を降りて玄関に入るまでの間に、王都屋敷で働く使用人たちが並んでお出迎えしてくれたけど、ぼくはビクッとしてしまったから兄様の足にへばり付いた。
一人、細身のカッコいいおじさまが前に出て、父様とナディアお祖母様に深々とお辞儀をした。
「世話になるよ。久しいなフィル」
「お久しぶりでございます、ギルバート様。もっとこちらにお出で頂けると嬉しいのですが。ああ、この度はおめでとうございます」
ニッコリと笑うお顔はとっても優しそう……でも誰かに似ているような?
「レン。フィルはセバスの叔父。ブルーパドルの街にいるお祖父様の執事セバスチャンの弟だよ」
「んゆ?」
セバスのお父さんの弟さん……。
えっ!ここにもセバス一族が!
ぼくがビックリしていると、フィルと呼ばれたカッコいいおじさまは、ぼくたちの前に膝を付いてご挨拶。
「お久しぶりです、ヒューバート様。初めまして、レン様」





