ブループールの街 4
「ほへえええぇぇぇっ」
レストランで食事なんてしたことない。
優しいおじさんがいたときに、ファミレスという所でご飯を食べたことがあるだけだ。
「ここで、お昼ご飯を食べるのよ」と母様に連れられたお店は、立派なお屋敷みたいだった。
しかも、お店の入り口には、黒い礼服を着た人が立っていて、わざわざ扉を開けてくれるんだ。
絶対、絶対、お高い店だっ!
母様は個室を予約していたみたいで、そのまま案内されていくぼくたち。
白銀と紫紺も問題なく入れているので、安心。
兄様もセバスさんに車椅子を押してもらって移動している。
母様と手を繋いでいなかったら、ぼくなんか恐れ多くて歩けなかった。
ぼくは腰をやや引きながら、てとてとと歩く。
案内の人が「ここです」と開いた扉の向こうには、父様がニコニコで立っていた。
あ、お昼ご飯に間に合ったんだね、父様。
父様と合流する前はひたすらお買い物をしてたんだ…大量にね。
準備が整ったぼくたちは、セバスさんとふくよかなメイドさん、マーサさんと護衛の騎士さんたちとで馬車に乗って街へ。
馬車は預かり所に置いて、まずは母様ご用達の洋服屋さんへ移動。
「もう…いいでしゅ」
「えー、まだまだよ!」
ひーっ、もうお洋服はいっぱい。
下着も靴もいっぱいですぅ。
なのに、「これは普段着だから」と母様は、ポイッとぼくをお店の人に差し出して、「採寸してちょうだい」とお願いした。
採寸って何?オーダーメイドなの?
いやいやいや、ぼくにそんな服はもったいなーい!と抵抗しても大人の人に「はい、バンザイ」とか「はい、腕伸ばして」とか言われたら従ってしまう、ぼく。
隣でニコニコと兄様も採寸されている。
「お揃いの服もいいね」
…そんな、恐ろしい。お金が……。お金が……。
ぼく、白目剥いて倒れそう。
そのあとは、本屋さんに連れて行ってもらった。文具なんかも売っている。
セバスさんとマーサさんで、最近出た流行りの絵本や文字の練習用ノートを物色。
母様は自分用の恋愛小説を探している。
「レンは、お絵かきする?」
「?」
お絵かき…。
ママが怒るんだよ?ママの絵を描いても、叩かれたし…。お絵かきってしてもいいの?
「……。クレヨンとお絵かき帳も買おうね。白銀と紫紺の絵を描いてあげよう」
ぼくが白銀と紫紺を見ると、紫紺は尻尾をフリフリ頷いて、白銀はぷいっと横を向いて…尻尾はブンブン!
ああ、描いてほしいのね。うん、描くよ。
「あい。かきまちゅ。にいたまも、かきまちゅ」
「そう?嬉しいな」
兄様は車椅子から身を乗り出して、ぼくの頭を撫でてくれた。
すでに二軒のお店で買った物で馬車はいっぱいになったので、ぼくたちがお昼ご飯を食べている間に、騎士さんたちが荷物だけお家に運んで戻ってくるように手配してくれた。
「午後はどこに行くつもりなんだ?」
「そうね。雑貨屋と魔道具屋ね」
「ふむ。レンは何か欲しい物はないのか?」
「…?」
欲しい物…。こんなにいっぱい買ってもらって、美味しくて高そうなご飯を食べさせてもらって…他に欲しい物なんて……。
……!
「あの…あの…」
「ん?遠慮しないで言ってごらん?」
「ブラチ…。白銀と紫紺のブラチ、ブラシが…ほしいの」
もじもじ。
もじもじ。
紫紺のスベスベな毛を綺麗に整えてみたいし、白銀はメイドさんたちにされるのが苦手だから、ぼくが梳かしてあげたい。
ダメ……かな?上目遣いに父様を見ると、口元を手で押さえてぷるぷる震える父様と母様、それとマーサさん。
どうしたの?
コテンと首を傾げてしまう。
そんなぼくの足元に白銀と紫紺が走ってきてぴょんぴょん飛んでアピール。
「レン!ブラッシングしてくれるのか?」
「アタシのも?アタシもしてくれるの?」
「あい」
するよ、ぼくもしたいもん。
ふたりのブラッシングは大事なぼくのお仕事です!
「か…かわいい……じゃなかった。いいぞ。ブラシでもなんでも買ってあげよう!」
「あ、ありがと」
なんでもは買っちゃダメだと思う。
みんなでレストランを出て、道具屋でおねだりしたブラシをそれぞれ専用に買ってもらって、ほくほく顔のぼくたち。
父様と母様はそれ以外にもいろいろ買ってたけど。
ぼく専用の食器とか椅子とか…居候にそんなに買わないで!
訴えたけど、無視されました。なんで?!
魔道具屋さんは、他のお店とは違って独特な雰囲気。
ハッキリ言って「魔女の家」です。
怖くて兄様に膝抱っこしてもらって入りました。
「防御用の魔道具はいくつ付けていてもいいからなー」
父様と母様はあれこれお店の人と話して、選別していきます。
ついでに兄様にも買うそうです。
ぼくと兄様は飾られている魔道具を見て回ります。
「こり、キレイねー」
ぼくが指差したのは、青色の石と水色の石を使った腕輪。
キラキラ光りを反射して、青い色が舞ってるように見える。
「青い魔石は水の加護があるんだよ」
「かご……?」
「赤い石は火、緑の石は風、琥珀色は土…他にも加護は有るらしいけど、有名なのはこの四っつ」
「おおー!」
異世界あるあるの四元素ですね!
ここは魔法のある世界なんだもん。こういう話はわくわくするよね!
結局、この魔道具屋さんでもいっぱい買って、ぼくたちは馬車まで戻る。
案の定、馬車に乗りきらなくて貸馬車を一台借りて帰ることになりました。
「夕飯は料理長が腕を振るってくださいますよ。お昼ご飯を外で召し上がると聞いて、俄然やる気を出してましたからね」
マーサさんが可笑しそうに話してくれた。
ぼく、こんなに贅沢していて大丈夫かな?
ぼくの体がびっくりしないかな?
こんなに、嬉しいことばかりでいいのかな?
白銀と紫紺がそんなぼくの頬を両側からペロリと舐めた。