帰ってきたブルーベル辺境伯領 6
謎かけのような瑠璃の夢を見た朝。
ベッドにはお寝坊したぼくと、ヘソ天して寝ている白銀と、籠の中で涎を垂らしてだらしなく眠っている真紅だけが部屋に残されていた。
「むー。にいたま?」
目をコシコシと擦りながら起きると、「ンガッ!」と鼻を鳴らした白銀も起きた。
「……うるしゃい?」
なんか、お外がバタバタうるさいような?
ベッドからぴょんと飛び降りて窓の外を覗こうとしたけど……背が届かなーい!
「ほらっ、背中に乗れ」
白銀がぼくのパジャマの襟を咥えて、ポーンとぼくの体を背中へと放り投げる。
ポスンと無事に目的地に着地して、窓の桟に手をかけて外を覗いてみる。
「ばしゃ……。あっ!ばあば!」
お外には、馬車が三台停まっていて、セバスの指示でお屋敷で働く使用人の皆さんが手に荷物を持って忙しそうに働いている。
お馬さんを馬車から外しているのは、騎士団のみんなと……マイじいだっ!
「ぼく、おそといく」
白銀の首辺りの毛をむんずと掴んでユラユラ。
「ああ?しょうがねぇな。ゆっくり行くから落ちんなよ!」
「あいっ」
ポテポテと歩く白銀にしっかりと捕まって、部屋を出る前にちゃんと真紅を確保して、出発です!
……でも途中でリリとメグに見つかって怒られちゃった。
パジャマのままでお外に出てはいけませんって。
はぁーい。
「久しぶりね、レン。元気だったかしら?」
「あい!げんき、でした」
ナディアお祖母様は、ぼくの目線に合うようにしゃがんで挨拶してくれたので、ぼくも元気いっぱいにお返事です。
その後は、ひょいと抱き上げられて母様の待つサロンへと移動しました。
真紅は朝、ぼくが無理やりお外に連れて行こうとしたからご立腹だけど、今は白銀が口に咥えて移動しています。
え?甘噛みだよね?牙をたててないよね?真紅がめちゃくちゃ泣いてるけど……。
サロンには母様がゆったりとソファーに座ってお出迎え。
ぼくは、キョロキョロ。
「にいたま?」
「ヒューは、剣のお稽古よ。そのままギルを呼びにいってもらったから、二人でそろそろ戻ってくるわよ」
父様は辺境伯邸に向かってでかけた後だったので、兄様がお馬さんに乗って追いかけって行ったんだって。
いいなぁ、ぼくもお馬さんに乗りたかったよぅ。
「レンは、俺の背中に乗ったじゃねぇか」
ブチブチ白銀が文句を言ってるけど、スルーします。
セバスがお茶を淹れてくれて、ぼくの朝ご飯まで用意してくれた頃、兄様と父様、紫紺とアリスター、ディディがサロンに集合しました。
「母上。なんでこんな朝早くに?」
「なんですか!だいぶ遅れたから馬を走らせたというのに、その言い方!」
「すみません!」
父様は、びゃっと首を竦めたあと、母様の隣にちょこんと座った。
兄様はナディアお祖母様にご挨拶したあとにぼくの隣に座って「おはよう」とニッコリ。
「それで、アリスターの足元の……トカゲ?コホン……火の中級精霊様ですか?」
ナディアお祖母様の言葉にアリスターはディディを抱っこして、一緒にペコリと頭を下げた。
「はい。ブルーフレイムの街で契約しました。火の中級精霊のディディです」
ちょっとアリスターの髪が湿っているから、兄様と剣の稽古のあと、急いで身支度を整えたんだろうなぁ。
ナディアお祖母様は、マジマジとディディを眺めたあとに「絆を大切にしなさい」とアリスターへ微笑む。
そこへ、パタパタと忙しない足音が近づいてきて、「コンコン」と扉のノック音。
セバスがちょっと眉間にシワを寄せて扉を開けると、まだ若い使用人のお兄さんが小さく「ヒッ」と慄いていた。
「ギル。アースホープ子爵夫人が到着された」
「……予定より早いな。いい、アンジェ。俺が出迎えるから。いくぞ、セバス」
ありゃ?母様の母様……シェリーお祖母様まで来られたよ?
「ふふふ。賑やかになるわね、ヒュー、レンちゃん」
「はい」
「あい」
「私もシェリー様にご挨拶してくるわ。アンジェ、そのまま辺境伯邸にも挨拶に行きますから、またあとでね」
「はい。お義母様、ありがとうございます」
スクッとソファーから立ち上がると、ナディアお祖母様はひょいと朝ご飯を食べ終わったぼくを抱き上げて、スタスタと歩き出した。
「んゆ?」
どゆこと?と首を傾げて呆けていたら、後ろから兄様と白銀と紫紺が慌てて追いかけてきた。
「ダメですよ、ナディアお祖母様!辺境伯邸には父様と一緒に行ってください!」
兄様がナディアお祖母様を叱って、ぼくを取り返してくれたよ。
「なによ、ケチ。私だってかわいいものを愛でたいのです。それぐらいのご褒美いいじゃない」
ぼくって、ご褒美なの?
シェリーお祖母様とナディアお祖母様も交えてのお昼ご飯を楽しく済ませて、ぼくはお昼寝中。
父様はナディアお祖母様と一緒に辺境伯邸に行ったら、そのままハーバード様に捕まってお仕事となったのでお屋敷には帰ってきませんでした。
でもマイじいことマイルズ副騎士団長が戻ってきたから、お仕事はちょっと減るんじゃないのかな?
兄様はお勉強中なんだけど、母様の出産のあれこれが済むまでは自習が中心で、今は父様と母様で家庭教師の先生を選んでいるんだって。
「んゆ?」
まだまだ眠いけど……なんか胸がざわざわする。
ぼくが起きると、白銀と紫紺も扉の近くにお座りして何かを気にしているみたい?
「しろがね?しこん?」
「あら、起きちゃったのね。そろそろアンジェのお腹から赤ちゃんが出てくるわよ?」
へ?それって?
「うむ。産まれるな!」
白銀が力強く言い切ったと同時に屋敷中にマーサの大声が響いた。
「お医者さーまー!奥様が、奥様がー!」
大変だーっ!母様のところへ行かなくっちゃ!