ブループールの街 3
セバスさんやメイドさんたちに給仕してもらいながら、またまた豪華な朝食を平らげて、食堂からみんなでくつろげるお部屋に移動。
ふかふかのソファに体が埋もれるぅとジタバタしてたら、隣に座った兄様のお膝にポスンと抱っこされた。
「に…にいたま?」
ぼく、ひとりで座れるよ?
ニコーッと笑顔の兄様…。ダメだ、負けた…。もう、いいや。
コクッとひと口紅茶を飲んだ父様が、ぼくたちやセバスさんたちを見回して言う。
「昨日も説明したが、レンは辺境伯夫人たちが戻るまで、ここで預かることにした。短い間だがよろしく頼む。それと…そちらにいるのは神獣フェンリル様と聖獣レオノワール様だ。レンの保護者として一緒に過ごされる。失礼のないように」
「白銀と呼べ」
「紫紺よ。アタシたちはこの小さい姿と…」
ボワンと煙。
その煙が晴れると元の大きさに戻ったふたり。
白銀はフフンと鼻を高くしている。そして、またボワン!
「この人化と、姿が変えられるわ」
白銀と紫紺は、白いシャツに黒いズボンという簡素な恰好で人化した。
白銀の銀髪は相変わらずあちこちに跳ねて無造作だが、紫紺の黒紫髪はゆるくひとつにサイドでまとめられている。
「驚いた…。人化まで……」
「神獣聖獣は大抵、人化できるぞ。敢えてしない奴もいるけどな」
「そうね。頑固で偏屈な奴が多いのよねぇ」
二人はそのままの姿でソファに座る。
すかさず、セバスさんが紅茶とお菓子を用意した。
流石だ!
「白銀と紫紺はレンの保護者…ですか?」
「そうだな。レンを守ることは使命でもあり、俺らの誓いでもある。俺はレンと友達だからなっ!」
そう!友達!いっぱい友達つくらなきゃ。そして、シエル様にご報告するんだもん!
「ところで、レンはやりたいことはないのか?」
父様がぼくにそう尋ねた。
やりたいことは…友達を作ることなんだけど、それ以外に、だって……。
「べ、べんきょー。ほん、よみたい。あと…、あしょびたい……」
「ふむ。絵本はヒューが読んでたのがまだあるな。まずは文字を覚えよう。遊ぶ…玩具を用意するか…」
「旦那様。絵本はございますが、玩具の類は些か少ないかと…。ヒューバート様はあまり玩具は使われなかったので」
「そうだな。必要なものも買い揃えないとな…。ヒューのお下がりばかりじゃ、かわいそうだし」
ぼくは、慌ててプルプルと頭を左右に振った。
なになに、なんの話?
文字を覚えるのは、兄様の絵本で充分だし、玩具もあるものでいいし、洋服はなんでもいいの!
ひとりであわあわと慌ててると、ずっと静かに紅茶を飲んでいた母様がスクッと立って大きな声で。
「お買い物に行きましょう!洋服もちゃんと採寸して!新しい絵本もペンもノートも必要だわっ。ああ、玩具も買って、防御魔道具も付けなきゃ!ギル!早速、行きましょう!今日はみんなでお買い物よ。セバス、馬車の用意を」
「はい。かしこまりました」
ええーっ!
街には行きたいけど…ぼくのものを買いにわざわざ行くの?そ、それは…どうしよう…。ぼくのために、お金を遣わせちゃう…。
「アンジェ…。俺は午後は辺境伯にレンの報告が……」
「じゃあ、ギルは行かないのね?お昼は外で食べましょうねー」
母様はニコニコとぼくたちが座るソファに移動して、兄様と一緒にアレはあっちに買いに行って、ココでこれこれして、と楽しそうに計画を立て始めている。
父様は、可哀想に悲痛な顔で愛しい妻を凝視している。
「旦那様。午後の予定を今からに変更すれば、お昼には合流できるのでは?」
「はっ!そうだ。そうだな。そうしよう。セバス、辺境伯に連絡を。俺は今すぐ支度して出る!」
「はいはい、かしこまりました」
「アンジェ!昼には合流するから。そうしたら、午後はみんなで買い物だ!」
「わかったわ。お昼に間に合わなくても、待ちませんよ?」
「う……うむ」
父様はそのままバビュンとお部屋を出て行った。その後をやれやれとセバスさんが続く。
「あ、あのね。ぼく…かう、しなくていーの」
母様と兄様に訴えてみる。
母様は痛まし気に目を眇めたあと、ぎゅうううっとぼくを抱きしめた。
く、苦しいっ。
「いいの。いいのよ。遠慮しなくて。レンちゃんはもう家族なんだから!」
いや、辺境伯夫人たちが戻られたら、辺境伯のお屋敷に移るんですよね?そんな、居候に至れり尽くせりしてなくていいですよー。
「母様、レンが苦しがってますよ。レンも遠慮しないで。こういうことでもないと、家族で出かけることがないんだ。付き合ってよ」
「……あい」
ぼくは諦めて、コクリと頷いた。