帰る場所
馬車に荷物を積んで、ぼくはお世話になった宿屋にペコリと頭を下げた。
予定より滞在がオーバーしてしまったけど、ぼくたちは今日、ブループールの街へ帰ります!
温泉施設が、白銀と紫紺の神獣聖獣パワーと火妖精さんのお手伝いで三日で完成したあと、みんなで温泉を楽しみました。
宿泊施設を兼ねる建物は二つ建っていて、ぼくたちがブルーフレイムの街で利用していた宿屋みたいな建物は、街の人や冒険者さんたちが利用する施設。
もう一つは、やや煌びやかに建てられた貴族用の施設。
施設には大浴場がいくつかあって、グレードの高い部屋にはお風呂が付いているんだって。
ぼくが話した前世の温泉宿そのままの造りです。
外で入れる露天風呂も作ってもらったけど、男性用と女性用で分かれていて、さらに平民用と貴族用に分けてあった。
セバスが説明してくれたけど、身分で分けておいたほうが、先々のトラブル回避になるんだって。
貴族の人は露天風呂に入るのかな?と首を傾げたら、アルバート様が意地の悪いお顔で「貴族は珍しもの好きだから絶対入るぜ。しかも貸し切りにしろっとか言うぜ」と教えてくれた。
みんなで楽しむ温泉だもの!
独り占めはダメダメ!
だから、兄様たちは我儘な貴族対策としてお風呂の数を増やしたんだ。
「火の妖精とチルとチロが協力してくれたからね。助かったよ」
兄様の髪の毛を一房抱きしめて、チロがこっちを見ていたから、ぼくはにっこり笑って「ありがと」とお礼を言った。
チルが「おれもーおれもー」とブンブンぼくの顔の周りを飛んでいるけど……、チルもありがと。
今度は父様と母様と一緒に来ようね!
楽しみだなぁ。
「いいな、お子様は呑気で。俺は一緒にブループールまで付いてくるエドガーのことが気になる」
むむっ眉間にシワを寄せて、アルバート様が唸る。
そう……、あの意地悪エドガー様はアルバート様の誘いにのって温泉を一緒に楽しんでいた。
豪華な宿泊施設や初めて入る温泉にびっくりして言葉少なな態度で、アルバート様とセバスの話を大人しく聞いていたエドガー様。
そのせいで長湯して逆上せて倒れてしまったエドガー様。
でも自分と同じように、兄弟にコンプレックスを感じていた幼馴染のアルバート様の言葉になにか心が動かされたのか、直接父様とハーバード様とお話がしたいと願い出て、ぼくたちと一緒にブループールの街へ行くことにしたんだ。
なんか、温泉のリラックス効果なのか、それから態度が柔らかくなって、嫌な事を言わなくなったよ。
父様と仲直りしてくれたら、嬉しいな。
ブループールの街には、ハーバード様の側近のエドガー様の弟もいるもんね。
久しぶりに兄弟で仲良くお話しすればいいと思う。
ぼくは馬車の中で隣に座る兄様に「ふふふ」と微笑んだ。
「どうしたの?ご機嫌だね」
「あい!」
ぼく、ブループールの街に帰るのがとっても楽しみなの!
ねえ、シエル様。
ぼくがこっちの世界に来てから、まだまだ短い時間だけど。
ぼくは、この世界が大好きだよ?
シエル様。
ぼくに家族をくださってありがとう。
父様はカッコイイし、母様は優しいし、兄様はとってもとってもカッコイイし優しくて、強くて、ぼくはだーい好き!
セバスもリリとメグもアドルフたち、ぼくたちを守ってくれる騎士さんたちも、ぼくに優しくて大好き。
お祖父様もお祖母様もレイラ様もユージーン様も、みんなみんなぼくの家族だよ!
最初は怖かったけど、今は仲直りしたからアルバート様も家族でいいのかな?
シエル様、ぼくねお友達もちゃんと作れているよ。
アリスターもキャロルもとっても大事なお友達。
ディディがアリスターと契約したから、ぼくとも遊んでくれるよ。
キャロルちゃんもメイドのお仕事を頑張ってるから、ぼくも頑張らなきゃ!て思うんだ。
水妖精のチルとチロもお友達。
チルとチロは興味のあることにすぐ夢中になって危ないことをするから、ちゃんとぼくが見張っていないとね!
チルとチロはぼくにとっては、弟妹みたいなお友達なの。
プリシラお姉さんもお友達。
綺麗な女の子だよ。
まだ人が怖いから、お外に遊びに行けないけど、もう少ししたらプリシラお姉さんと街を歩いてみたいな。
そして、大事な大事なお友達。
シエル様が会わせてくれた、ぼくの大事なお友達。
神獣フェンリルの白銀。
聖獣レオノワールの紫紺。
聖獣リヴァイアサンの瑠璃。
いつもぼくを守ってくれる、ぼくを愛してくれる、ぼくのためにここにいてくれる。
ぼくの大事な大事なお友達。
ねえ、シエル様。
ぼくはシエル様と約束したけど、だから白銀たちとお友達になったんじゃないんだよ?
白銀はちょっと乱暴に見えるけど、とっても優しくて暖かい。
紫紺はしっかりしてるようだけど、繊細で脆いほどに優しいの。
瑠璃は落ち着いてるけど、寂しがりやで甘えたがりなんだよ?
ぼくは神獣聖獣だから白銀たちが好きなわけじゃない。
すっごい力があって、本当はぼくなんか相手にしてもらえないぐらいに偉い立場の存在なんだって分かっている。
でも、ぼくは白銀たちのちょっと弱いところも好きなんだ。
こんなに弱いぼくでも、白銀たちを守ってあげたい!笑ってほしい!て思うんだよ?
だから、シエル様。
ぼくはぼくなりに頑張ってみるね。
世界のことも昔のことも、ぼくにはちょっと難しいけど、傷ついてる白銀たちを、他の神獣聖獣たちも、ぼくがこの世界で出会った優しい人たちに癒されたように、ぼくがみんなを癒してあげたい。
神獣フェニックス、真紅。
君も、ぼくやみんなと一緒にいることで癒されてほしいな。
一緒に笑って遊んで、楽しいって思って欲しいな。
だって、それがぼくにとっての幸せだから。
幸せだよ、シエル様。
ぼくに帰る場所を、帰りたいと願える場所を与えてくださって、ありがとう。
ぼくは隣に座る兄様の手をぎゅっと握り、反対の手で白銀と紫紺の背を何度も撫でた。
ぼく、幸せです!
感想ありがとうございました!