温泉大作戦 9
兄様とセバスが宿に戻ってきたので、アルバート様とのお勉強会は終了です。
アルバート様たちはなんか打ちひしがれていたけど、いろいろと教えてくれたからお礼を言って、ぼくたちは宿の1階の食堂へ。
そこには、帰ってきてからセバスと何やら難しい顔をしてお仕事をしている兄様がいる。
「にいたま~っ」
トコトコと歩いてボフンと兄様の足に抱き着く。
「レン。アルバート叔父様とのお茶会は終わったのかい?」
「あい。たのしかったの」
ぼくの両隣にお行儀よくお座りする白銀と紫紺。
「ヒューおかえりなさい。温泉の状況はどうだったの?」
そう、あの温泉の水脈を探しに行って見事ディディが見つけた温泉は、ちゃんと掘ってお湯がドバドバと湧き出ているのだ!
といっても、ディディは火の精霊だから火山の気配が残る温泉を見つけられたけど、掘り当てることはできなかった。
ぼくはチラッと白銀の背中に張り付いている赤い小鳥、真紅に視線を投げる。
ぼくの視線に気づくと真紅は、つーいと顔を背けちゃうんだけど……。
温泉が噴き出るほど地盤を深く掘ったのは、この真紅だ。
あっという間に高く飛び上がり、白銀と紫紺が止めるのも間に合わず、真っ直ぐに地面に頭から突っ込んでいって、ドバドバと温泉が噴き出るのと共に地上に戻ってきた。
騎士さんたちとアルバート様たちが、温泉が出るほど深く掘るのは難しいって頭を悩ませていたのに、一瞬で温泉まで届いてしまったのだ。
真紅が掘った地面をよく見ると、ちょっとガラスっぽくなっていて、かなり高温で地中に潜ったらしい。
このときもぼくは嬉しくてはしゃいで、真紅をぎゅっと抱きしめて「ありがと!」ってお礼を言ったけど、つーいと無視された。
くすん。
「温泉の風呂作りは算段がついたのか?どんな建物でも俺と紫紺の魔法でちょいちょいだぞ。レンのいう休憩所は木材とか必要だから木の伐採も任せろ!ギルバートに金をたんまり貰うんだろう?」
白銀が尻尾をブンブン振りながら得意げに自分のできることを主張する。
「父様から温泉施設建設の許可は出たよ。ただ……温泉施設が完成するまでここに滞在するわけにはいかないので……」
兄様がチラチラとぼくを見る。
ぼくもガーンとショックを受けた顔を兄様とセバスに向けてしまった!
せっかく……温泉が湧いたのに……お風呂ができるのに……、ぼくたちは帰らないとダメなの?
うりゅうりゅと目が潤んできちゃうのに、アルバート様が呑気に。
「あー、俺たちは出来るまで待って、ゆっくり温泉とやらを堪能してから帰ろうぜ」
……あ、ムカつくってこういう気持ちなのかな?
ムッとした気持ちが顔に出たのか、白銀と紫紺が尻尾でアルバート様を叩いてお仕置きしてくれた。
「セバス……」
「ヒューバート様。私も同じ気持ちですが……さすがにここに何か月も滞在することは……難しいかと……」
クッと悔し気に顔を歪めるセバス。
「そうか、残念だな。レン、温泉施設が完成したら家族でもう一度ここに来よう。僕からも父様に頼んであげるから」
「……あい。がまんすりゅ……」
我慢するのは得意だもん。
でもでも……温泉。
前世でも経験したことのない、温泉。
「しょうがないわね。アタシたちが手伝うから、パッパッと作っちゃいましょう」
「そうだな。ディディから火の精霊王に伝えてもらって妖精もコキ使えば十日……いや三日で作る!」
「じゃあ、真紅も手伝いなさいね」
<っ!なんで俺様がっ!>
ぺしっ。
紫紺の前足で白銀の背中から叩き落とされて、踏まれました。
なんか……真紅、かわいそう。
「しろがね。しこん。ほんとうに、みっかでできりゅの?」
まだ涙が目尻に残る顔で二人に確認すると、ぺろりと頬を舐めてくれ、「まかせろっ」と自慢気に答えてくれた。
「セバス、三日ならいいかな?」
「そうですね。あと五日滞在することにしましょう。ギルバート様からうるさく文句を言われないように、エドガー様との関係も修復しましょうか?」
「そんなことができるの?」
「馬鹿となんとかは使いようですよ。ねえ?アルバート様」
セバスの言葉にビクッと固まるアルバート様。
セバスの綺麗な笑顔を見て、ブルブル震えているけど大丈夫かな?
兄様も低い声で「レンにいじわるするからだよ」って呟いていたけど。
みんな、アルバート様にちょっと厳しいんじゃないかな?
その後、温泉施設は最初に計画してたより豪華で安全な観光施設として、三日後に完成した。
す、すごいね!