温泉大作戦 5
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俺が生まれ育ったブルーベル家は代々、それこそブリリアント王国初代国王のときから「武」でもって国を王家を支えてきた名家だ。
辺境伯として、周りの列強国から、高ランク魔獣の攻撃から民を守り、国を守ってきた。
親父の名声も当然ブリリアント王国の王都まで広まっており、その息子である長兄ギルバートの剣術と魔法の能力、次兄ハーバードの知性も期待されていた。
俺だけ……特に秀でている能力は無かった。
常人より剣は扱えたがギル兄より弱く、魔法もそこそこ使えたが家族の中では魔力量は少なかった。
なんなら俺より、ブルーベル家に仕えるセバスたちのが魔力量が多い。
知性は普通で、神童と謳われたハー兄の足元にも及ばない。
あの人は頭の回転も恐ろしく早く、腹も真っ黒だ。
家族もセバスの一族も誰も俺を卑下することはなかったが、ブルーベル家当主の座を狙っていた狡賢い親戚からは「出来損ない」と陰口を叩かれた。
その陰口になんでもない顔をして、俺は幼少の頃から兄たちとは違う将来の道を模索していた。
同じ理由で優秀な兄たちに複雑な感情を持っているセバスリンと共に。
結局、冒険者となってブルーベル辺境伯領地を出ていくことにした。
仲間に猫獣人のミックと神官のザカリーを加えて、四人で各国・各地を巡った。
それでも、ブルーベル家のことは頭の片隅にずっとあったけど……。
いつか、親父にお袋に兄たちに認められたい。
そんな淡いバカみたいな夢を持って、Aランク冒険者を目指した。
改めて自分の半生を思い起こして、恥ずかしくなり頭をガシガシと乱暴に掻いた。
冒険者のランク上げに夢中になって……と言い訳して甥のヒューバートの怪我にも実家のお家騒動にも目を逸らして、ハー兄の脅迫まがいの召喚状に慌ててやっと帰った俺が知ったのは……。
「まさか、甥っ子が増えてるとか思わねぇよ。しかも物騒な神獣聖獣付きで」
ヒューバートが馬車の事故で足を怪我して歩けなくなったと聞いたとき、俺はなんとも言えない感情に支配された。
ハー兄の息子のユージーンは飄々とした風体でかなり優秀なガキだったし、ヒューバートは剣術の才に恵まれた優等生だった。
甥っ子にまで劣等感を抱く自分に嫌気がさし、さらに実家に足を向けることが無くなった。
そのヒューバートが怪我をしてもう剣を振るうことができなくなった。
そのことに、ホッとした自分がいたのも事実だった。
これ以上、俺を、俺たちを置いていかないで欲しい。
そのあと、クソ親族たちがギル兄に養子を取ることを勧めていたと聞いて腹が立ったけどな。
実際、戦えないヒューバートでは辺境伯領最強の騎士団長ギル兄の跡を継ぐのは難しいと思っていた。
だから、レンとかいうガキを養子にしたと聞いたとき、胸がざわついたんだ。
ヒューの怪我は治って剣術の稽古も再開していて、義姉ふたりも実は呪われていたけど解呪することができて、ブルーベル家の憂いは綺麗に取り払われたと聞いても、レンの存在は俺を不安にさせた。
それも、そのガキは神獣聖獣の保護付きだ。
「俺もリンも各国・各地で神獣聖獣の爪痕を見て来たし、言い伝えも耳に入ってきた。あの大戦の後に聞く奴等の話は俺たちにとっては厄介な話ばかりで。下手をすれば村や町が襲われて消えてしまったり、農作物が採れなくなったり、水が汚されたり。もう奴等には俺たち生きている者を保護する気持ちは微塵もなく、排除すべき世界の異物と思われてんだよ」
吐き捨てるように言った俺の頭を、散々蹴って殴ったセバスティーノが優しく撫でた。
「それは、私たちこの世界に生きる者が、彼の方たちの想いを踏みにじったからですよ?神獣聖獣の力は創生神様に返上すべきもので、裏切った私たちのために行使されるものではありません。勝手に期待して勝手に失望しては、彼の方たちも迷惑でしょう?」
撫でてた手で頭をグワシッと掴まれて、徐々に指に力が込められていく。
「イテテッ」
「しかも、それはレン様にまっっっったく、関係ないですよね?」
ニッコリ笑ってセバスは俺たちを正座させて、ハーヴェイの森でギル兄とレンが出会ってからの話を改めて懇切丁寧に話してくれた。
あ……足が痺れて……感覚がねぇ…………。
「聞いてますか?アルバート?」
「はいっ!」
やっぱり、こいつは逆らったらダメな奴だった……。
ふむ。
アタシはレンに不愉快な態度を取った人間をどうしてやろうかしら?と思っていたけど、今回は許してやるわ。
どうせ、レンは自分が悪いと思っていて、こいつらに対して悪感情なんて持ってないだろうし。
それに、他の神獣聖獣のやらかしを言われると、アタシもばつが悪いわ。
人に迷惑かけそうな神獣聖獣なんて、それこそ心当たりがありすぎるもの。
クンッとアルバートとやらの匂いを嗅ぐと、うーん……あいつとあれかな?と嗅ぎ覚えのある残り香がしたし。
あいつらの所業を知っていたら、神獣聖獣を敬う気持ちもないわよねぇ……。
しかもブルーフレイムの街に迷惑をかけるところだった、神獣フェニックスがここにいるんだし。
アタシの背中に乗りながら、奴も思い当たることがあるのか「ぴぃ?ぴぃぃ」と鳴いてるわ。
昔、あの方に頼まれて守護していた種族のために、人の争いに巻き込まれたアタシたち。
愛した人たちのために戦ったのに、戦った相手からは当然のことだけど憎まれて……。
神獣聖獣としての神気を失い、堕ちかけたアタシたちは、崩れ行く世界を余所に長い眠りについた。
中途半端に戦いから手を引くことになったアタシたちに向かって、愛した人たちは呪詛を吐いたわ。
それもそうよね、アタシたちの力を頼みにあちこちに戦いの火種を撒いていたのに、いざとなったら最大戦力の神獣聖獣は眠っていて役に立たないんだもの。
それ以来、アタシたちは神気が満ちて眠りから覚めても、人を守護することが無くなった。
むしろ、人を愛していたからこそ憎んでいる神獣聖獣もいるかもしれないわね。
アルバートたちが神獣聖獣を忌避する気持ちも分かるわ。
守護すると謳われていた神獣聖獣の力こそが、生きる者たちにとっての害悪になっているとしたら……。
嫌われてもしょうがないかしら?
でも……それとレンのことは別だけど。
アルバートがアタシや白銀、瑠璃や真紅に不敬な態度を取っても不問にしてやるけど、またレンに意地悪したら、報復するから覚悟しておいてちょーだいね!





