火の小鳥 2
ぼくは神獣フェニックスの言葉にちょっと眉を寄せて、白銀と紫紺に確認してみる。
「さっきからおしゃべりしているの、あのこ?」
白銀と紫紺はギロッと厳しい眼差しを赤い小鳥に向けて、ガオッ!と吠える。
「お前っ、レンに対してなんだその口の利き方はっ!」
「そうよ。あんまり生意気な態度していると、めたくそにすんぞっ、くそガキ!」
はわわわ、紫紺の口調まで変わっちゃうよ。
ぼくはトテトテ、小鳥のフェニックスに近づいて、しゃがんで目線を合わしてみる。
「こんにちは。ぼく、レン」
<……………………>
ふい、と顔を背けられて無視されちゃった。
「ぴぃ」とも鳴いてくれないの。
困ったぼくは、兄様のところまでトテトテ歩いて行って、ボスンと兄様の足に抱き着く。
「レン……」
「ぼく、あのこと、なかよく、できないの?」
今までは、みんなぼくと仲良くしてくれたのに、神獣フェニックスはダメみたい。
兄様はくしゃくしゃとぼくの頭を撫でて、
「今すぐは無理でも、一緒にいる時間が増えれば仲良くなれるよ」
と慰めてくれた。
兄様の後ろでセバスが、「仲良くなるとは契約をするということでは?」と呟いて頭を抱えていたけど。
「ちょっとぉ、ヒュー。あいつをブルーベルのお屋敷まで連れて行っていいの?どこかに捨てて行きましょうよー」
「そうだぞ。あいつはあの方になけなしの力を搾り取られて火の精霊王に譲渡されたから、しばらくは無力な神獣だし。力なんてそこの火の中級精霊より無いぞ?」
「ギャギャウ!」
白銀と紫紺の言葉に嬉しくなったのか、ディディがアリスターに自慢げに胸を張っているのが可愛い。
「んー、父様の判断待ちかな?ま、神獣フェニックス様がレンと仲良くできないって言うなら、連れて行くことはできないよね?でも神獣フェニックス様ならひとりでも生きていけるでしょう」
ニッコリ笑う兄様の背後から冷たいオーラが不穏に漂っている気がする……。
<誰がお前らと一緒に行くか!俺様はここで火口に飛び込んで復活の儀式を……イテッ!>
偉そうに喋っていた小鳥は、後ろから紫紺の前足に踏みつぶされて、ぺしょんとなった。
「アンタねぇ。それ止めろってあの方にも散々言われたでしょーっ!何回復活しようと、元の力が減ってるんだから、全盛期の力なんて得ることはできないのよっ!」
「このバカ。お前、それ以上無駄に火口に飛び込んでいると、核となる命も削るぞ?弱っちい小鳥になっただけでも良かったと思え」
ぶおんっと白銀のふさふさ尻尾で転がされる小鳥。
土塗れ砂塗れになった小鳥は、ブルブル足を震わせながらヨロヨロと立ち上がり、真ん丸緑のお目々になみなみと涙を溜めて、叫んだ。
<うるせーっ!俺様は俺様は……強くなるんだーっ!強くなって、今度こそちゃんとちゃんと……あいつらを……守って、そんで……うわわわわぁん>
あ、泣いた。大号泣している。神獣フェニックス様が赤ちゃん並みの大声で泣いてます。
ぼくと兄様は困った顔でお互いを見合わせた。
ぴぃ、ぴぃと泣いては、ずずーっと洟をすすり、う゛ぇっとえづく赤い小鳥の姿の神獣フェニックス様。
白銀と紫紺とぼくとで、拙い喋りで綴られるその神獣半生を真剣に聞いているフリをしている。
兄様とセバスたちには、フェニックスの言葉が小鳥の鳴き声の「ぴぃ」にしか聞こえないらしい。
チルとチロはなんとなく感情が分かる程度で、ディディに至っては火の精霊王様を苦しめた元凶なので仲良くする意志が皆無のため会話はできるけど意思疎通は無理。
なので、ぼくと白銀と紫紺で慰めているつーか、愚痴を聞いているつーか……。
もう、ぼく帰りたいかも。
<聞いてんのか!がきんちょ。俺様はなぁ……むかーしむかしに失った我が民のことを思い、二度とそんな悲しいことが起きないように、自身を鍛えようとなぁ!>
うん、よく分からないね。
白銀と紫紺が補ってくれた内容によると、小鳥は昔は瑠璃が守る人魚族のように、自分が保護していた民がいたんだって。
でも、長くて凄まじい戦争の中で、その民たちは数を減らし、小鳥が保護する土地から出て散り散りになってしまった。
小鳥は自分の無力さを嘆きながら、その戦いで失った力を取り戻す深い眠りについた。
そして、長い眠りから覚めた小鳥は強くなるために、守る力を得るために、自分の特性でもある不死身の能力を最大限に生かす修行をしていたと主張している。
「修行って。火口に自殺のように身を投げていたのが修行だっていうの?」
<俺様は不死身だぞ?しかも復活をすればするほど強くなるんだ!>
「いや、そうだけど……。こんな短いスパンで復活しやがるから、生命力を削って周りの魔力を貪っても足りずに精霊からも盗み取る結果になったんだろうが。強くなるどころか、生命力を失って小鳥のちんまい姿になってて修行もないだろうが」
ぺちんと可愛い音を立てて、小鳥の頭を尻尾で叩く白銀。
あー、フェニックスって不死身の鳥だよね……。
そういえば炎の中から復活する伝説の鳥で、寿命が来たら自分から炎に飛び込んで復活するんだよね。
火の鳥とも言われていてるから、火山の火口に飛び込んでマグマの中で泳いでいても平気なのかもしれないけど、周りの力を奪い取るのはどうなんだろう?
白銀と紫紺にネチネチいびられて、地面に体ごと伏せてぐしぐし泣いていると、とても神獣様とは思えないけど……、ちょっとかわいそうかな?
ぼくは、小鳥のほわほわした頭をなでなでしてあげた。
くいっと伏せていた頭を上げてぼくを見つめる小鳥。
うるうると潤んだ瞳から、ポロッと涙が零れ落ちる。
よく泣く神獣様だなぁー、て呑気に思っていたら、「ぴぃ」と甲高い声で鳴いてぼくの胸に飛びついてきた。
反射的に抱っこして、よしよしと背中を撫でてあげる。
小鳥を見る白銀と紫紺の眇めた目付きにちょっとビビるけど、ねえ?兄様、この子どうしよう?