火の小鳥 1
ぽてんと地面に落ちている毛玉。
真っ赤な羽毛になんか尻尾が長ーいの。
で、ぽちゃと丸い。
「ねぇ、しろがね、しこん。これ、なあに?」
それを指差して質問するぼくに、そろーっと顔を逸らす二人。
兄様とセバスも、その丸い毛玉もどきをガン見しています。
ちょっと離れた所で、アリスターとディディが何か話しているね。
声が大きいからこっちにまで聞こえちゃうよ?
「え?あれが?マジで?」
「ギャ」
「あんなちっちぇーのに?まさか神獣フェニックスって弱いの?」
「ギャギャウ」
んん?なんか、ディディの鳴き声がちょっと馬鹿にしたニュアンスがあるような……?
「ぴぃ!」
がばぁっと小さな毛玉が起き上がり、小さな黄色の嘴で「ぴぃ!ぴぃ!」と抗議している。
ディディたちに向かって。
「にいたま?」
「うん。白銀と紫紺は言いたくないかもしれないけど、神獣フェニックス様らしいね」
「そうなんだぁ」
でも小さいよ?
とっても可愛いし。
「そうなんだ……。コイツは神獣フェニックス。今は体が小さくなっているが……本当はデカイんだ……」
白銀がうんざりしたような……、前世の仕事に疲れたサラリーマンのような哀愁を纏って教えてくれた。
散々な紹介をされた小鳥が、よっこいしょと擬音が付きそうな仕草で立ち上がると、両翼を腰に当てて胸を張りふんすと鼻息ひとつ。
「ぴーぃ!」
「しろがね……。このこ、まんまるねぇ?」
ぼくより小さい体が可愛くて頭をなでなで愛でてると、気に障ったのか「ぴっ!」と嘴で手を突かれた。
「むー、いたーい」
「「お前、何すんだっ!」」
聖獣フェニックスは、白銀と紫紺の前足でむぎゅっと地面に踏み潰されました。
「おい、ディディ。あいつ本当に神獣様なのか?」
「ギャー」
ディディのどこか呆れた声が響きました。
その後。
セバスが素早く敷物を用意して、お茶とお菓子を魔法鞄から取り出してみんなにサーブしてくれた。
ディディが美味しそうにマドレーヌを食べているのを見て、あ、トカゲって焼き菓子食べれるんだって思ってたら、兄様に「ディディは精霊だよ」と言われて精霊だったと思い直したよ。
チルとチロもずーっと隠れていたのに、今は仲良くお菓子を食べている。
火の妖精も精霊も沢山いるオルグレン山は水の妖精である二人にとって居心地が悪いらしいんだけど、ここにはあまりいないんだって。
ディディが頼んで、火の妖精さんたちに離れてもらったらしい。
「ちる。でぃでぃはへいきなの?」
『おー、へいきだぞ。あいつ、アリスターのともだちだから』
チルはそう言うと、自分より大きなマフィンにかぶりつく。
ふむ、契約したら属性に関係なく付き合えるようになるのかな?
チルとチロが水の妖精だから、ディディと仲良しになれなかったら困るなーと危惧していたので、これでひと安心です。
「それで、白銀と紫紺。神獣フェニックス様はどうするのかな?」
神獣フェニックスは、セバスに用意してもらったお菓子をがふがふ美味しそうに食べてます。
「いや……あの方のもとに送り込んで、暫く謹慎でもしてればいいと思ったんだが……」
「ちょうどここら辺一帯から奪って蓄えていた魔力も出来るだけ返して、弱体化していたし……」
神獣フェニックス様は、シエル様にかなり怒られたらしい。
あの優しいシエル様が怒るなんて想像できないんだけど?
シエル様と白銀と紫紺に囲まれて怒られたら……凹むよね?
「でも……コイツが火山に飛び込んでいたのにも理由があってな……」
「あの方がそれを聞いて同情して……」
段々、話している二人の頭が下がっていくんだけど、そんなに言いたくないことがあるの?
ぼくは食べていたマフィンをむぐむぐと口に放り込んで、二人のそばに寄っていき、ぎゅむと抱き着いた。
「「レン~」」
「いいこ、いいこなの。しろがね、しこん」
<けっ、仲良しごっこしてんじゃねぇや!お前らのせいで俺様は迷惑してんだぞ。おい!この美味いのもう少しくれっ>
「んゆ?」
なんか、とっても乱暴な言葉が聞こえたような?
ぼくは二人の首に抱き着いたまま、周りをキョロキョロ。
声の感じは兄様より年下な男の子の声。
「ちょっとアンタ!誰のせいでこんな気鬱してると思ってんのよ!」
紫紺が毛玉に向かって怒鳴る。
え?毛玉?
ぼくがお菓子を口いっぱいにお菓子を頬張る小さな毛玉を見ると……。
真っ赤な羽毛がふかふかしているぽっちゃりな小鳥。
尾羽が長ーく、嘴は黄色で丸いお目々は若葉の緑。
神獣フェニックス。
<あん?こっちみてんじゃねぇぞ、ガキんちょ>
……このお口の悪い声って、もしかして君が話しているのかな?