火の精霊王 6
神獣フェニックスの騒動に巻き込まれた、その日の夜。
レンとヒューが、宿のひとつのベッドで仲良く眠っている頃。
ベッドの足元に丸まっていたふたつの小山が、むくっと起き上がる。
「行くか」
「そうね。文句のひとつも言ってやりたいしね」
のそのそと部屋の扉を潜り抜け、宿を抜け出しハーヴェイの森へと。
仮令、外壁門が閉じられた時間だったとしても、門を守る兵は常駐しており、街の内外ともに厳しい眼を向け任務を忠実に実行している。
しかし、ふたりの神獣と聖獣はひらりと壁を飛び越え、森の暗がりへと疾走していく。
「カアーッ」
どこからともなく聞こえる烏の声。
「合図よ」
「ああ」
木々の間に濃い闇が広がっていた。
その闇の中へ、烏の誘導のままに呑み込まれていく。
そして……夜の静寂が戻り、何もかもを包む夜闇があるだけになった。
「ピイ!」
思ってたより早く再訪することになった『カラーズ』の神界。
珍しく眉を吊り上げたシエル様と、小さな鳥の姿で床にのたうち回る神獣フェニックス。
ピイピイ鳴いて、何かを訴えているが……ちっとも分からない。
「ふんっ」
イラッときた白銀は、むぎゅっと可愛らしい鳥の柔らかい腹を前足で踏みつける。
「ピイーッ!」
「うるさいわよっ。ちゃんと喋りなさい」
「ピイ」
怒っている3人に囲まれて、駄々を捏ねていた小鳥はビビッていた。
ぼくたちは朝ご飯を食べた後、すぐにブルーフレイムの街の外壁門を通りハーヴェイの森へとやってきた。
昨日とは違いぼくたちと同行する騎士は少数精鋭のみで、あとはオルグレン山の監視に回すらしい。
念のため、竜を見たと騒いだ冒険者たちと一緒に行ってもらうんだって。
ぼくたちは、昨日小休止した場所まで歩いてくると、火の精霊王様の迎えを待つことにした。
「あいつ……来るかな?」
「来るだろう。トカゲはお前のことを気に入ってたしな」
兄様にしては珍しくニヤニヤと笑って、アリスターを揶揄う。
ぼくは、いつも一緒にいた白銀と紫紺が朝から傍にいないので、ちょっと不安です。
朝ご飯を食べているときに、二人がいないのに気づいてパニック状態になったぼくに、兄様が部屋に残されていた手紙を見つけて読んでくれた。
どうやら、昨日強制的にシエル様の所に送った神獣フェニックスの様子を見に行っているらしい。
なにそれ、ずるい。
ぼくも行きたかった……。
あとで火の精霊界で合流すると書かれていたから、二人がいないままで移動してきたんだけど……寂しい。
「レン。もうすぐ白銀と紫紺に会えるから、頑張って!」
「あい……」
兄様とセバスが元気のないぼくを心配して、焼き菓子とか飴とか食べさせてくれるけど……、もぐもぐ、美味しいけど……、寂しいよ。
「ギャウ、ギャギャ」
ガサガサと音がしたと思ったら、茂みからひょっこりとトカゲが顔を出した。
「あ、トカゲ」
アリスターがトカゲに気づいて、すぐに抱き上げる。
なんだか……昨日より色艶がいいみたい?体の赤い鱗がルビーのように輝いているような?
「なんだか、昨日より元気そうだな」
兄様も、昨日のトカゲとちょっと違うと思ったみたい。
「ギャウ!」
トカゲも見て見て!と言わんばかりに、丸い胸を張ってみせる。
「そうか。元気になったか。よかったな」
よしよしとアリスターがトカゲの頭を撫でると、「ギャーウ」と嬉しそうにひと鳴きし目を細める。
「では、精霊界まで連れて行ってもらおうか」
「できれば、私もお供したいのですが……」
セバスがトカゲにお伺いを立てている。
そんなに行きたいのかな?精霊界に?
「ギャウ!ギャギャウ」
何を言ってるかわからないけど、トカゲは「任せておけ」というように何度もコクコクと頷く。
「さあ、空間移動で洞窟まで連れて行っておくれ」
兄様のお願いに、アリスターの腕からぴょんと飛び降りたトカゲは、火の妖精を沢山集めてハーヴェイの森の空間を歪めてみせた。
さあ!火の精霊界へ行くぞ!
瑠璃が教えてくれた湖の秘密も知りたいし、早く白銀と紫紺に会いたいからね。