転生前のぼく
ぼくのお部屋は、暗い押し入れの端っこ。
ママやママのお友達がいるときは、絶対に出てはダメ。ひとりで外に行くのもダメ。
でも、こっそり散歩はしているよ。
ママはお昼の遅い時間に起きて、夕方には仕事に出かけるの。
そうしたらぼくは、お部屋から出てテレビを見てご飯を食べる。ご飯はパンとかお菓子とか、ママとママのお友達が残した物。
学校?
学校はちょっとだけ行った。
その後は、知らない大人の人たちにママが文句を言われて、行けなくなった。もう何年も行ってないから友達もいないの。
朝方に帰ってきたママやママの友達の機嫌が悪いと、怒られる。
何も悪いことしてなくても…。叩かれたり、蹴られたり。すごく怖くて痛いから体を丸めてジッとしてるの。
今日も、大分お日様が眩しくなってからママとママのお友達が帰ってきた。
ママのお友達はすぐに変わる。若い男の人で怖い人ばかり。昔、優しくしてくれたおじさんみたいな人がいいのに、ママのお友達は、ぼくのこと嫌いな人が多くて悲しい。
あれ?
ママとママのお友達がケンカしているよ。
ケンカすることはよくあるけど、今日のケンカはなんだか怖い。ガタンガタンと椅子とかが倒れる派手な音がする。あんまりうるさくすると、隣のおじさんに怒られちゃうよ?
その派手な音や二人の怒鳴りあう声がしばらく続いて、ぼくは怖くてそっと押し入れの戸を開けてみた。
「ぎゃあああぁぁぁ!!」
ママのお友達の叫び声にびっくりして、「ひっ!」と小さく悲鳴をあげてしまう。慌てて両手で口を抑えてママを窺った。
ママは倒れたお友達の側で立ってる。フーフー肩で息をしながら。
いつも綺麗に巻いてる髪の毛がボサボサになって、洋服も破れて汚れてるよ?なんで、赤く汚れてるの、ママ?
そろりそろり、押し入れから這い出て覗き込むようにママを見る。
いっぱい泣いたのかお化粧が崩れて、きつく唇を噛みしめてる。
そして……寝ているママのお友達の体の下から赤い色が段々広がっていくんだ。
ポタポタとママの右手からも赤いものが垂れて落ちる。
ねぇ、ママ。その右手に持っているのは、なに?なんでママのお友達は起きないの?
ねえ、ママ。なんで、ぼくのこと怖い顔で睨むの?
なんで、右手をぼくに向けて振りかざすの?
ギラッと光るママの握る銀色の何かが、すごく怖いよ。
ねぇ、ママ。なんで、ぼくを……愛してくれないの?
「あんたなんて、産むんじゃなかった」
胸に熱い衝撃を感じる瞬間、ぼくの目から一滴しょっぱいお水が流れました…。
「はじめまして、レンくん」
閉じていた目を開けたら、キラキラ眩しいほど綺麗な知らない男の人が、ぼくを見ていました。
え?ぼく、どうしたの??