表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/15

第8話 火砲と空対空戦術


 お父様は新金属――道化師・ユーリの言うところのアルミニウム――を用いた全く異なる光沢をもつ食器を『金より高価な銀食器』という名目で売り出したそうだ。

 まあ、銀食器のように簡便な毒を発見する効果は無いのですけれど。そしてユーリから言われたのは「腐食には比較的強いけれど、銀よりかは強度に難があるので取扱いと管理は慎重に」とのこと。まあ金より高価であると銘打っている以上雑に扱うことは少ないだろう。

 それに事実我が領からは贈呈用として近しい貴族や上位貴族に送ったものを除けば、商人らと談合して敢えて値付けをせずに購入したい貴族の言い値で判断するようにごくごく少量を流しているので、我等の考えた卸売価格の数倍どころか十数倍の値で売れているらしい。あまりに商人に卸した値と乖離する価格が付けられていることから商人側がその圧倒的な利益に恐れをなして売れた後にわざわざ公爵家へ利益の献上に上がる程だ。


 ……卸売価格の時点でユーリの出した原材料費見積もりの十倍程の値にしたはずなんだけどな。そもそも原材料費時点で来客用に一式揃えるとそれなりの家が建つくらいの値はするが、末端価格はその百倍近くとなるというわけだから、それは商人も恐れをなすわけである。


 流行が去り新金属に対する盛り上がりが収まった後に、装飾を簡略化した廉価品を売り出そうとも考えてはいたが、しばらくはその構想は後回しでも良さそうなほどに貴族らは新金属に熱狂している。


 これまでいくつも我がファブリシア公爵家に対して様々な恩恵を与えてきた道化師・ユーリであったが、ここまでのものは無かったかもしれない。

 その当人のユーリは、この熱狂を予想していたかのように早々とアルミニウム事業から撤退しセバスの子息へと引き継いでいて、第一線からは退いていた。なので、セバスの一族はこの降って沸いた新金属の投機騒ぎに対応を余儀なくされている。……無論、他領より人材の引き抜きをされたりしたらたまったものではないので、褒賞は相当なものを出しているが。


「……で、そのユーリから手紙か。セバス、なんて書いてあった?」


「はっ。ユーリ殿の言うところの火砲――魔物討伐用の新兵器ですが、ひとまず進捗を報告したいとのことで、近日中にお嬢様同伴の下で試射を行いたい……との旨で御座りまする」


 ユーリを道化師として迎え入れた当初から攻撃魔法の代替武装として『銃』の開発を行っていたが、それを魔物討伐用の衝撃力の強い兵器開発への変更を命じていた。そもそも本当は彼女を金属精錬事業に任せた理由としては食器の製造ではなく、こちらのためであった。


「……まあ、行きましょうか。セバスも来る?」


「いえ。この時期にお嬢様と共に本邸を離れてしまっては新食器の販売対応を任せるには倅では少々力不足でして。私は残りましょう」


「あら? ……そう。でもいい加減あなたもいい歳なのだから次代の育成に励みなさいよ。いつまでも自分で監督し続けることは出来ないのだからね」


「私も全く同じ気持ちでしたが、流石に動く金額が金額ですので……」


 それはそうか。

 ……全く道化師め! セバスの心労を増やしやがって! 八つ当たりでもしないとやってられん。




 *


「――へえ。結構、飛ぶじゃない。

 前の『銃』のときが5歩の距離で外すことを思えば、かなり形になったわね」


「……やはり命中精度が問題ですね。火薬の品質の問題上、初速はそこまで速くないですし、そのせいで滞空時間が間延びして空気抵抗や風の影響を強く受けている。

 砲側の強度と耐熱性もまだ満足に行くレベルではないし、これでは連射を繰り返すのは危険だけれども……」


 覚悟はしていたが、今回は以前の『銃』とは比べ物にならない程の爆音が鳴り響いた。かなり距離を取った上で射撃中は耳栓までしていたのにも関わらず。相も変わらず、この音で戦場を一変させようと考えているのかと思う程。


 しかし、今回は音だけのこけおどしではなかった。ドラゴンの鱗を想定したという分厚い壁のような標的に砲弾がぶつかるとともに炸裂すると木っ端微塵に破壊することに成功していた。……威力は十二分。

 ただその一撃は、最初の砲撃から修正を行った8発目。確かに距離はあったために仕方は無いと割り切ってはいるのだが、道化師・ユーリからすれば8発目命中は不満が残る結果であったようだ。


「……まあ私は前の『銃』を知ってるから、これくらい逸れるのは許容範囲だと思っていたけれど違うのかしら?」


 私がそう尋ねれば、ユーリは即答する。


「お嬢様。今回の試験は事前に標的を立てた位置から砲撃場所まで測量を何度も重ねておりますし何なら標的なしで射撃も何度か試しております。更には半年以上この周辺の気象……特に風の情報は細かく集めています。それでリアルタイムで風を観測し、その情報も踏まえた上で常時修正しながら射撃を行った上で、静的目標の撃破に8発かかっているのです。

 ここまでの理想環境を整えてもこれ程の命中率では……」


「戦場では使い物にならないってことね。ユーリの危惧は理解したわ」


 確かにこれを魔物討伐や戦場で運用するにしても、ここまで事前に戦地の測量や気象観測を行うことは決してできない。何より、ドラゴンや魔物は当たり前だが動く。

 動かない目標に対してこれだけ当てられないのだから、使い勝手に難があるというのも仕方がない。


「それだけではありません。

 この命中率でも射撃の安定化を行っているのですが、そのせいで運搬に難が生まれる程に重くなってしまいました。

 本日はお嬢様がいらっしゃる前に、事前にその場で組み立てを行いましたが……」


 更に増える指摘は運搬面の問題。人の手で運ぶのにはあまりにも重すぎるのである。だから実際に運用する場面でも、今日のように戦地で組み立てるか、あるいは組み立てた状態で荷車か何かに載せて何頭かの馬に曳かせるしかない。

 前者は組み立て時間中全くの無防備になる欠点があり、後者は貴重な馬をこの砲1つのために割く必要がある。どちらも使い勝手の面で脆弱性となる。


 そして、更にユーリは追加で懸念点を増やす。


「……何より。運搬に難があり回避できない割に防御力の類は皆無ですので、実際に使うのであればそこも十分勘案していただかないと……」


 確かに、ここまで欠点が目立つとユーリが命中精度に対して妥協できなかったのも理解ができる。

 最大の恩恵は魔法使いすら難儀するような間合いから攻撃を繰り出せる点。そして威力も申し分ない。しかし、それ以外の面では魔法使いに全て劣る。


 裏を返せば本来魔法使いを運用する場面で、代用できなくもないことだが移動に不向きで単体防御力はない。となると作ってみたが良いが、もしかして魔物討伐用と言うより……。


「拠点防衛に使った方が、むしろ良いかもしれないわね。

 少なくとも防衛であれば測量と気象観測の問題は解決するから、少しでも今の条件に近付けることはできるはず」


 そして拠点側の防備で守ることもできる。悪くは無いのでは。


「……あの、お嬢様。その……拠点って、空からの襲撃はあります?」


「辺境伯や王家クラスになればドラゴン騎兵があるけれど、それがどうかしたかしら?」


「あー……。火砲って空からの襲撃には弱いんですよね……。

 射程を伸ばすために高所に設置する以上目立つし、仮に砲身を上向くように改造しても当たるかどうか……」


 確かに改めて火砲を見た感じ、正面に対しての攻撃しか出来そうに見えず、確かに上方に対して無防備である。


「……この砲ではなく、別に作るとしても駄目なのかしら」


「……対空砲ですか。ドラゴンへの直撃を狙うのよりもそこに騎乗している兵さえ倒せれば無力化できる。……となると近接信管? いや技術精度的には時限信管、それも導火線を用いたものが限界だけれども。それに射撃管制も無ければ即応できないし、何なら連射に耐えうる砲身はどうやって作れば……」


 相も変わらず問題点を考える時には、全部口に出る道化師。発想として空を砲撃する火砲の存在はどうやら想像は出来ているようだが、実現性に乏しいといった様子。

 静的目標に難儀するのに空を飛び回る物体に当てることを指向すれば当然か。


 しかしドラゴンそのものを倒すのではなく、騎乗兵を倒す……というのは存外悪くない。対空戦闘に強い魔法使いも似たような戦い方をするし、魔法使いがいなければ弓兵やバリスタなどで確かに騎乗兵を狙う。


「……まあ、『拠点防衛時の防空手法』についてはユーリに任せるわ。別に砲で対処しなくても地上に置く砲が守れればそれで良いわよ」


「……そういうことであれば、少し考えてみます」



 ちなみに、それから数か月後に、紙と油に対して大量の予算要求がこの道化師から寄越されることになる。




 *


「――お嬢様、できました!

 実際に空飛ぶ生き物を傷つけることは出来ないので、あくまで今から飛ばす砲弾を敵が通過した……と考えてください」


「……わ、分かったけれど、またすごい光景ねこれは……」


 対空防衛が完成したということで、改めて先の試験場を訪れてみれば、そこの様子は一変していた。

 空には幾つもの巨大な紙袋のようなものが浮かんでいて、地上から紐に見える何かで括りつけられている。


 そして、その空中の紙袋目掛けて砲から砲弾が発射される。

 その轟音に気を取られていた一瞬で、紙袋は大爆発を起こし炎上。しかもその爆発によって周囲の紙袋も巻き込まれ延焼で更に爆発が発生。空は瞬間的に炎に包まれたのである。


「――着想は、阻塞気球のイメージですが……。

 燃料搭載部に油と火薬も仕込んでいるために熱気球の嚢が破壊されたりすると油がバーナー部分に垂れて大炎上、そして火薬に火が移って爆発……という流れになっています。

 一応爆発は下に垂れ下がる紐でも制御できるので、事前に組み込んでおけば紐部分を敵航空戦力が通過し、紐を引きちぎるだけでも爆発が起こるようにはできます。


 欠点は事故が起こりやすいことですね。設置時に取扱いを誤れば爆発しますし、暴風が吹き荒れれば、今の水準ですとそれだけで爆発します。なので火薬は少量に留めておりますが……」


「……いや、充分よ」


 実用にはまだ耐えられないという話ではあったが、彼女の為すものの威力はすさまじい。この防空網も使い切りではあるが、空を埋め尽くさんばかりに紙袋……気球を飛ばすことが出来れば、どうなるであろうか。

 その異様な陣容と、それらが噛み合った時の敵軍の被害を想像して私は俄かに身震いするのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ