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五月十日 家

 GWが終わって数日が経つ。あんな結果だったとはいえ、新入生への部活動紹介も終了し、一先ず生徒会としての当面の仕事はクリアになった。そんな日の深夜に差しかかろうとする時間だった。

 自室。あたしは一人、再来週に迫る中間テストに向けてテスト勉強に励んでいた。しかし、どうも集中力が散漫だった。いいや違う。これでは集中力が散漫なのは今日だけに聞こえてしまう。そうじゃない。最近あたしは、ずっとこんな感じだ。


 あの日。

 鈴木君が部活動紹介の場で野球部部員と喧嘩をした日のことが、どうしても脳裏によぎってしまうのだ。

 あの後、その場で一件を見ていた人達多数にあたしの伝手を使って当時の状況を教えてもらった。

 彼ら曰く、鈴木君は野球部部員の些細な茶化しを間に受け、怒り狂いマイクを放り投げるは、壇上に押しかけて物凄い剣幕で罵声を浴びせまくるは。日頃の落ち着いた彼からは想像も出来ないような立ち振る舞いを見せたそうだ。


 その話を聞く限り、申し訳ないがあたしもその一件は鈴木君ばかりに非があるように思えてしまった。

 というより、今も鈴木君が悪いと思っている。無関係の人が見た客観的な意見がそうなのだから、あたしも同様の印象を抱いても仕方がない。

 当の鈴木君と、あれ以来会話をする機会に恵まれないのもそういう印象を抱いてしまう理由の一つだろう。


 風邪から快復して以降は、彼とはクラスも同じだし、生徒会でも一緒になるし、いつでも話は出来るだろうと高を括っていた。しかしあの日以降、彼は生徒会はおろか、学校まで休みガチになっていた。そしてあれよあれよとGWが始まり、今に至る。

 まさかその機会にGWが過ぎるまで恵まれないとは、当時から想像は出来なかった。

 おかげであたしの中で、悶々とした感情がくすぶり続けている。

 

 ただ、恐らくあたしの抱いた通り、かの一件はやはり鈴木君に非があるのだろう。部活動紹介の後、実はその一件を重く見た校長先生に、鈴木君は呼び出しをされたらしい。野球部部員はお咎めなしで、鈴木君だけが。

 校長先生の叱咤にも、鈴木君は頑なな姿勢を貫き続けたそうだ。


「悪いのはあいつだ」と。


 しかし、その野球部部員が呼ばれずに彼だけが呼ばれた時点で、全てが明白な気がした。生徒目線からだけでなく、教師陣営から見ても彼の対応が異常と判断したから、呼び出されたのは鈴木君だけだったはずなのだ。

 事態は彼の母親が現れ謝罪をしたことで事なきを得たらしいが、多分彼が学校を休みガチになったのはその一件が原因なのだろうとあたしは睨んでいる。

 タイミングから見ても。校長先生との対話を見ても。

 そうとしか思えなかった。 


 ただだとしたら、だ。

 正直少し幻滅する。生徒会という学生をまとめる立場にも関わらず、自分の腹の虫が悪いからと怒った彼に。

 酷く、幻滅してしまう。


 そして、周囲もそれは同じであろう。もしかしたら、彼が生徒会書記になれるよう取り計らったあたしにも巡り巡って非難の声が飛ぶかもしれない。

 まあ、それは別に構わない。学生の他愛事なんて、放っておけばその内収まるだろうから。


 ただ彼への非難の声は当分続くだろう。実行犯は彼なのだから、当分彼は学校でもい辛い思いをするだろう。


「彼、中間テストの後はキチンと生徒会活動に参加してくれるかしら」


 テスト期間が近いこともあり、他の部活動よりも少しだけ早く、我が生徒会は勉強に集中するための活動禁止を顧問に言い渡されていた。直前で問題を起こした彼にとって、良いタイミングでの休みになったはずだろう。

 ただ元の鞘に収まるという意味では、最悪のタイミングでの活動禁止だったはずだ。

 こういう確執を解消するのなら、先手先手での行動が必須だ。長引けば長引く程尾を引くから。

 彼の激怒事件から、もうまもなく二週間が過ぎようとしている。


 彼は果たして、中間テストが終わった後にまた生徒会活動に参加してくるのだろうか。


「何とか出てほしいけど……」


 自分が彼を任命したという手前もあったが、何より一番は人手が減ることへの不安でそう言った。新入生を迎えいれるために忙しなく活動していた四月を振り返って、我が学校の生徒会活動は六人という少人数編成で挑むには中々にタイトなスケジュールであるということを実感させられた。

 いくら問題を起こしたといっても、彼の手は間違いなく今後の生徒会活動で必須になる。だから、このタイミングで抜けられるのは非常に困る。

 テスト後、生徒会主催ですぐ実施される体育祭のことを思っても、彼が抜けることでのマンパワー不足への不安は否めなかった。


「お願いよ。鈴木君。あたしを助けてよ」


 最早神頼みするような気持ちで、あたしは祈った。

 そして、気付く。

 今日もここまで、勉強にまったく集中出来ていないことに。まったく、こんな状態になってしまったのは彼のせいだ。


 大きなため息を吐いて、彼の復帰を祈りつつ、あたしは気持ちを入れ替えるように机に広げた参考書に集中をした。

 室内ではアナログ時計の針が揺れる音だけが規則的に響いた。 

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