帰省
「皆様、当機は間もなく新千歳空港に到着いたします。」
このアナウンスが飛行機内に流れたのは羽田空港を出発して1時間30分後のことだった。
今日は、8月13日。私は年に1度だけ18年間生まれ育った北海道に帰ってくる。
ここはいつも暮らしている東京とは違い春風のように暖かく迎え入れてくれる。
新千歳空港には、年々目に見えて老けていく父と母が迎えに来てくれていた。
父は、私と1年ぶりに会えたことがうれしいのか、車が待っている駐車場に到着するまで話しかけてきた。
車内に入り冷房が機能し始めた頃、父は思い出したかのように聞いてきた。
「そうだ。お腹空いてないか?」
「んー、ちょっと空いてるかな」
「じゃあせっかくだしラーメンでも食いに行くか!」
「んー、ラーメンかー」
「ほら!家の近くのお母さんが料理作るのめんどくさいときによく行ったラーメン屋とかどうだ?」
15時を知らせる音がカーラジオから流れた。
「今ラーメン食べたら夜の御馳走がお腹に入らなくなりそうだからいいや」
そう私が言うと父の少し寂しそうな顔がルームミラーに映り、数秒経ってから父は納得した。
それから私は、宝物のように握っていたスマホに目を落とし操作していたが、ゆりかごのように揺られる車内でいつの間にか私は眠っていた。
「着いたわよ」
母の優しい声が私の耳へと届く。
目を開くとそこには見慣れた家が懐かしそうに私を見下ろしていた。
「ただいま」
けだるく重くなった体を起こし車を後にすると私は、去年と変わらぬリビングへと足を運ぶ。
リビングにあるテーブルの上には、お客様、兼、自分たち用だと思われるお菓子入れに味しらべが置いてあった。
私の大好物である。
この些細なことが実家を離れて暮らす私の心に強く刺さりほんのり涙がにじみそうになった。
涙が出ないようにリビングから逃げ出し私の部屋に荷物を置きに行った。
部屋のどこからか女子高生の相棒であったニベアの日焼け止めのにおいがふわりと香り、懐かしい気持ちになったと同時に今年もまた、東京に帰るのが嫌になった。