81話
「本当にあの兄さん何者なんだよ」
自分とそう変わらない年齢なのにまるで歴戦の英雄が纏っている雰囲気を醸し出している。
戦えば一瞬にして仕留められる力量を持つ得体の知れない化物。
密かに二人のやり取りを見ていたピットが疑問に思うのも無理がない話だ。
「ホントそれ、ムカつくっちゃありゃしない」
「今もおなか痛い」
ピットは自分の小さなつぶやきに反応され、しかもエリートの彼らが来たことに飛び退くくらい驚いた。
「何そんなに驚いているの、ダッサ」
「いや普通に驚くでしょう! てかこんなところにいていいんですか?」
「それが騎士団総長殿の命令だ」
そしてもう二度と会うことはないだろうと思っていた白雪姫の騎士団の団長であるイルヴァランも登場。
ピットは何であんたまでここにいるんだという視線を苦笑いしながら向ける。
「何故私までここにいるんだと思うか?」
「ええ、まあ、はい」
「姫に頼まれたからだ。貴様のことだからこの戦いに参加するだろうから様子を見に来て欲しいと」
「へ〜、あんたずいぶんと姫様に好かれてるじゃない。どうやって口説き落としたの」
このこのと頬を肘でつついてくるこの妖精ぶっ飛ばしたい、気持ちではそう思っているが相手は王直属の親衛隊のメンバー。
今の自分じゃ逆に返り討ちにされてしまうと思いなすがままにされていた。
と、そんなピットは背中を思いっきり蹴飛ばせれてしまう。
「おいコラ、何一大事な時にナンパなんてマネしてんだよ」
「ご、誤解だよヴィルグ兄さん、ちょっと助けたらなつかれてしまって」
「ほう、それでは姫からの好意が邪魔だと言いたいのか?」
あちらが立てばこちらが立たず。
少し弁明の言葉をミスっただけで今度はイルヴァランが機嫌の悪い態度をしだした。
まだ戦場に向かう前と言うのにピットは一人正念場を迎えていた。
「っと、こいつで遊んでいる場合じゃなかった。エルドアン達と作戦の打ち合わせがあったから連れ戻して来たんだった」
助け舟は思わないところから出された。
彼を窮地に追い込んだ張本人であるヴィルグが用事を思い出しピットを連れて行こうとする……襟を掴み引きずるというむちゃくちゃな方法で。
「ちょっとヴィルグ兄さん、俺自分一人で歩けるって」
「こうしておかないとどこほっつき歩いて新しい女を引っ掛けてくるかわかんねーからな」
「それ単なる被害妄想! ……これだからロリコン野郎は」
「……」
「ちょっと襟を巻き取らないで! 首締まっているから! 冗談抜きで窒息するから!」