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79話

部屋に入ったクレイドルは中の様子を見て思わず眉をひそめてしまう。


中が自分が想像していた以上にひどい状況になっていたからだ。


部屋の至る所血だらけ、とてつもない悪臭、何よりも拷問を受けていた青年の状態である。


生きているのか死んでいるのかもわからないほど体はボロボロにされ、腕や足などは斬り落とされ、それをミンチにしたものを食事として出されている。


いくら敵だからとしてもまだ年端もいかない青年にここまですることはないだろう。


そう思ったクレイドルはこれをした男(オペルド)に対して自然と怒りを感じ強く拳を握ってしまう。


「……ガンジダゴドノナイゲバイ、ヅギバナニヲズルノ」


目やのどだって容赦なく潰されている。


目を見ることは出来ず、声だって理解出来るか出来ないかくらいの、空気を吐いているとしか思えなかった。


クレイドルは問い掛けられたことで我に返り、問い掛けてきた青年ーーアルクの元へと歩いて行き治療と清掃を行なって行く。


「これはまた優しいことを」


と言っても失った部分は戻らない。


せめて言葉をしっかりと話せるくらいに潰された喉が戻ったこと、それから会話を成立させるために残った耳の聴力が戻ったくらいだ。


「見ていて不快に感じただけのことだ。礼を言われる必要なんてない」


「それでも感謝を」


「お前……かなり変わっているな」


「よく言われる」


色んな人を見てきたクレイドルでもアルクという人物は変人でしかなかった。


「それよりもご用件は? わざわざ治したということは私に何か用件では?」


「うちに喧嘩を売った愚か者がどんなものか見に来ただけだ」


「そう、実際にどうだった?」


「聞いていた以上におかしい奴だと感じた」


「ごもっともな判断で」


「同時に知りたくもなった」


クレイドルは近くにあった椅子を魔法で引き寄せ、前傾姿勢で聞き入るようにアルクの話を聞こうとする。


「何故そこまでしてお前は仲間のために命を捨てられる」


「これはさきほど貴方達のボスにも話したけど私の仲間が私よりも可能性に満ちていて私を身代わりにした方がいいと感じたから」


「合理的で打算的な答えだな。けど、お前がそこまでもあっさりとしているのにはまだ何かしらの理由があるんだろ。……まさかとは思うが仲間が助けに来てくれると思っているのか?」


「そのまさかだよ……実行して欲しくはないけど」


彼らならそれくらいのことをしてくる……自分の思いとは正反対にとアルクは思い嘆く。


「実行して欲しくないだと、助かる可能性があるというのにか」


「確かにその可能性はある、同時に彼らが危険にあう可能性だってある」


「……」


「私はね、彼らがどう成長するのか見ていたいんだ。そして私の仲間はこんなにも凄いんだと知って欲しいんだ」


「そのために自分の命はいらないと」


「たかだか身が滅びるくらいでしょ」


死ぬのなんてただの通過点くらいしか思っていない。


宗教の狂信者だってもう少し生に対して思うところがあるだろう。


だと言うのに目の前にいる青年はとても理性的であるけど色々とぶっ壊れた感情の持ち主だった。


クレイドルの目から見て彼はとても異質な存在であり……どこか面白いと感じる存在だった。


「そうか」


どこか満足げな表情をして席から立ち上がる。


「もういいの? 君の仲間みたいに拷問とかしていかないの?」


「あいにくと俺にはそんな趣味はない。何より無駄なことは嫌いだ……どんなことがあろうとも話そうとしない、少し話しただけでもお前はそういう奴だとわかった」


「そう。……優しくしてくれたから一つ忠告を」


「なんだ?」


「逃げた方がいいよ。じきにこのクランは壊滅する」


「だろうな。作戦が失敗して騎士団が出てくる。そうなればこのクランだってただじゃすまない。けど逃げない、あの怪物を生み出してしまった責任は取る」


それだけを言い残してクレイドルはさっそうとその場から去って行く。


その背中は見えない、けど気配で感じ取ったアルクは彼の背中に顔を向けて、


「嘘、君も私と同じなんだよ。信じているものに付き従う……例えそれが破滅に向かおうとも」


そうつぶやく。

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