5話
「ふざけるな……」
沈黙に包まれていた宿場に静かに沁み渡る声。その声は先ほど豪胆を吐いたリュートのよりも弱々しくとても頼りないもの。その声の主の目は先ほどの余裕じみたものではなく一種の憎しみがこもられてものでもあった。
「ふざけるな! たかだかルーキーの田舎者が誰の下にも着きたくないだと! お前達は自分が王様か何かかと思っているのか!」
「まあ普通はそう思うよな」
ヴィルグは荒れ狂う業火の如く怒り散らしている男を冷静な目で見ながら呟く。リュートが言っていることは理想論だ。
誰もが自分が一番上にいたい、誰の指図も受けたくないと思っている。しかし現実はそう甘くはなく多くのものは誰かの元で働いている。
この男だってそうだ、中堅ギルドのギルマスと崇められているが実際のところ彼はこの国を支配する十のクランの一つの使いパシリだ。
だからこの現実を知らないクソガキのいうことは腹立たしく許容出来ないものだった。
「王なんてめんどくさいものに誰もなりたくないよ」
けどこの男は普通じゃない。今だって王のことを卑下している。もし憲兵なんかいたら不敬罪で即逮捕なものだ。
「めんどくさいだと……」
「そう。色々と命令をしていつも人の目に晒されて勝手に気ままに動くことも出来ない。何それ、拷問か何か? 僕だったら頼まれたってやりたくないね」
踊るようにクルリと男の方向に振る向く。表情は先ほど見せた貫禄あるものから宝物を大事にしている子供のような屈託ない笑みを浮かべていた。
「どうせなるんだったら王より英雄っしょ。好きものを食べ好きな場所に行き好きな人に愛を語らう。短い人生だから好きなように生きなきゃ。それに――」
ゾワり、男は身の毛もよだつ感覚に苛まれる。コロコロと表情を変えるこの目の前にいる小僧が本日初めて見せる残忍な表情。
それはこの王都でギルドのマスターを背負っている男ですら恐怖を禁じ得ないとても得体も知れないものだった。
「城に籠もっていたらグルーミアを殲滅することが出来ないだろ?」
眼には静かな闇と怒りを感じさせる。男はその仕事柄復讐者というもののを何度も見たことがあり、それを自分に向けてきたもの達を次々と排除していった。
けどこの男は少し違う、どんな手を取ってでも成し遂げてやる、そう感じさせる凄みというものがあった。
「お前……頭おかしんじゃないのか?」
「ああそうだろうな。頭がおかしくもなければこんな馬鹿な行動をしようとは思わないだろうな」
いつの間にかリュートの隣に立っていたヴィルグは平均より少し身長が低い彼の頭を撫でる。
もちろんそれは子供を優しく撫でるものではなくどちらかと言えばペットを撫でるような少し荒々しいものだった。
当然ながらリュートは手を払い除け色々と言っているが……ことごとく無視されている。
「けど俺らはその馬鹿の元に集まった同じ馬鹿野郎どもだ。従わせたかったら同じ理想論で口説き落とすか――力でねじ伏せてみろ」
ギルド=会社
クラン=財団
会社を作る前に財団を作ろうとしていたリュートは正真正銘の馬鹿