2話
「お前らが煌く華だな」
鴨がネギを背負っているものだ。遠慮もなく豪快に開けられた扉。その奥から屈強な男がゾロゾロと流れ込んでくる。
その数は五人十人とは収まらず、あっという間に座っていた彼らは囲まれてしまった。
あまりの光景に看板娘であるミククは恐怖しその場に座り込んでしまった。
「揃いも揃って暇人かお前ら。たかだか四人のためにこんな大人数で押し寄せて来やがって」
言葉と共にコインが弾かれる。
コインが向かった先は自分達を囲んでいる屈強な男達ではなくその場に座り込んで今にも泣き出してしまいそうなミククだった。
ミククは戸惑いながらもその飛んできたコインを両手でキャッチする。
「それは迷惑料だ。受け取ったら大人しく店の奥に隠れてな」
声をかけたのは意外にもヴィルグだった。視線はある一点を向けながらもぶっきら棒に労ってあげている。
その声に腰が砕けてその場に座り込んでいたミククも少しは正気を取り戻したみたいで泣きそうになりながら店の奥へと走っていった。
「ヒューカッコいいヴィルグ君、こんな状況なのに平気で口説いてる」
「ぶん殴るぞお前」
「せっかく褒めてあげたのに」
リュートは拗ねた子供のように口を尖らせる。囲まれていると言う状況なのにまったく気にした様子もなくいつも通りの会話を行なっている。
それは隠れて様子を伺っていた他の来客達にとってはとても信じられない光景であり、彼らを囲んでいる男達の苛立ちを増幅させる光景でもあった。
全員額の青筋を立てて今にも殴りかかろうとする者までいる。
「さすが命知らずのルーキー達」
それを止めたのは彼らの身内の者達だった。まさに鶴の一声、声をかけられた途端男達は冷静に戻り一斉に左右に分かれてその声の主の道を作った。
やって来たのは三十過ぎの知性的な男。ただどことなく胡散臭さは感じられる笑みを浮かべている。
「それとも無知な田舎者かな?」
リュート達の前までやって来たその男は未だに平然と席に座っている彼らを見下げる。表情は完全に見下しておりまるで自分の勝利を疑っていないようだった。
「で、そんな俺たちの元へ団体さんでやって来たチキン野郎はいったいなんのようで?」
こちらもこちらで負けていない。両手を編むように組み、深く腰をかけ、まるで話を聞いてやらんことはないと言わんばかりの態度でヴィルグが代表して聞く。
さすがのその態度には主犯格の男もいい気はしない。先ほどの余裕な態度はどこにもなく今にもヴィルグの胸ぐらに掴みかかろうとしていた。