27話
「本当に彼らは何を考えているんだ」
鬼上官の命令でヴィルグ達を尾行していたクライフが辿り着いた先は不動産屋。
しかもただの不動産屋ではない、この国の10クランの一角、商業関係をおよそ四割支配していると言われている神のおもちゃ箱に所属している中堅ギルドの直営店だ。
つい先日屋敷を手に入れたというのにまた新しい家を買おうとしているのか。
いや、もしかしたらギルドハウスと住宅は別にするのか。
色々と考えるがクライフにはまったく理解は出来なかった。
「予想以上にいい見積もりを出してくれたな」
「さすがにあの土地とあの屋敷であのくらいの値段を出してくれないと困る。まあもうちょっと粘ればもっといい値段で売れただろうが今は時間がない。それにあそこのクランには好印象を抱いてもらわないと」
「商人ほど敵に回すと厄介なものはいないからな」
「よくわかっているじゃねーか」
彼らが不動産屋に来ていた理由、それはあの屋敷を土地ごと売っぱらおうと考えているからだ。
前代未聞である、せっかく苦労して手に入れたギルドハウスをたった1日使っただけで売り払おうとするなんて……普通のものじゃ考えられない考えだった。
事実、後から知ったクライフは奇声を上げて驚いたらしい。
「……だがよかったのか? 元の持ち主はあれだがなかなかの物件だったんだぞ」
「確かにそうだろうがあんな悪趣味な屋敷は使う気にもなれない。それにあんなところに屋敷を構えてたらどうぞ狙ってくださいと言ってるもんだ……そうだろエルドアン」
「ああ、戦闘目的であそこを使うならあそこは最悪だ。周りはもっと堅い壁で囲み敷地内はトラップを仕掛けなくてはな」
「……そこのところはお前に任せる。けど屋敷の方はアルクに全委託している」
「……あああの人を駄目にする屋敷か」
ここ半年は宿屋に泊まっていて使用していないがあれは駄目だ。
何もかもが快適すぎて外に出たくないという気分にさせる。旅の途中で街に立ち寄る度になんど絶望したことだろう。
この前まで使っていた宿屋はなんとか我慢出来たがそれでもあの屋敷には敵わない、昨日使った屋敷ですらかすんでしまうほどである。
「田舎にいた時にコツコツと造ってあれだからな。それがこの王都に来て色々と学んだんだ、さらに改築を行なって居心地よくしてんだろうな」
「あれがさらに凄くなるとは……俺たちを堕落死させるつもりか」
「それはそれでまた恐ろしいな。あいつ、手加減ってもんを知らないから何度俺たちを殺しかけて来たか……」
いい意味で。アルクは昔から凝り性で料理とか音楽とか色々と極めすぎてヴィルグ達を堕落死させようとして来た。
ヴィルグやルディアなどは自立性が高いからなんとかなってきたがリュートは駄目だ。
あれはすでにアルクがいなければ生きていけないほど完全に堕落している。
ちなみにピットは……完全に放置、どちらかと言えば厳しくキツくあたっている。