9話
この場に似つかわしくない幼げな声が聞こえてくる。あまりの突然の出来事だったので男達は一瞬反応することは出来なかった。そんな彼らをあざ笑うかのようにこのギルドの玄関である強固で大きな門が開かれる。
「おっじゃましまーす!」
ただその開け方は異常。まるで友達の家に遊びに来たような軽い挨拶で高さ五メートル、横幅七メートルもある巨大で重厚な門が爆発で吹っ飛ばされる。これじゃあどっちが極悪非道な組織なのかわかったものじゃない。
「な、なんなんだこいつら……」
泣く子も黙る自分達ギルドに喧嘩を売っただけでも異常。自分達が帰ってきて間もない時間に戦闘宣言。しかも自分達の圧倒的アドバンテージがあるホームでのだ。
挙げ句の果てには対魔法対物理に備えた術式が施しているはずのこの屋敷に攻撃を仕掛けて来た……しかもどうトチ狂ったのか知らないがそれだけでも十分な防御力がある扉を吹き飛ばすほどの強力な攻撃をだ。
「お前ら本当に馬鹿ばっかだろ。屋敷のセキュリティーコードなんて毎日更新するなんて当たり前だろ。だからこんなにも簡単に無効化されるんだよ。まあアルクだからこそこんなにも簡単に解いたんだけどな」
「本当に優秀な人材だな」
「やっぱり一家に一台アルクだよ」
「お前それアルクじゃなかったらぶっ飛ばされんぞ」
呆気に取られているギルドメンバーをよそに埃と煙のカーテンの向こうから複数の足音と暢気な声が聞こえてくる。
彼らは本当にここが敵地なのを理解しているのか、本当に友達の家だと思い込んでいるのだろうか。まあ友達の家だろうが扉を吹き飛ばされたら本当にぶっ飛ばされるだろう。
「私はみんなの役に立てたらそれだけで幸せだよ」
「ああ本当にいい子。おいちゃんが一生養ってあげる」
「どちらかと言えば面倒見てもらってるのお前だろ」
「同感。少しは自立しろ」
「そんな! 僕アルクがいなかったら死んじゃうよ!」
「これは想像以上に重症だな」
エルドアンは頭を抱えて呆れ返る。自分の長い人生の中ではわずかひと時と言っていいほどの時間。そんなわずかな時間での付き合いであるがエルドアンはこの三人のことを理解している。
理想ばかりを語るが誰よりも純粋でその言葉にはどこか力強さを感じさせるリュート。荒っぽく短気であるが思慮深くこのチームの頭脳的存在のヴィルグ。自己主張はせず黙々と指示通り……それ以上に動く縁の下の力持ちアルク。
個性も能力もバラバラ、だけどとても纏まりがありいいチーム。自分の経験からしてこのチームは大きく成長し将来は有名なギルド……クランを作るだろう。
だけど今はまだヒナ、危なっかなしくて見ていて放っておけない。だから自分はここにいる、彼らが順調に成長し自分の長年の夢をともに達成してくれる存在になることを願って。そのために自分は剣を振るう。