序章
「君がこの世から去ってからもう随分と経ったね」
まだ肌寒い春の朝、一人の青年が小高い丘の上に建てられた慰霊碑の前で跪いて呟く。
慰霊碑には多くはないが色取りどいの献花が供えられておりそれが慰霊碑に刻まれた英雄達の功績を称えているようだった。
今手を合わせているものもその中の一人。彼もまた慰霊碑に刻まれているものの一人に助けられその人生の多くを共にしてきた。
その表情や態度からどれほど感謝しているのかが大いに伺い得る。
「……今でもあの日々のことは鮮明に覚えているよ。辛かった日も楽しかった日もいつも君が中心にいた。君がいたからこそ今こうして平和が保たれている。誰がなんと言おうとも先の戦いの一番の英雄は貴方だった」
声は淡々としていたがその言葉にはとても力強い何かが込められていた。
彼を知っているものからすればそれはとても珍しい光景であり彼の仲間達が見ればとても当たり前の光景だった。
「またここに来てやがる。ホントお前あいつのことが好きだよな」
新たにここに来たものもそうだった。
蹲み込んで祈っていた青年の背後にやって来たその者は呆れながらもどこか温かい表情をしており、荒っぽく肩に担いできた献花を慰霊碑に捧げて先にやって来ていた青年と同じく手を合わせ黙祷する。
「また抜け出して来たの?」
「またとはなんだよまたとは。俺はお前が思っているよりかはしっかりと仕事をしているわ」
「……そういうことにしておいてあげるよ」
「何がそういうことにしておいてあげるよだ。ったく、お前ホント俺には辛辣だよな」
「君はルイアス様やビリアさんくらいサボり癖があるから」
「あの二人と一緒にすんな。お前が働きすぎなだけだ」
「そうかな?」
「間違いなくそうだ。あの時だって――」
彼は語り始める。自分達と他の英雄達が出会った頃の話を。