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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

窓ぎわの東戸さん~裸足の一日~

作者: 車男

 「おはよう、東戸さん!」

翌日の朝、昇降口へとたどり着くと、ちょうど東戸さんもそこにいた。打ち合わせたわけでもないのに、本当に偶然だった。

「あ、西野さん、おはようー」

とても眠たげな顔で、あくびがでている。私が靴箱から上履きを取り出して履き替えていると、東戸さんは履いてきた通学シューズとともに、靴下まで脱いでしまっていた。ちょうど登校してきた同じクラスの男子が目を丸くしながら去っていく。

「え、東戸さん、なんで裸足!?」

私もびっくりして思わず聞いてしまう。

「昨日、上履きを図書館に置いてきちゃったでしょ?それで靴下汚すのやだから、脱いだの」

わかるようなわからないような・・・。東戸さんは靴下を通学シューズに入れて、そのまま靴箱にしまうと、昨日と同じく裸足のままで廊下をペタペタと歩き始めた。私も慌ててそれに続く。朝はそんなに時間がなく、東戸さんと私はまっすぐ教室へと向かった。裸足の東戸さんを見てみんなびっくりした表情をするけど、当の本人は全く気にしていない様子。足裏の汚れも気にする様子はなく、授業の準備をしながら、昨日と同じように、机の棒を足の指でもてあそんでいた。

 「ねえねえ、なんで東戸さん、今日も裸足なの??」

友だちの何人かが私に聞いてくる。本人に聞けばいいのに、と思いながら、

「上履きを図書館に置きっぱなしにしちゃったらしくてね」

隠すようなことでもないし、素直に質問に答えていると、朝のホームルームが始まった。東戸さんはというと、昨日と同じように、桜の花が散る窓の外をぼーっと眺めていた。反対に、足はぶらぶらと机の下で動かしている。その様子を見て気づいたのは、背の小さな東戸さん、机が体にあっておらず、足が地面に完全にはつかないらしい。とてもかわいいことではないか。

 この日、1,2時間目は教室での授業だが、3,4時間目は、1年生全員が体育館に集まって総合学習のオリエンテーションを受けることになっていた。東戸さんは図書館に行く時間がなく、2時間目が終わっても裸足のまま。結局、体育館にも裸足のまま向かうことになった。心配だから、私も一緒に行くことにする。裸足のまま教室を出ようとしていた東戸さん。クラスのみんなはそれがもう見慣れた光景のことのようで、そんなに驚いた顔はしなくなった。

「東戸さん、裸足のままで大丈夫??」

「あ、西野さんー。大丈夫だよ、裸足すきだし、涼しいし」

当の本人も、みんなの視線とか汚れとかまったく気にしていないのがとてもすごいと思える。体育館は校舎を1階まで降りて、コンクリートのたたきの渡り廊下を通った先にある。校舎は比較的新しいものの、体育館は古く、近々新しいものに建て替えるらしい。私が卒業するまでにできるかな??

 まだ数回しか入ったことのない体育館。床を指でなぞってみるとざらざらとしていて、あっという間に指先は真っ黒になってしまう。掃除してるはずなのに、どこからか砂やホコリが舞い込んでくるらしい。

 体育館には出席番号順で並んで座る。番号が隣同士の私と東戸さんは前後に座る。スカートを気にして女子は裾を抑えて座る子が多いが、東戸さんはというと、特に隠すようなことをせず、しかも体操座りをしていた。前から見たらスカートの中丸見えだよ・・・!肩をツンツンとすると、体操座りのままゆっくり振り返る東戸さん。裸足の足もこちらを向く。指先がくねくねと動いて、汚れて黒っぽくなった指の腹が見えた。

「ん、どうしたの??」

足に見とれていると、東戸さんが不思議そうに聞いた。はっとして、

「あ、・・・東戸さん、そんな座り方したらスカートのなか見えちゃうよ!」

そう囁くと、東戸さんは途端にほおを赤く染めて

「ふえ・・・?ほんとに・・・?ありがとう、西野さん!」

そう言って、わたわたとスカートのすそを足の間に挟むと、女の子座りになって再び前を向いた。裸足で過ごすのは恥ずかしくないのに、こういう時は恥ずかしいんだ・・・!初めて目にした、照れた東戸さんは、すごくかわいらしかった。座り方を変えたおかげで、たしかに前から見たらスカートの中は見えないけれど、後ろの私からは、ホコリや砂で黒くなった東戸さんの足の裏が丸見えになっている。かわいい東戸さんからは想像できないような汚れとのギャップに、さらにドキドキしてしまった。

 オリエンテーションはプリントを見ながら先生の話を聞くのが中心だった。時折くねくねと動く東戸さんの足裏を眺めながら話を聞いていると、どうやら1年生では地域を調査してそれをまとめて発表するらしい。調査する候補を先生が挙げて、気になる場所を選んだ生徒同士で班を作るようだ。私と東戸さんは2人で話し合って、学校から少し離れるけれど、「猫寺」として知られるお寺の歴史について調べることにした。お互いに猫が好きってことで、ほぼ即決だった。班員は他に3人。いずれも他のクラスの女子3人だ。

その日は自己紹介と、早速いつ猫寺に行くかの相談。どうやら自分たちで連絡して、アポを取らないといけないらしい。電話が苦手な私と東戸さん。けれど、他の3人が協力してアポを取ってくれるらしい。ありがたやありがたや・・・。アポを取ってもらったところ、、1週間後の土曜日に、5人で猫寺に行くことになった。

 体育館から戻ると、給食を食べて昼休み。さて図書館に行くのかなと思ったら、東戸さんはおなか一杯になって眠くなったのか、裸足をぶらんとさせて、机に突っ伏してしまった。私は昼休みに委員会の用事があったため、教室を離れなければならなかったけれど、昼休みの終わりに教室に戻ると、東戸さんは同じ姿勢で眠っていた。やがて掃除の時間。東戸さんは眠たげにあくびをしながら、黒板をきれいに消していた。背が小さくて上の方は背伸びをしながら消していたが、背伸びの度に真っ黒なうえにチョークの白が重なった足裏がちらりちらちと見えていた。

 「東戸さん、上履き取りに行かない?」

5時間目の授業が終わって放課後。荷物を片付けていた東戸さんのもとへ。結局、今日一日完全に裸足のままで過ごしてしまった。

「うーん、そうだねえ、じゃあいこうかな・・・」

「じゃあ、私も一緒に図書館行くね!」

カバンを背負ってペタペタと廊下を歩く東戸さん。すれ違うほかのクラスの人たちがやっぱり驚きの表情をするけれど、本人は特に気にする様子もなく歩いている。

 今日も閉まっていないかとハラハラしていたが、図書館は無事に開館していた。前日と同じ場所を見てみると、東戸さんの上履きは変わらずそこにあった。

「あった・・・」

半ばほっとしたような、けれどさびしそうにつぶやく東戸さん。

「よかったね、上履きあって!」

「うん・・・」

そうつぶやくと、東戸さんは上履きを手に持ってそのまま図書室を出てしまった。

「今日はもう帰る?」

「うん、早く帰らなきゃなんだ、ごめんね、西野さん」

「いいよいいよ!・・・上履き、履かないの?」

せっかく上場きを取り戻したのに、それを履かずに手に持って、裸足のままペタペタと廊下を歩いている。

「うん、だってもう結構足の裏汚れちゃったし、また明日から履くことにするよ」

「あ、そっかそっか」

 猫寺や明日の話をしながら靴箱にたどり着くと、東戸さんが困ったように、

「ねえ、西野さん・・・」

「はい!ティッシュでしょ?」

昨日の今日で、こんなこともあろうかと、私はウエットティッシュをカバンに忍ばせていた。

「わあ、これ使っていいの?」

ぱあっとした表情でこちらを向く東戸さん。私はさらに提案する。

「もちろん!・・・よかったら、足、拭いてあげようか?」

「え・・・、でも、きたない、よ?」

少しほおを赤らめてそうつぶやく東戸さん。

「いいよー。拭くの大変でしょ?ほら、そこに座って」

ちょうどいいところにイスがあったので、そこに東戸さんを座らせて、私はその前にしゃがむ。帰宅ラッシュは過ぎ去ったのか、あたりに人の気配はない。グラウンドを走る野球部や、テニス部・サッカー部の練習する声が聞こえてくる。

「じゃ、じゃあ、お願いします・・・」

もじもじとしながら、まずは左足の裏を確認する。私はその足裏を見て思わずごくり、と息をのんだ。五指の間や土踏まずなど床についていなかった部分以外は、綺麗に(?)ホコリや砂で真っ黒になっていた。ウエットティッシュを一枚取り、親指から拭いていく。

「あっ、やっ・・・」

ごしごしと汚れを落とすために拭いていくと、ぴく、ぴくと東戸さんの体が反応する。

「・・・東戸さん、くすぐったい?」

その姿があまりにかわいくて、私はちょっと意地悪っぽく聞いてみる。

「う、うん、でも、大丈夫・・・」

「よし、左足はおっけい!次は右だよー」

ウエットティッシュ一枚ではきれいにできず、片足だけで3枚使ってしまった。一日分の学校の汚れはかなりのものなんだ。

「う、うん、みぎ・・・」

どこから取り出したのか、小さいマスコットをにぎりしめ、くすぐったさに悶える東戸さん。私はその様子がやっぱりとてもかわいくて、あえてゆっくり、ゆっくり丁寧に綺麗にしていった。

「はい!綺麗になったよ!見て見て!」

すべてが終わったころ、東戸さんの息は上がって、顔が紅潮していた。その姿を見てまたキュン、とする。

東戸さんは座ったまま足を上げてあぐらをかくと、綺麗になった左右の足裏をみて、おおーと声を上げていた。

「ありがとう、西野さん。真っ黒だったのに、すごくきれい」

「えへへー。じゃあ帰ろっか!」

「うん」

東戸さんは靴箱からスニーカーを取り出すと、その中に入っていた靴下はポケットに入れ、素足のままスニーカーに足を入れた。期待通りの行動に、ドキドキしてしまう。制服姿に裸足、スニーカー。なんでこの姿を見るとこんなにドキドキするんだろう。

 翌日は、東戸さんの上履きは戻ってきているけれど、また授業中のぶらぶらは見られるかなと、それを楽しみにしながら、東戸さんとの帰り道を歩いていた。


おわり


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