gave my love
これ以上を与えることは出来ない。
もう私が持っていたグラスは空っぽになってしまって、あとは粉々になったグラスの砂の欠片を掬っては与えてあげるくらいしか私には出来ない。
いつの間にかグラスに入っていた罅から、少しずつ漏れていて、気が付いたときには空になっていたのに、求められる度にピシッと亀裂が入った所からガラスをすり減らし与えていたけれど、それもとうに叶わず、この粉々の破片を与えている。
このグラスを元に戻して、再び誰かが満たす事なんて、もう無いのだろうと思うと、涙も出やしない。
ただ、時折、人恋しいと思うことはある。
人恋しく、懐かしく、ただ、衝動的に求めることはあっても、与えて受け続けることを望む気にはなかなかならない。
すっかり喪ってしまってから、周りからは他にいい人がいる等と検討外れな事を言われるが、そうではないのだと否定する心づもりもとうに無く、ただ、そうねと過ぎる季節の話をするかのように相槌をうつ。
そうね、いい人が居ればね、何年かその返答を繰り返して繰り返してようやく訪れた平穏の先に、ぽつんとあなたが佇んで此方に無言でそっと手だけを差し伸べて私が掴むことを望むように待っていた。
そう、ただ差し伸べて静かに、そして熱望するような瞳でただ待っている。
委ねたような、時折懇願するような瞳で、こちらを見て待っている。
差し出された手は、何時か私が喪った形をしていて、指先を恐る恐る掠めてみると、確かに何時か私が持っていた温もりをしていて、そして、少し緊張して冷たかった。
恐れて、触れて離れてを繰り返す私を試すでも無く、ただシッカリと掴み握る事を望むまで、ただ為すがままに差し出された手に私は触れて見て形を確かめてを繰り返している。
このてを掴んで、また、砕け散るほどになってしまったら恐ろしくてきゅっと自分の指先を握りこんで、ずっと相手を眺めて、求めるでも無く、ただ、差し出されなされるがままにされている。
あの人も怖いのかも知れない。
ふっと思うと、今度は意気地のない男だなと、興味を失いそうになる。
でも思うのだ。
もしかしたら、この人も粉々に砕けてしまった後なのかも知れないと。
そっと指先で掴んでみて、どうするかを確かめてみた。
あぁ、この人は喪ってはいないのだ。
私が恐ろしく思っていることを判っていたのだ。
繋いだ先から、私の粉々に壊れ風化し既に原型もなくどのような形であったかも判らない物を、まるで強化して復元していくように、彼は彼の持ち得る物で補っていこうとするのだ。
それはとても、とてつもなく難しいことだろうに、彼はただ、ただ、笑って共に居たいのだと私に注いでいく。
みじんも残っていなかった物は、強化され補われ強くガラス製ではなく強化ガラスのように間にフィルムが挟まったかのように、もう、一撃で崩れることはなく、ひびかは入ったとしても水は零れず、あたかも、無かったかのように、気が付けばいつの間にか修復され、私からまた、与えてる事ができるまでに満たされていった。
驚いたのは、私から与えた事で私から無くなることはなく。常に私にも与えられ満たされ、それは濁ること無く純粋で、貴く温かい。
常に渇くこと無く、温かい温水で満たされる。
いつの間にか、私の中のそれも温もりを持ち、広がるようにコップ以外にまで染み渡っていく。
注ぎ疲れ果てた体の隅々に、浸透していく。
ただ、共にありたいと思うその気持ちが、とても、心地よい。
たったそれだけが、とても、心地よく広がってそして鼓動のように波打って静かなうねりを作り、その中に自分がたゆたうように居心地の良い揺りかごに揺られるように居る。
どれだけ与えたかを量っていたというのに。
今のこの心地良さは、自分があの時与え続けた量よりも遙かに多く、それはたった一言で増えていく。
ただ共にありたいと思う。
この心地良さを私からあなたへ、あなたから私へ、そして彼方へと続いていく。