第6話 王子様到来
そしてその日がやって来た。
日曜日、大金を握りしめ、琴はショップを訪れた。ゆりは自転車で先に来ている。
「あの、まずこれっ・・・」
琴は十二万円を差し出した。
「ありゃ、この範囲でって事ですかね」
ショップのお兄さんは苦笑いした。
「では、お客様、こちらへ」
案内された一番奥に、先日の白馬の王子が鎮座していた。
「あれ、サイコンやライトもついてる」
ゆりが言った。
「はい、可愛いお嬢さんに使ってもらえるならって、僕のお古なんですけどつけときました。勿論0円ですよ。こういうパーツってどんどん増えちゃうんです。ライトなんで十個は下らないし、ボトルゲージなんてもっとあるかな。サイコンは2つあっても仕方ないからお譲りします。但し、ヘルメットやグローブ、レーパンやアイウェアはお古って訳にゆきませんから、一応選んでおいたんですけど、見てもらえますか?この範囲でつけさせて頂きます」
「えー?なんかあたしの時と待遇が違いすぎるんですけど…」
ゆりが横でふくれている。
「だって、ゆりちゃんには羽田大先輩っていうスポンサーがついてるじゃないですか」
並べられていたヘルメットやグローブ等は琴にぴったりサイズだった。
「これだけでも結構するんですよね」 琴はちょっと気後れして尋ねた。
「まあそうなんですけど、先の長いお客様って事で、店長も了解済みですからご心配なく。じゃあちょっと操作を教えます」
琴は初めてロードバイクに跨り、お兄さんがサドル位置を調整し、変速の仕方を教わった。
「うわ、でも本当に乗れるかな」
「実際に走ってみないとわからないものよ。帰りはゆっくり教習しながら走ろう」
「うん、ゆり先生、よろしくお願いしますだ」
初めて被るヘルメット。初めてつけるグローブ。また新入生に戻った気分で、ショップ前から琴は漕ぎ出した。後ろには、エメラルドグリーンの愛車に跨ったゆりがいる。
「え?こんなに軽いの? 魔法の絨毯みたい」
「ハンドルも軽いからぶれないように気をつけて。それと段差はゆっくり越えてね。きつくやるとすぐパンクするから。それと急ブレーキは車体が浮き上がるから、じわっとかけるようにして」
ゆり先生は、速射砲のように指導を繰り出した。
「そこの坂では、ギアを軽くするから、右の大きいレバーを内側に2回動かしてみて」
少し傾斜になって、重く感じ始めた矢先、ギアを変えた途端、ペダルは急に軽くなった。
「えー?登れちゃうじゃん、この坂」
白馬の王子様は、見てくれだけではなかったのだ。
「そのためのロードバイクだよ」後ろでゆりも楽しんでいた。