第33話 受験突入
四月になって、琴もゆりも高校三年生になった。いよいよ受験の年だ。
ゆりはステッキなしで歩くまで回復した。勿論まだスタスタ歩くまでは行かないが、この調子だと半年後には走れそうだった。そして病院への通院も一旦終了し、あとは一年に一回の検査を受けるだけ。陽射しの強さとともにゆりはどんどん回復していった。
「あ、ゆりー、凄い!普通に歩いてる!」
お小夜だった。
「うん、もう大丈夫だよ。若干人より遅いだけ」
「今から帰り?」
「そう、まっすぐ帰宅部」
「じゃ、一緒に行こう。なんか久し振りだね、ゆりと会うの」
「そうだね、コトとは食堂で時々会うけどね」
「あー、私お弁当だからな」
「お小夜、教育大受けるんだって?コトが言ってた」
「うん、いろいろ考えてね、担任の先生見て、これいいなあって思ったのよ。助けてもらったし」
「そうなんだ」
「広い心!これから私はこれをモットーにするの」
「へえ、可愛いなお主」
「真剣なんだよ。それに先生になっても演劇出来るんだって」
「ふうん、何だかわかんないけど、お小夜なら十分合格圏内じゃないの?」
「ううん、一番難しいところを受けるの」
「それってどんなとこ?」
「それはこれから調べる」
「はは、コトみたいだ」
「ね、受験終わったら琴ちゃんも一緒に三人でどっか行こうね」
「うん、いいよ」
「私さ、ゆりと琴ちゃんにはとっても感謝してるんだ」
「何よ、入院の時に助けてもらったのはあたしだよ。あたしがお小夜に感謝だよ」
「ん、そういうのもある。お互いさまって言うのかな」
聞きながらゆりはこれってどこかで聞いたなと思った。
そうだ、琴が言ってたんだ。自転車乗りはみんなお互いさまだって。
「いい言葉だよ『お互いさま』って」
家に向かってゆっくり歩きながら、ゆりは口に出していた。
そして琴とゆりは受験に突入した。




