選ばれちゃいました？ （いやいやいやいや。異世界召喚とかされませんからっ）
どなたかのテンプレに関するエッセイを読んでいて、何となく浮かんだ事をまとめてみました。
こんな感じのお話書いてる人いっぱいいるんだろうなぁ。
体育館の窓からは、薄紅色の桜の花が空の青と絶妙なコントラストを見せている。
真新しい制服に身を包み、体育館に並べられた椅子に初めて見るクラスメイトっ。
イケメン発見！ 恋の予感っ！
の予定なんだけどね。
入学初日。中学からの友達が剣道部で高校デビューする。
なんて言い出したから困ったもの。
「中学まで運動部とは無縁だったのになんでまた、剣道部なの？」
午後の柔らかい日差しが届く放課後の教室で、当の本人はウエストに手を当てやれやれとばかりに椅子に座るあたしを見下ろす。
「わかってないわねぇ。
あたし達、もう高校生なのよ。
つまり、いつ異世界召喚されてもおかしくない年齢になったのっ！」
は……？
「もちろん、召喚されればそれなりのスキルがついて、異世界ライフが始まるわけだけど。
当たりハズレってあると思うのよね。ハズレかな？ って思っても、上手く活かせる発想の転換？ 醍醐味よね」
あー。
「で、そんな時のために何が必要かって考えたら、手に職っていうか、技術がいいんじゃないかって思って」
力説の拳もググッと震えつつ、うんうん。と力強くうなづいてる。
「だから、剣道部？
えと。R15ってのは15歳以下は異世界召喚されません。って意味じゃないと思う。
て言うか、今から剣道部なんかに入った付け焼刃が、召喚された所でまともに戦えないでしょが」
いや。真面目に答える問題か？ これ。
「わかってないわね」
ふぅ。と首を振ると、肩にかかる彼女の髪がふわりと揺れる。
「召喚されたら、チートよチート。
あ。でも異世界転生は無しね。死ぬの怖いし、痛いのヤダし」
知るか。
「ラノベの読みすぎ。バカ言ってないで帰るわよ」
カバンを掴むとあたしはさっさと立ち上がり、教室の引き戸を開けて廊下に出……。
え？
屋外の、土と風の匂いが頬を撫でる。
活き活きと茂る花々に、女神像が鎮座する大きな噴水の飛沫がキラキラと日に輝いた。
目の前にはどこまでも広く、抜けるような真っ青な空。
白亜の宮殿が、その圧倒的な存在感を見せつけてくる。
え。あれ？
「あ。貴方様はもしや……っ」
視線を移した先には、びっくりした顔でこちらを見ている1人の女性。
抜けるような白い肌。美しく輝く髪は金の糸。耳は人のものより細く尖っていて。
今まで耳にしたこともないくらい透き通った声があたしの中に吸い込まれていく。
おー。これくらいはあたしもわかるぞ。
エルフってヤツよね。
「もしや、勇者さ」
ぱたん。
聞き捨てならない一言に、そのままゆっくりと引き戸を閉めると教室を振り返った。
窓の外は青く晴れて、校庭では運動部の威勢のいい掛け声が飛び交っていて。
「どした？」
自分のカバンを肩にかけた彼女は、不思議そうにあたしと教室の引き戸を見比べる。
「あー。今日は、窓から帰ろうか……」
【続……きませんっ】
