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番外編②

「ねぇねぇ待ってよキヨー!!」

「い、嫌だぁー!」


 俺は現在、学校のアイドルと呼ばれている女の子に追いかけられている。

 一見してみれば世の男どもが羨ましがりそうな光景ではあるのかもしれないが、俺からしたら生命に関わる最中なのだ。


「クッキー作ってきたから試食お願いしてるだけじゃん!」

「何で俺だよ桐生に頼んでよ!」

「颯に食べてもらう前に確認して欲しいんだよ!」


 美咲ちゃんの手作りクッキー。

 例えば3馬鹿などからしたらプレミアが付く代物だろう。

 でも俺は以前に一度食べたことがある。

 そしてその味が…………うっ、思い出しただけで……。


「じゃあ天条さん! ハッキリ感想言う方向で構わないんだな!?」

「もちろん! 望むところだよ!!」


 ズイッと差し出された袋の中からクッキーを一枚取り出した。

 色は漆黒。

 焦げてるようには見えないからチョコレートクッキーかな?


「ちなみにこれ、何味?」

「えへへ〜バニラ味!!」

「んなアホな……」


 炭とかで焼いたんだろうか。

 それなら納得できるんだけど。


 恐る恐る俺はクッキーをひと齧りした。


「…………天条さん」

「どう? どう?」

「これ…………自分で試食とかしてみた?」

「んーん、してないよ」

「そう…………」


 普通まずは自分で試食するよね…………!


「それでどう!?」

「もしかしてなんだけどさ……塩とか入れた?」

「入れるわけないじゃん! あ、でもでも、砂糖はたくさん入れてるよ!」


 間違えてんよこれ……!! 砂糖と塩を……!!

 砂糖と塩を間違えていなければ普通に仕上がっていたんじゃないかと思いたいけど、クッキーの味がしょっぱすぎてそれ以外の味が全く分からん!!


「ねぇねぇ味は!?」

「それにしても桐生達遅いなー」

「ちょっと」


 ハッキリ感想言うと言ったけど、海野先輩と違って美咲ちゃんを悲しませるのはなんか違うんだよ。

 まぁマスタードとかを隠し味として故意的に入れていたころからすれば成長したと言えなくはないと思うけど…………。


「いやいや天条さん、塩クッキーつくろうとしたんだよね!」

「え? だから普通のバニラの……」

「いやぁー! だとしたらちょっとしょっぱく作りすぎちゃったと思うなあー!!」


 美咲ちゃんが首を傾げながら袋からクッキーを取り出し、一枚口に放った。

 一瞬体がフリーズし、すぐにブワッと涙目になってむせているのを見て、俺は悲しい顔で目を伏せた。


「………………ご、ごめん。たぶんこれ……塩と砂糖…………間違えて…………」

「うん、だよね」


 美咲ちゃんが顔を真っ赤にさせながらゴニョゴニョと言った。


 と、そこへちょうど3馬鹿が通りかかった。

 あいつらクラス分かれても一緒にいんのか。


「あ、天条さん。ちょっとそれ貸して」

「え? ど、どうするの?」

「塩分取りたがってた奴らがいた」


 俺は美咲ちゃんからクッキーが入った袋を受け取ると、3馬鹿を呼んだ。


「有馬、中西、長屋。いいもんやるよ」

「なんだよ加藤…………って美咲ちゃん!?」

「ど、どうしてここに……!?」

「はわわわわわ……」


 相変わらずのチキンだなぁ。


「ほらクッキー食えよ」

「あ? 美咲ちゃんが近くにいるのに今お前と話してるヒマなんかねぇよ」


 こ、こいつ……!!

 ホントに相変わらずだな……!!


「いいのか? このクッキー、天条さんの手作りだぞ?」

「「「な、なんだってぇー!!!」」」


 芸人のようなリアクションを取る三人。


「や、でもそれ失敗して……」

「大丈夫だって天条さん、さっき言った通りこいつら塩分取りたがってるから」

「よく分からんがくれるなら是非!!」

「本当にいいんですか美咲ちゃん!」

「ひゃっほおーう!!」


 そーかそーか。

 そんなに喜んでくれるか。

 やっぱり食べ物は粗末にしちゃいけないからな。


 俺は全員にクッキーを配った。


「加藤! 俺はお前と友達で良かったと心から思ってるぞ!」


 どの口が。


「よく味わって食べろよ」

「「「いただきまーす」」」


 同時に三人がクッキーを口に頬張った。


「どうだ?」


 俺の質問に答える余裕なく、徐々に眉間にシワが寄っていく三人。


「あ、あの…………ごめんね、お砂糖とお塩間違えて作っちゃったからあんまり美味しくな───」

「うめぇー!! 超うめぇーこのクッキー!! なぁお前ら!?」

「ああ最高だぜ! ちょうど塩の効いたクッキーを食べたいと思ってたところだったんだ!!」

「店で売ってるやつよりか遥かに美味いぜ!!」

「ほ、ホント!?」


 男だ……男だよお前ら……!

 まさかここまで美咲ちゃんに対する想いが本物だとは……!

 さすが店まで会いに行くだけのことはあるな!


「ほら、まだ余ってるから全部食べな」


 袋ごと差し出した俺の顔を、3人が美咲ちゃんの見えない位置からクソ睨んできた。


「悪いなクソ加藤ありがとよ!」

「塩クッキーももしかしていけるのかな…………じゃあ今度またみんなに塩クッキー作ってくるね!」

「あ、あはははははは」

「ぜ、是非お願いしまあーす!」


 うんうん。

 美咲ちゃんのいい練習台になるし、三人も美咲ちゃんの手作りが食べれるし、winーwinだな。

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