番外編①
「はい、ここで問題です。どうして颯は私に振り向いてくれないんでしょーか」
「………………」
久々に来たな回避不能の死の質問。
これ答えるのやだよ俺。
何答えても損しかしないんだもん。
「ねぇ加藤君。あなたに聞いているのよ?」
「だってよ加藤。聞かれてるぞ」
「加藤君、今この部屋には私とあなたしかいないのだけれど」
「そうでしたっけ……?」
何でこういう時に限って桐生と美咲ちゃんはまだ来ていないんだ。
この御仁は俺と2人きりになると脅しにくることが多々あるから困るんだけど。
「え、これってハッキリ言った方がいいやつですか? それとも海野先輩に配慮した回答した方がいいやつですか?」
「加藤君が判断した方で構わないわよ」
その逃げ方ずる。
責任の擦りつけ方がどこぞの政治家のやり口だよ。
そぐわない回答したら糾弾するって言ってるようなものじゃん。
では、僭越ながら。
「…………1年以上一緒にいるのにいつまでたっても先輩がチキって推しが弱いせいで、自分の事に関してはとんでもなく鈍感な桐生が全く気付いていないせいです」
「ねぇそれどっち? ハッキリ言った方? それとも配慮して言った方?」
「配慮してるに決まってるじゃないですか!」
「それで配慮していたのか…………」
ハッキリ言ったら後が怖いっつーの!
これでも減塩したほうだからな。
あ、控えめってこと。
「つーか俺相手だと桐生の事に関してだいぶオープンになりましたよね」
「加藤君は私にとって良いしも…………相談相手だもの」
「いま俺のこと僕って言おうとしました?」
「特に美咲がライバルである以上、一人で戦うよりもみがわ…………仲間がいた方が有利になるのは当然のことよね」
「いま俺のこと身代わりって言おうとしました?」
「颯と昔から仲の良い操り人ぎょ…………加藤君がいれば百人力みたいなものだもの」
「何パターンあんだよ俺の呼び名!!」
しかも全部ロクな呼び名じゃねーしよ!
そこまで隷属気質は持っちゃいねーぞ俺は!
「はぁ…………やっぱり保健室で押し倒した時に既成事実作っておけばよかったかしら」
『ガシャドガラシャガシャン!!』
思わず椅子から転げ落ちてしまった。
なんて?
今この人なんて言った?
保健室で押し倒した?
推しが弱いなんてとんでもねーよ。
とんでもねーことやってたよこの人。
「そんな芸人みたいなことしてどうしたのかしら」
「押し倒したってアレですか? 人体模型とかをですか?」
「私にお人形さん趣味はないわよ」
「ええ……? いつ頃ですか?」
「昨日」
「イエスタデイ!?」
「何で英語?」
驚きのあまりだよ!
日本生まれ日本育ちの純日本人が思わず英語で答えてしまうくらい驚いてんだよ!
俺がいないところでスゲー楽しそうなことになってんな!
「ど、どういう経緯でそうなったんですか!?」
「昨日、私は女の子の日で少ししんどくてね、保健室で休んでいたのよ」
「生々しいですね」
「そこへ家庭科の授業で指を切ったという颯が来てね、保険医の先生もいなかったから私が手当てをしてあげたんだ」
「あーそういえば怪我してたなあいつ……。絆創膏貼ったりとかですか?」
「いや、私が傷口を咥えて殺菌消毒ね」
「アンタの医療知識狂ってんのか!?」
何だ口で咥えるって!!
マキロンとかで消毒してやれよ!
化膿する可能性の方が高くなるじゃねーか!
「私も何故そうしたかは分からなくて…………ただ気付いたら口に咥えてしまっていたのよ」
「発情してたんじゃないですかね」
「あるいわ」
「あるいわじゃねーよ」
もうなんかツッコミ方も雑になってきた。
先輩なのにめちゃくちゃタメ口使ってしまってる。
「とにかく、その後は桐生をベッドまで引き寄せて押し倒して、『今度は…………私の傷も消毒してくれないか……』と誘ったのだけれど」
「…………ごくり」
「保険医の先生が帰ってきてしまったので、すぐさま離れて何もなかったかのように装ったのよ」
………………いやもうこれ、俺が何かをする必要性なくね?
もしあるとするならば、それは海野先輩が暴走し過ぎないように手綱握っとくぐらいのことだよ。
むしろ俺という邪魔がいないほうが、この3人の物語は潤滑に進んでいく気さえする。
「海野先輩」
「なにかしら」
「先輩は今のままが一番だと思います。もうね、俺なんかに相談する必要ないです。だって俺、健全男子なんですもん。保健室で男子を押し倒そうとする人に言えるアドバイスなんかありません」
「なんか引っかかる言い方ね……」
傍観者でいるのが正解。
今後も3人でよろしくやってください。
「加藤せんぱーい! 今日の桐生先輩格好良くないですか!? 見てくださいこの写真!!」
違ったもう一人問題児いたわ。
勢いよく部室に入ってきた元ストーカー。
「ほらこのおにぎり食べてる写真…………どうしたんですか?」
「盗撮もほどほどに」
「とっ……! 盗撮じゃないですよ! 半分は……」
「おい! 語尾に変なのついてんぞ!」