66話 バイトの先輩 後編
「私はね〜大学生ぐらいのカップルが来ると思う。この時間だと大学の講義が終わる時間だからね」
なるほどそう来たか。
大学の授業構成が何時間ごとなのかよく分からないから、その点では百合華さんの方が詳しい。
微妙に夕方のこの時間なら、社会人よりも大学生の方が確率が高いと来たもんだ。
「にしても、なぜカップルなんですか?」
「セー君知らないの? ここって落ち着いた雰囲気だから意外と大学生に人気なんだよ? しかも値段もリーズナブルだからカップルで食事に来たりとかするんだって。マジウケるよね」
別にウケはしないだろ……。
とはいえそこまで情報通だとは。
流石に自分から勝負を仕掛けてきただけのことはあるな。
これじゃあ最初から俺の方が不利だったことになる。
でもだからこその逆境。
これを覆してこその勝負事だ。
見せてやろう、本物の奇跡というやつを。
「セー君はどうする?」
「そうですね、じゃあ俺の予想は…………鷹山高校の二年生男子で天文部所属、身長は175cmで中肉中背の名前が『き』で始まり『て』で終わるイケメンが来ると思います」
「ピンポイント過ぎない!?」
その時、カランコロンと扉が開いたかと思えば、一人の男子生徒が制服で店内に入ってくるところだった。
その男子はまさしく、鷹山高校の二年生男子で天文部所属、身長は175cmで中肉中背の名前が『き』で始まり『て』で終わるイケメンだった。
「え……。鷹山高校の制服に……175cmくらいのイケメン……!?」
「おおー天文部所属の桐生颯くん。珍しいなこんな所に」
「どんな呼び方だよ」
「名前が『き』で始まり…………『て』で…………終わってる〜!!」
「百合華さん、俺の勝ちですね」
ああでも桐生だけじゃないな。
海野先輩と美咲ちゃんと空野もいるな。
一人だけじゃなかったか。
「な、なんでこんなドンピシャ!? 何か反則したでしょセー君!」
「こればっかりは仕方ないんです。こういう時に来てくれる、アイツはそういう人間なんです」
「どういう人間!?」
確かにどういう人間だ。
自分で言ってて訳分からんわ。
「今日は空野さんが加藤君の働いてるところを見たことがないみたいだから、みんなで遊びに来たのよ」
「本当に加藤先輩ここで働いてる! これはレアですよ知らなかったです! 写真に収めなきゃ!!」
「ひ、日向ちゃん。キヨの追っかけはやめたんじゃないの?」
「はいやめました! でもこれは趣味みたいなものなのでお気になさらず!」
どんな趣味だよ。
撮られてる俺はお気にするよ。
被写体は桐生限定にしてくれよ。
「ぜ、全員セー君の友達?」
「そうですね。うるさい人達ですいません」
「キヨ、早く席に案内しろよ」
「厚かましいなお前! でも確かに言う通りだわこちらへどうぞお客様!」
俺は四人をテーブル席へと案内した後、厨房へと戻った。
注文はまだ決まっていないようだったが、俺からの注文は既に決まっていた。
「百合華さん、それじゃあさっそくさっきの勝負の賭けを使わせてもらっていいですか?」
「いや、今セー君も仕事中じゃん」
「俺じゃなくて、あの四人にパフェを奢りでお願いします」
「一つじゃなくて四つじゃん!!」
「いくつ、とまでは決めてなかったじゃないですか」
「…………はぁ、分かったよ。セー君の友情に免じて、お姉さんからの奢りだ!」
「やり! さっすが百合華さん!」
ため息をつきつつも、笑顔の百合華さんはすぐに四人分のパフェを作りにかかってくれた。
この賭けに勝ったのも実質桐生のおかげだ。
ただそれを還元するだけ。
それに、わざわざ俺に会いにバイト先まで来てくれたんだ。
だったら少しぐらい俺の気持ちを形にしてみんなに表現したい。
「あと1年半…………後悔のないように過ごそう」
将来必ず人生の宝の一部となるように。