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俺はどうしても主人公にはなれない  作者: もぐのすけ
二年生 新入部員編
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58話 写真

 そして次の日、朝10時の時間通りに家のインターホンが鳴った。


「はい」

『桐生颯くんの同じ部活をしている……』

「葵さんだろ? 開けるから入ってくれ」

『あら、かしこまる必要はなかったみたいね』


 俺はオートロックを解除した。

 しばらくすると、今度は玄関のインターホンが鳴る。


 俺はわざわざ応答はせずに、玄関の鍵を二つガチャリと開けた。


 そこには、白いワンピースに身を包んだ葵さんが立っていた。

 美しい、と見るものの目を奪うかのような純白。

 玄関の外は太陽光なんて差し込んでいないはずなのに、あらゆる光を反射させているようだ。


 葵さんが着ているからこそ映えるのだろうと俺は思った。


「入ってくれ」

「お邪魔するわ」


 俺は葵さんを自分の部屋まで招き入れ、用意しておいた座布団へ誘導した。


「ここへ来るのは、颯のお見舞いをしに来た時以来ね」

「質素な部屋だけどな。面白味も何もないが、勘弁してくれ」

「そんなことはないわ。ここにはどんな高級ホテルにもない、特別な付加価値があるもの」

「どれのことだよ」

「教えてあげないわ」


 葵さんが意地悪く笑った。


 そんな付加価値なんてどこにあるんだ。

 あるものと言えば、テレビとベッドと勉強机ぐらいだぞ。

 葵さんは時々、自分にしか分からないことを口にしては、その意味を結局教えてくれない事が多い。


「それより、今日葵さんを呼んだ理由は分かるか?」


 俺はガラスのコップにお茶を注ぎながら葵さんに聞いた。


「おおよそ予測が付いてるわ。空野さんのことについて、よね?」


 葵さんは俺に手渡されたお茶を一口すすった後に答えた。


「颯のことだから私や加藤君から聞いて、自分なりに空野さんがどういう人なのか調べていたんでしょう?」

「……お見通しすぎて怖いな」

「部長として、部員の把握は当然の務めよ」


 部長としての務め以外の意志を感じる気がするが、ここはあえて聞かないことにしておこう。


「じゃあ、葵さんやキヨが空野に対して心配しているのは、空野がストーカー行為をしている可能性があるから、ということだよな?」

「あら、そこまで分かっているのね」


 葵さんが意外だという表情をした。


「二人が俺に直接理由を話さなかったのは、空野が俺のことをストーカーしているからだと思ったからだろ?」

「そうね……その通りよ。空野さんが入部申請をお願いしてきた日、私とキヨは部室で彼女の応対をしたわ」

「その時に彼女がストーカー行為をしていると匂わせるような発言があったと?」

「いえ、実際に気付いたのは加藤君よ。私が空野さんから貰った写真を見ておかしな点に気が付いたの」

「どんな写真なんだ?」

「それは………………」


 そう言って口を濁す葵さん。

 だが、何が写っているのかはこれまでの話から推測すれば、予想できることだ。


「俺が写っているんだろう?」


 葵さんがドキリと体を震わせた。


 どうやら図星のようだ。


「空野から渡された写真を見て俺がストーカーされていると思ったんだろ? ならそこに写っているのは俺だろう」

「…………颯は頭の回転が早いのね。そうよ、これが空野さんから渡された写真」


 そう言って鞄から取り出したのは3枚の写真だった。

 鞄の中に写真があったということは、そもそも最初から見せる気があったように思う。

 じゃないとわざわざ俺の写真なんか持ち歩くまい。


 3枚の全てに俺が写っていた。


「…………キヨはこれを見て何がおかしいって?」

「空野さんは颯に痴漢から助けられた時以来、颯と会ったことがなくて、入学してから初めて颯がいることを知ったと言っていたのよ。それなのに入学式当日にはこの写真を持っていた」

「私服姿の写真があるのはおかしいというわけか……」

「ええ」


 なるほど。

 確かに矛盾が生じるな。

 それに、この写真を見てからその矛盾点に気が付いたら、まるで空野が俺をストーカーしていると思い込んでしまうわけだ。


 ……………………。


 ………………まさか、わざと分かりやすく矛盾した話をした可能性はないよな?


 二人が気付くように、あえて見つけやすい撒き餌を撒いた。

 そうして本来の狙いから気を散らさせた……。


 ブルッ。


 俺の考えすぎの可能性もあるが、無い話じゃねぇ。

 もしそうなら、空野はかなり頭の切れる奴だな。

 早いうちに手を打つ必要がある。


「葵さん、一つ葵さんもキヨも勘違いしていることがある」

「勘違い?」

「ああ。空野がストーカーしているということに恐らく変わりはないが、そのターゲットは俺じゃない」

「それは…………どういうことかしら?」


 葵さんが前のめりに聞いてきた。


 俺はクマから聞いた話を簡潔明瞭に話した。


 話が進むにつれ、葵さんの表情が強張っていく。

 まさか狙いがキヨだったとは微塵にも思っていなかったのだろう。


「嘘……! でも空野さんはそんな様子…………いえ……! 確か加藤君が朝早く登校して校舎裏に行った時、突然空野さんが現れたとも話していたわね……。偶然だと思っていたけど……」

「信憑性が増したな」


 現在進行形、その可能性がある。

 クマの話では危害を加えるような奴ではないという話だが、陸川という彼女がいることを空野は知っているのか?


 俺はふと改めてテーブルに置かれた3枚の写真に目を移した。


「……………………妙だな」


 小さな違和感だった。

 写真に写っている被写体は俺のはずだが、それにしては写真に対して大きさがおかしい。


 何というか…………ズームしたような写り方だ。


「葵さん、この写真何か撮り方が変じゃないか?」

「撮り方……? そうね……言われてみれば画質も少し粗いし、何より颯と風景の比率が………………あっ!」


 葵さんが何かに気付いたように声を上げた。


「どうした?」

「…………この写真は元々、颯を撮ったものじゃないとしたら……?」

「俺を撮ったものじゃない? どういう…………っ! なるほどそういうことか」

「ええ。この写真の写りに違和感があるのも、元々ある画像を拡大させて一部分だけを取り除く加工をしたから。つまり…………」

「トリミングか!!」


 元の画像に何が写っていたかなんて予想するのは簡単だ。


 この写真の本当の主役はキヨ。

 その中に写っていた俺をくり抜いただけの写真なんだ。

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