57話 アポ連
「ある日突然だったんですよ。ヒナちゃんが休み時間とかになると、サッと姿を消して、チャイムが鳴る前には席に戻ってるなんてことが」
「つまり、キヨのことを追いかけていたんじゃないかと?」
「はい。本人に聞いたら、『やっと私の一番星を見つけた』みたいなことを満面の笑みで話してて……」
それはある意味ゾッとする話だな。
ニヤリと意地悪く笑う空野の顔が思い浮かんだよ。
「その後に、愛ちゃんのお兄さんに彼女が出来たらしいって聞いたヒナちゃんはガックリきてましたね。目に見えるほど落ち込んでて、『こんなことならストーキングしてるだけじゃなくて告白すれば良かった』って」
「ストーキングの自覚はありか」
「それからは普通の良い子なんですけど……熱中すると周りが見えなくなっちゃうみたいですね」
「なるほど…………」
どうやら空野のお目当ては俺じゃなくて、キヨのようだ。
当の本人は空野の嘘に踊らされてて、まさか自分が当事者であるなんて思ってもいないだろう。
だが、それでも空野があたかも俺を狙っているかのような話し振りをする理由は不透明だ。
キヨに彼女がいることを空野は知っているのか?
他にも確認すべきことがあるな。
次は葵さんと陸川だ。
「ありがとうクマ。君のおかげで大筋を読むことができた」
「何かの手助けになったのであれば嬉しいですけど…………」
そう言って申し訳なさそうな顔をするクマ。
何か言いたいことがあるんだろうか?
「どうした?」
「その……ストーカーだとか言っちゃいましたけど、ヒナちゃんは悪い子じゃないんです。ただちょっと固執し過ぎてしまうだけで……」
「ふむ…………何も俺は後輩の弱みを握りにきたわけじゃない。誰かを好きになることは悪いことじゃないからな。ただ、そのやり方が間違っているのなら、先輩として正してやりたいだけさ。空野を糾弾したりはしないよ」
その言葉にクマはホッと息をついた。
自分が話したことで元クラスメートが仲間外れにされてしまうんじゃないかと心配しているんだろう。
良い子じゃないか。
だけど俺は一つ嘘をついた。
もし空野のやり方が、俺の友人の誰かを貶めるようなことであれば、俺も手段は選ばない。
全力で友人を守るし、全力で相手を責め立てる。
それは後輩であっても例外じゃない。
ただ単に誰かの後をつけてるぐらいなら、俺は何も言うまい。
どこかの誰かも同じことをしているからな、慣れたもんだよ。
でもそれが誰かの利益を害する行動にまで発展したなら、容赦はしない。
「ありがとうクマ、今日は助かったよ」
「い、いえ! また、いつでも連絡して下さい! お待ちしてます!」
「おう」
俺はクマと別れ、自宅へと戻った。
そしてその道中、LIMEにて葵さんへと連絡を送っておいた。
内容は、『明日、空野について話がある。俺の家に来ることは可能か?』だ。
明日は土曜日で学校が休みだから、丁度いいだろう。
…………今更ながらに思うが、先輩に対して送る文章ではないな。
随分と上から目線でモノを言っているように見える。
書き直した方がいいか…………などと思っていると、ピロン、と葵さんからすぐさま返事が返ってきた。
『私の辞書に不可能の二文字はないわ』
……いつからナポレオンになったんだこの人は。
中世に生きていそうなのはともかく、絶対に来れるという確固たる意志を感じるな。
さすがは葵さんだ。
『それじゃあ午後0時に待っている』
と、俺は返事を返しておいた。
少し早い気もしないでもないが葵さんなら大丈夫だろう、と携帯を仕舞うとすぐにピロンと通知音が鳴った。
携帯を見ると、ホーム画面に『分かったわ。午前10時ね』と予想の斜め上の回答が来ていた。
葵さんに、文字が読めない説か、1日22時間しかない説の二つの仮説が浮上してきたな。
俺的には葵さん1日22時間しかない説の方が、SF感を駆り立てられるから推奨したいところだが、これ以上調査項目を増やされても困る。
俺は『それで構わない』と送っておいた。
早く来てもらえることに越したことはない。
明日は他に用事はないからな。
またピロンと通知音が鳴った。
『午前8時、分かったわ』
…………恐怖を感じるな。
一人で何をチキンレースしてるんだこの人。
2時間ずつ短縮していくつもりか?
俺がオーケー出し続けたら、そのうち『今から行くわ』になるのか?
何という現代版メリーさんだろうか。
流石にこれ以上早く来られても逆に困る。
俺は『午前10時で頼む』とあらためて釘を刺しておいた。
その後の返信で『………………………………了解』と、文面からもガッカリしているのが分かるような短文が送られてきた。
空野の前に葵さんをどうにかした方がいいと思うのは、俺だけだろうか?
更新遅くて内容も短くてすいません……。