表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺はどうしても主人公にはなれない  作者: もぐのすけ
二年生 新入部員編
58/73

56話 佐久間三夏

 数日後、愛ちゃんに紹介してもらった子は佐久間三夏さくまみかという子で、みんなからは〝クマちゃん〟と呼ばれているそうだ。


 彼女はこの辺りの高校ではなく、少し離れた高校に通っているみたいだが、愛ちゃんが連絡を取ってくれたら直ぐにOKが出たようで、直ぐに日取りをセッティングしてくれた。


 俺は近所だと誰かしらに見られる可能性があるのと、俺からの要件であるために自分から彼女の高校の方へと出向いた。

 放課後、彼女の高校の校門のところで彼女が出てくるのを待っていたところ、帰宅するであろう生徒達からジロジロと見られた。

 別の制服を着てる生徒が校門入り口で待っていたら、やはり目立つのだろう。

 校門での待ち合わせは失敗したかもしれない。


「……あっ! 桐生先輩……ですよね!!」


 しばらくすると一人の女の子がこちらへ手を振りながら近付いてきた。


 愛ちゃんの卒アルで見せてもらった通り、頭に赤色のカチューシャを付けた可愛らしい女の子だ。

 間違いなく佐久間三夏だろう。


「佐久間…………でいいんだよな?」

「はい! そうです! でも佐久間じゃなくて、気軽にクマと呼んで下さい!」

「じゃあクマ、愛ちゃんから話が言ってると思うが、少し聞きたいことがあるんだ。大丈夫か?」

「もちろんです! さぁさぁ行きましょう!」


 やたらと好意的だな。

 話が進めやすい反面、多少怖さを感じるが……悪意のようなものはないだろう。

 彼女の優しさということにしておくか。


「桐生先輩と一緒に下校……! 何という優越感……!」

「ん? 何か言ったか?」

「い、いいえ! 何でもないです」


 何かボソッと言ったように聞こえたが……気のせいか。


 俺達は近くの公園へと向かうと、ベンチに腰掛けた。


「ほら、これ飲めよ」

「いいんですか!? ありがとうございます!」


 俺はあらかじめ買っておいたお茶をクマに渡した。

 たかがお茶でそこまで喜んでもらえるとは思わなかった。

 カバンの中に入れておくから炭酸はやめただけなんだが、正解だったみたいだな。


「ん……ん……っはぁ。おいしー」

「そろそろ本題、いいか?」

「あっ、はい。本題、お願いします!」


 クマは改まったように姿勢を正してこちらを見つめてきた。

 そんなに改まって聞くような話ではないんだがな。


「クマの中学の時の話になるんだが……」

「中学……ですか?」

「同じクラスに、空野日向という子がいなかったか?」

「え? あー……そういう……」


 何だ?

 なぜそんなに露骨にガッカリしたような顔になる。

 どんな話をするのかは、愛ちゃんから連絡がいっていたはずだと思うが。


「確かにいましたよ。ヒナちゃんですねー」

「ヒナちゃん…………仲良かったのか?」

「別に特段仲が良かったわけではないですけど、普通にクラスメイトとしては話してましたよ。桐生先輩もしかして…………ヒナちゃんのこと狙ってたりします?」

「そういうわけではないな」


 気になるという点ではある意味正解かもしれないが、それが好意から来るものでは断じてないな。

 そもそも空野とはそれほど親密になるほど話してはいない。


「たまたま同じ学校の同じ部活になったからな、先輩としてどんな後輩なのか知っておきたいんだ」

「あっ……なるほど……。同じ高校の同じ部活…………くっ、負けたっ……!」

「何に負けたんだ……」


 どうしたこの子。

 急によく分からんことを呟き始めたぞ。


「ヒナちゃんは……そうですね、普段は気が弱いというか、あまり前面に出るようなタイプではないんですけど…………」


 そこまで言ってクマは困ったように口を閉ざした。

 まるで、これを言ってもいいのかどうか迷ってる、といった表情だ。


「どうした?」

「いえ……ヒナちゃんなんですけど、夢中になると常識の見境がなくなるというか……ヒートアップし過ぎちゃうところがあるんですよね……」

「というと?」

「その…………知ってる人の間では有名なんですけど、ヒナちゃん、好きな人とかをストーカーする癖があって……」


 おっと、これは急に核心を突いた答えが返ってきたな。

 そりゃ口も閉ざすわけだ。


「2年生の頃に、ある先輩のことの後をずっと追けていたんです」

「それはどの程度のレベルのつきまといなんだ?」

「そうですね…………犯罪スレスレで、プライバシーをギリギリ侵害しない程度ですかね」

「基準が分かりにくいな……」


 なんなんだその常識はちゃんと分かってますよみたいなストーキングは。

 逆にタチが悪いだろ。


「その時はどうなったんだ?」

「ストーカーしてた人に彼女が出来たとかで、結局諦めてたみたいですけどね」


 やっぱり一線はしっかり引いてるな。

 本人に直接迷惑がかかっていないのなら、それほど気にすることでもないかもしれん。


 だが、そうすると空野が俺に痴漢被害を助けてもらったという件は、いよいよもって謎になってきたな。


「ちなみになんだが、そのストーカーしてた人っていうのは誰か分かるか? 先輩ってことは俺達の代の誰かのはずだが」

「それがですね……言いにくいことで愛ちゃんにも言ってないことなんですけど……」


 何で愛ちゃんが出てくるんだ?


「その先輩……桐生先輩とも一番仲良い人なんですよ」

「一番仲良い……? あっ…………まさか」

「はい。愛ちゃんのお兄さんの、加藤先輩です」


 なんてこった。

 そこに繋がっちまうわけか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ