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俺はどうしても主人公にはなれない  作者: もぐのすけ
二年生 新入部員編
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53話 一転して

 その日の部活は何事もなく終え、俺と桐生は同じ道を帰っていた。

 今回は海野先輩にお願いして、空野は海野先輩と美咲ちゃんが女子会という名の歓迎会を開くために同行させてもらっている。


 桐生と直接、空野について話し合うためだ。


「桐生は空野のことは知らないんだよな?」

「ああ、知らない。葵さんにも似たようなことを聞かれたが、何かあるのか?」

「そうだな……」


 〝空野はお前のストーカーだぞ〟


 これを本人に直接話すかは結構迷う。

 確定していない噂を裏で話すようなことは、あまりすべきではない行為だ。

 結果的にそれが間違いであった場合、マイナスイメージを植え付けかねない。


 いやまぁ、あの写真がある時点でストーキングしているのは間違いないんだろうけど、それで入ったばかりの後輩を迫害しようとするのは、何か違うよな。


 うん、少し濁して聞くか。


「空野は過去に桐生に助けられたって言ってたからさ」

「前にも言った通り、痴漢現場に助けに入ったことは俺にはない。空野は誰かと間違えてるんじゃないのか?」

「さすがにそれはないだろ」


 これが勘違いでしたなんて結果だったら、逆に俺は少しガッカリするわ。


「変な奴には見えないがな」

「そーなんだよな。パッと見は可愛い後輩なんだよ」


 朝の脅迫紛いのことがなければ、なお良しだったんだけどな。

 あの一件があってから、空野には裏の顔があるんじゃねーかと思うようになってしまった。


「とにかく、せっかく入った新入部員だ。先輩として、俺達が面倒見てやろうぜ」

「そーだなぁ…………」


 少し喉の奥に引っかかるものがある状態だけど……まぁいいか。




 それから2週間経った。


 あれから空野に変な動きは何もない。

 部室でも、普段の談笑に空野が加わっただけの、何も変わり映えのしない光景だ。

 特に、桐生がバイトでいない日でさえも空野は部室に来ていた。

 桐生のストーキングをしていないことに、俺は首を傾げた。


 外が暗くなったころには、海野先輩に望遠鏡を借りて一緒に空を眺めていた。


 一番星を観察したいと言っていたのは、あながち嘘じゃなかったのか?


 海野先輩もそれから何も言ってこないわけだし、気にしすぎる必要もないのかもしれない。


 そんなことよりも、俺は自分のことで手一杯になっていた。

 俺の彼女である里見と連絡が付かなくなっていたんだ。


 連絡を送っても既読はつく。

 だけど返信が来ない。

 電話を入れても留守番電話に繋がってしまう。


 こんなことは初めてだった。


 俺は思った。

 ついに来てしまったのかと。


 あの伝説の、倦怠期が。


 確かに最近はあんまりデートとか行けてなかったのは間違いないけど、こんなにも急に無視されるものなのかい。

 女心は秋の空とはよく言ったもんだ。

 気付いた時には愛想尽かされてるなんて、とんでもないよ。


 どうしよう。

 直接会いに行った方がいいのかな。

 行った方がいいよね。


 でも会いに行って、もう違う男ができたから別れてとか言われたら、俺ショックで大泣きするんですけど。

 そんなの絶対嫌なんですけど。


 一度桐生にそれとなく相談しに行った時は、待ってるだけじゃ何も起きないぞと釘を刺された。

 待ってるだけで何もしなくても何かが起きるお前が何言ってるんだ、と思わず反骨心からアドバイスを無下にしてしまったのが仇となってしまった感がある。


 こんなことならもっと早く行動に移すべきだった。


 すると突然桐生が、放課後の指定された時間に旧体育館へ来るように俺に言った。

 まさか旧体育館で俺の慰めパーティでも開いてくれるんかな。


 もうちょっと場所選んでほしいんですけど。

 あんなしんみりしたところでやられても、余計にしんみりするんですけど。


 結局、俺は気落ちしたまま放課後に旧体育館へと向かった。


 入り口まで近付いた時、中から誰かの話し声が聞こえてきた。

 声の感じからして……桐生か。


 俺はそっと入り口を開けて中を確認した。

 そこには桐生と海野先輩、それに空野がいた。

 なんか深刻そうな話をしているようだけど……何だ?


「……お前がしていることを、俺は見過ごすわけにはいかないな」

「していることって……何のことですか?」


 桐生が空野に対して詰めるように話していた。


「言わなきゃ分からないか?」

「………………」

「なら単刀直入に話してやるよ。キヨをストーキングするのをやめろ」


 ………………………………ん!? 俺!?


「ストーキングなんて……そんな……」

「してないなんて言わせないわ。もう裏は取れてるのよ」


 海野先輩が何枚かの写真をばら撒くのが見えた。

 ここからだと何が写ってるのかまでは見えない。


「この1週間、あなたが加藤君の後ろを付けていた写真よ。私が後をつけていたの、気付かなかった?」

「…………!!」

「まったく、最初は完全にミスリードされていたわ。あなたの目的は颯じゃなくて、最初から加藤君だったのね」


 ど、どういうことだ……!?

 俺が……空野にストーキングされてたって……そんなバカな!!

 だって空野は桐生に会うために部活に入ったって言ってたし……訳が分からん!!


「……いつから私が加藤先輩を見てたって気付いたんですか?」

「いいぜ、教えてやるよ」


 桐生は2週間前のことから話し始めた。

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