49話 赴き弄られ
「ということで、お前らには調査を頼みたい」
「何がということで、だ」
次の日の昼休み、俺は有馬、中西、長屋の3人を呼び出し、空野の調査を申し出た。
調査のスペシャリストと言ったら、やはりこいつらだろう。
土屋のスリーサイズまで調べてきた手腕、存分に発揮してもらいたい。
「珍しくお前から連絡が来たと思えば、こんなことかよ」
「俺達はお前の奴隷じゃないっつーの」
「今のジャイアンぽいな」
相変わらずピーピーうらさい奴らだ。
「俺達だってな、新学年になったしやることは多いんだよ」
「そうそう。桐生のラブコメに付き合ってるヒマはねぇ」
「他をあたりな」
「天条さん直筆の50%offクーポン券があるわけだが」
「「「それで、調査対象は誰だ?」」」
扱いやすくてありがとう。
こいつらの唯一良いところは、報酬さえ出せばそれに見合う働きをしてくれることである。
こいつらの場合は、クーポン券は使わずにとっておきそうだけど。
「対象は新入生。クラスは1年2組で名前は空野日向。小柄な可愛い女の子だ」
「小柄かー」
「小動物系の頂点は天条さんだけどな」
「なー」
いや知らんけど。
お前らの信者話は置いておくとして。
「彼女が何者なのか、それを調査してほしい」
「そりゃまた随分とアバウトだな。どんな情報でもいいってことか?」
「構わない。向こうは結構なストーカー気質があるらしいから、その辺りの動向が分かればなお助かる」
「オーケー。期日を決めようか」
「何も分からないのであれば、3日ってところがいいんじゃないか?」
「そんなに早く調べられるのか」
「当然だろ。俺達を誰だと思ってやがる」
「変態だろ?」
「「「ちげーよ!!!」」」
後は情報を待つだけである。
とりあえず俺はその足で海野先輩の元へと向かった。
海野先輩のクラスは確か…………3年1組だったか。
ここに海野先輩が……いらっしゃった。
まだ友達とご飯食べてるな。
そしたら少し外で待って……。
「あ、加藤君」
先輩がこちらに気付いた。
その目線に合わせるかのように、クラス内の男子女子の目がこちらに向く。
久々に感じるなぁこの感覚。
誰だアイツは、みたいな目で見られるこの感じ。
天文部に入った頃もよくあったけど、先輩のクラスに顔出したのは初めてだからか。
「ごめんなさい。少し席を外すわね」
そう言って海野先輩は立ち上がって、俺の方に近付いてきた。
「海野と仲良さそうだな……誰だアイツ」
「アイツは……」
「あれだよ、2年の加藤」
「ああ、アイツか」
おや?
ヒソヒソ話されてるけど、意外と俺のことが知られてる?
「海野さんと一緒にいるの、よく見かけるよね」
「うんうん、もしかして2人って付き合ってるのかな?」
ちょっとちょっとー。
やーめーてーよー女子ー。
海野先輩に迷惑だろー?
そんな付き合ってるなんてー。
「でも釣り合ってないよね」
「うん、お似合いではないね」
う、うるせーよ!!
「違ぇって。アイツはあれだよ」
「部活の後輩じゃないの?」
「いや、後輩っつーよりも……」
「ああ…………」
『金魚の糞』
「誰が金魚の糞だよ!!」
教室内がシーンとした。
思わず突っ込んでしまったが、ここにいるのはみんな先輩達だ。
この空気になるのも当然だろう。
それにしても金魚の糞はヒドくない?
的を射ているだけに厄介すぎる。
「ふふ、加藤君は相変わらず良いツッコミをするわね。みんな、彼は私の大事な後輩なの。あまりイジメないであげて」
「海野が言うならまぁ……」
「イジメてるつもりはないんだ、悪いな2年」
海野先輩の華麗なフォローにより、教室内の空気が爽やかになった。
流石です先輩。
「先輩、ありがとうございます」
「本当のことしか言ってないもの。お礼を言う必要はないわ。それよりも、例の関係よね?」
「ええ、こちらは調査をお願いしたので、3日後には分かると思います」
「そう……。それじゃあ私が颯に聞いたことを話すわね」
そこで海野先輩から聞いた話は、衝撃的な内容だった。