48話 嘘つき
その後、空野に入部届けを渡し、俺と海野先輩は帰宅することとなった。
授業自体無かったこともあり、まだ時刻的には15時ごろと明るい時間帯。
海野先輩と二人で帰宅。
普通ならば(以下略。
そんなことよりも、空野日向のことだ。
新学期早々に部室に訪れ、桐生に会いに来たという新入生。
行動力の鬼であることは間違いない。
「先輩は空野についてどう思いますか?」
「利発的で良い子だと思うわ」
「綺麗に買収されてんじゃないすか」
ダメダメかよこの部長。
世代交代待ってます。
「ちなみになんですけど、空野に渡された写真には何が写ってるんですか?」
「気になる? 気になるわよね。どうしようかしら」
「いや、なんで俺に対して駆け引きしてるんですか」
「あげないわよ」
「いらんわ!」
海野先輩が3枚の写真を見せてきた。
そこに写っていたのはやはりというか、予想通りというか、桐生のプライベート写真だった。
ハンバーガーを頬張っている桐生。
アルバイトをしている桐生。
通学途中の桐生。
どれもベストな角度から撮られている。
ピントが綺麗に合い、自然体な桐生が写っていた。
というかこれ…………盗撮じゃね?
全てカメラ目線ではない。
隠れてこっそり撮ったとしか思えない。
「プロの技ですね……」
「私でも、これほど綺麗で自然な颯は撮影できないわ。あの子、やり手よ」
海野先輩にそこまで言わせるとは……空野日向、恐るべし。
……………………。
…………………あれ?
でもこれって、おかしいよな……?
「先輩、さっきの空野の話、おかしくないですか?」
「おかしい……?」
「さっき空野は、痴漢に遭っていたところを桐生に助けられて、高校に入学してから初めて桐生がいることを知ったって言いましたよね」
「そうね」
「それなら、なぜ彼女が私服姿の桐生の写真を持っているんですか?」
海野先輩も気づいたようだ。
彼女が痴漢に遭っていたところを助けられた日から桐生と一度も会っていなくて、今日偶然桐生がこの高校にいることを知ったなら、私服の桐生の写真を持っていることは、辻褄が合わないんだ。
なぜなら桐生は今日、私服にはなっていない。
制服のまま、美咲ちゃんのアルバイト先へと向かっているはずだからだ。
そもそも帰る途中を撮っていたとしても、時間的にあのタイミングで写真を持っていることは不可能だ。
「助けられた日に、後を追って撮った可能性はないかしら?」
「それもたぶん無理です。痴漢を駅員に引き渡したなら、間違いなく警察沙汰になっているはずです。そうなると被害者である空野は、事情聴取のために何時間も警察署に拘束されます。そうなれば桐生の後を追いかけるのも無理でしょう」
「なるほど……。さすが加藤君、痴漢に関して詳しいわね」
「なんで俺犯罪者みたいな呼ばれ方してんの!? 今そんな話してなくね!?」
痴漢なんてしてないから!
発言一つで社会的に死ぬ恐れがある世の中怖すぎるわ。
「登校中の写真は、今日撮った可能性もあるわけよね」
「いえ、たとえそうだとしても、話とは矛盾が生じます。結局のところ、空野が話した内容には嘘が混じっているのは間違いありません」
「あるいは全てが嘘……」
真偽を確かめるには、俺達だけでは判断できない。
桐生に直接心当たりがあるか聞くか、空野に直接問いただすか。
どちらにせよ、彼女はくせ者だ。
「海野先輩、とんでもない奴を入部させましたね」
「まさか私を欺いてくるなんて……。面白いじゃない。相手してあげるわよ」
おお…………邪悪な笑みを浮かべてらっしゃる。
悪女が出てきたな。
「力を貸しなさい、加藤君。彼女の正体を暴くわよ」
「え……俺も参加するんですか?」
「当たり前でしょ。あなたは次期部長なんだから、部員の把握は当然だもの」
「…………分かりましたよ。それで、俺は何をしたらいいんですか?」
「空野さんの身辺調査をお願い」
「そんな探偵じゃないんですから……」
と言いつつも、身辺調査のプロ達がいることを俺は知っていた。
「分かりました、何とかしてみます。海野先輩はどうするんですか?」
「颯に直接聞いてくる」
…………それって先輩が桐生に会いたいだけじゃね?