47話 空野日向
まさか新入生がこの部にやってくるとは……!
こんな帰宅部よりもダラダラしてて形骸化しているこの部活に……!
「と、とりあえず入ってよ。いいですよね? 海野先輩」
「構わないわ」
俺は『空野』と自己紹介した女の子を通し、椅子に座らせた。
正面には海野先輩だ。
なんか面接みたいな形になってしまったけど、概ね間違ってはいないから大丈夫だろう。
「はじめまして。私が天文部部長の海野葵と言います」
「あ、えと、空野日向です……。1年2組です」
「空野さんね。とりあえず、何故この部活に入ろうと思ったのかしら?」
そうだよね。
まずそれが気になるよな。
だって今まで女子の入部って、美咲ちゃん以外にいなかったし。
男はいっぱいいたけど、海野先輩が弾いてたしね。
「私…………桐生さんに会いたくて来たんです!!」
ピクリと海野先輩の眉が動いた。
しかし表情は変わらず平静。
でもきっと内心動揺してる。
だって俺も動揺してるもん。
はい、それじゃあ皆さん、いつものようにご唱和下さい。
せーの…………お前もかよおおおおおおおお!!
「颯と何か関係があるのかしら?」
「は、はい! 実は私、去年の夏に桐生さんとお会いしたことがありまして…………ーーーーーーー」
要はこういうことらしい。
電車に乗っている際、痴漢に遭っていたところを桐生が助けてくれたそうな。
桐生はその男を取り押さえ、駅員に引き渡したあとに立ち去ってしまい、お礼を言うことも名前も聞くことができなかった。
ところが、この学校に来る時に桐生を見かけ、有名人だったことから直ぐにどの部活に所属しているのか知ることができて、放課後に思い立って来たんだと。
なんっじゃそりゃ。
何でそういう現場に居合わせるかな奴は。
俺なんか逆に冤罪をかけられないかビクビクしているというのに。
「な、なので私、桐生さんと一緒の部活をしたいと思いまして……!」
「…………動機が不純じゃないかしら」
「え……?」
お……っと?
ちょっと冷たい感じだな。
まぁ何故かは分かるけど。
「失礼だけれど、ここは天文部なの。星座を見たり、星の動きを確認したりする部活動なの。あなたのように、特定の男性と仲良くなりたいからといったような不純な動機で部活に入ろうとするのは、間違っているんじゃないかしら」
理路整然と言ってるけどさ。
どの口が言ってんの?
あなたも同じ穴のムジナだよ。
「そんな人を部活に入れたいとは思わないわ」
「そ、そんな…………!」
あらら……。
入れないって言い切っちゃったよ……。
せっかくの新入部員だから個人的には欲しい気がするけど、確かに動機としてはちょっとおかしいよな。
「全く……。これまで貴方のような人を何人断ってきたか……」
………………ん?
ちょっと待て。
いま聞いてはいけない一言を聞いてしまった気がするぞ。
「海野先輩」
「何?」
「今までこの部活に女子の入部希望者が現れなかった理由ってもしかして……」
「なんのことかしら」
こ、この人……!!
堂々ととぼけやがったよ……!
まさか桐生とのプライベート空間を作るために、創部の最低人数しか入れなかったのか……!?
「入部希望者がいなかったんじゃなくて、先輩が全部断ってたんですね……!」
「違うわ。入部希望してきた子達に、この部活がいかに過酷で残酷な所か教えてあげただけだもの」
「ここは地獄か!?」
強いて言うならアンタが一番残酷だよ!!
「そういうことだから、申し訳ないけどお引き取り願えますか?」
「………………っ!」
何がそういうことなのかは分からんが、やっぱり空野は入れないみたいだな。
ちょっと残念。
「仕方がありません……。海野部長、これを見てください」
そう言って空野は、カバンから一枚の紙を机の上にスッと差し出した。
紙というよりこれは……写真か?
裏返しだから何の写真かは分からないけど……。
海野先輩がそれを手に取り表を見た瞬間、両目がカッと見開いた。
「こ…………これは……!!」
「よろしければ、それは差し上げます。そして、もしも私を入部させていただければ……もう2枚、お渡しします」
海野先輩の目が泳いでいた。
何だこれは。
何の現場だこれは。
「……海野先輩?」
「……加藤君、やっぱり人数は多い方が楽しいと思わない?」
「は?」
「空野さん、あなたの入部を許可します」
買収されたああああああああ!!!
こ……この人あっさり買収されたよ!!
たぶんこの写真、桐生関係だろ!
つーか何でこの子はそんな写真持ってんだ!?
「やった! よろしくお願いします!」
「ええ、よろしくね空野さん」
波乱の予感しかしねーよ!!