46話 新学年
4月。
春休みが終わり、新たに2年生へと進級した。
高校生活で最も楽ができる期間であると言えよう。
学校生活にも慣れ、3年生のように受験勉強に追われることがない最高の学年だ。
人生で最も青春を謳歌できる年代だと言っても過言ではない。
そしてクラス替え。
俺は奇跡的に桐生と同じクラスになることができた。
それに鷹山高校のアイドル、天条美咲ちゃんも一緒だ。
3バカとは離れたが、それはどうでもいい。
順風満帆な高校生ライフが待っていると言えよう。
だけれども。
それでも。
断じて。
これからの学校生活に問題が生じないかと言えば、それは否だ。
まずクラス分けについてだが、俺は奇跡的に桐生や美咲ちゃんと同じになったと表現したが、桐生からすればこんなん必然だ。
物語を動かすために、自分の周りに登場人物が配置されるのは当然のことなんだからな。
いや、別にそれについては不満とかそういうのはないんだ。
実際のところ、嬉しいしな。
ただ、今まで桐生の周りには嫌というほどラブコメが転がり込んでくる。
俺はそれを散々見てきたわけだ。
美咲ちゃんや海野先輩の絡みだけじゃない。
他クラスの女子とも、ちょこちょこそんな雰囲気が出ていた。
俺が全てを見てきたわけじゃないけど、俺が見てきただけでも多くあったのだ。
実際はその倍以上あるはず。
現に見てくれ。
新学期早々だというのに、人の集まりが二極化している。
男子は美咲ちゃんの元に。
そして女子は桐生の元に集まっている。
みんな我先に仲良くしようと必死である。
分かる。
気持ちは分かるよ。
俺も天文部に入ったばかりの時はそんな感じだったから。
痛い目見るまでは滑稽なマリオネットだったから。
だから一番良いのは、その他大勢の人達と一緒に美咲ちゃんの周りに群がれば何を気にするでもなく楽しく一喜一憂できると思うんだよ。
でも、今の俺は1年間あの人達に振り回されたおかげで達観したような気持ちなわけ。
だから今も自分の席に座って、頬杖をつきながらその光景を眺めているわけよ。
あー楽しそうだなぁ……みたいな。
まぁ桐生が羨ましくないと言ったら嘘になるけどさ。
俺だって女子からちやほやされて、しょうがねえな……みたいな事言ってみたい願望はあるからね。
男として。
でもまぁ当然無理なわけで。
学年が変わったからといって何かが変わるわけでもなくて。
今後はこの光景を毎日見ることになるわけで。
グダグダと話を引き伸ばしてみたけど、最終的に俺が何が言いたいのかと言えば……。
学年が変わったぐらいで俺が主人公になれるわけがない!!
※ ※ ※
「そういうわけで、俺はクラスでハブられてるんですよ〜。ヒドイと思いません?」
俺は放課後天文部の部室に寄り、先に来ていた海野先輩に愚痴をこぼしていた。
桐生と美咲ちゃんはそれぞれ、バイトがあるということで早々に帰宅した。
「そうね。これ以上、颯に悪い虫がつくと大変だものね」
「あれ……? 今そういう話でしたっけ」
俺がかわいそうという話はどこに?
「2人は今日バイトかしら?」
「そうですね。先に帰りましたよ」
桐生がいなくて残念でしたね、なんて言おうものなら心をへし折られる勢いで言い返されるから、心にしまっておいた。
高嶺の花ならぬ、鷹嶺の花こと海野先輩と2人きりというこの状況。
人が人なら興奮待った無しだ。
だがそこは百戦連敗のこの俺。
ダラダラとソファに寝っ転がって惰性を貪ることに尽力を尽くしている。
「惰性君。失礼、間違えたわ。加藤君」
「そんな間違え方あります!? 一文字も合ってないじゃん!」
「今年で私は3年生、貴方達は2年生になったわけだけれども」
「聞いちゃいねぇ……」
俺はそのまま寝っ転がったまま、海野先輩の話を聞くことにした。
「私はこれから受験勉強で忙しくなるから、あまり部活には来れなくなるかもしれないわ」
「え、そうなんですか?」
海野先輩なら勉強なんかしなくても良い大学に行けそうな気はするけど……。
でも普通はそうか。
他の部活でも3年生は引退だもんな。
「だから次の部長を決めようと思っているのよ」
「部長……」
世代交代、か。
そう考えると寂しくなる。
海野先輩、美咲ちゃん、桐生がいて天文部というイメージだったから、誰かがいなくなることを全く想定していなかった。
「それなら桐生しかいないですね。あいつなら責任感もありますし、リーダーシップも持ってますから」
「私はあなたを指名しようと思っているわ」
……………………なぬ?
…………なぜに俺?
「お……俺じゃダメですよ。責任感とか無いですし」
「そうね。確かに責任感もリーダーシップもカリスマ性も颯の方があるわね」
「いや……いざそうやってズバッと言われるとクルものが……」
しかもカリスマ性まで追加されてるよ。
「でもね、貴方は誰よりも面倒見が良いのよ。私や美咲や颯といった、一癖も二癖もあるような人達と、最後まで一緒にいるんだもの」
癖があると自覚はあったのか……。
でもそれは、ただ単に俺が自分の居場所を失いたくなかっただけで、みんなのことを考えていたわけじゃない。
面倒見が良いとは言えない。
「加藤君はそれが面倒見が良いことだとは思っていないと思うわ。でもね、それは受け手がどう感じたか次第なの。私達がそうだと言えば、それは事実なのよ」
「…………そういうものですかね」
「そういうものよ」
なんか無理矢理押し切られてる気もするけど…………海野先輩に認められているようで、悪い気はしない。
「……考えておきます」
「ええ。今すぐという話ではないもの。たくさん考えなさい」
天文部部長か……。
響きはいいね。
海野先輩とその話を終えた直後、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「はいはい。今開けますよっと」
ガラガラと俺がドアを開けると、そこにはこじんまりとした可愛らしい女の子がモジモジしながら立っていた。
見たことがないな。
どこのクラスの人だ?
「どういったご用件で?」
「えっと…………ここって天文部でいいですか?」
「そうですよ」
なおもモジモジと恥ずかしそうに話す女の子。
え、俺ズボンのチャック開けっぱなしだっけ?
あ、大丈夫だ。
「えっと……私……今日入学してきました……。その……空野日向って言います……」
「あ、はいどうも。2年の加藤です」
何だ新入生か。
どうりで知らないわけだ。
ん? 新入生?
「あの……私…………天文部に入部希望です……!」
マジか!!